傷口に注ぐGINのようだね
胸がいたい 胸がいたい
出典: 夏のクラクション/作詞:売野雅勇 作曲:筒美京平
恋に破れて辛く苦しい胸の内、その痛々しいイメージが「傷口に注ぐGIN」「胸がいたい」と具象的に示された後、有名なサビが来ます。
夏のクラクション
Baby もう一度鳴らしてくれ In My Heart
夏のクラクション
あの日のように きかせてくれ
跡切れた夢を 揺り起すように
出典: 夏のクラクション/作詞:売野雅勇 作曲:筒美京平
失恋を経験した人なら誰でもこの痛み、わかるはず。
タイトルの「夏のクラクション」とは、去って行った恋人に、戻ってきて僕の胸で愛を囁いてくれ、という復縁の切なる願い。
クラクションはそのシンボルです。
そしてサビ頭の「夏のクラクション」を「夏のぉーぉー クラクション」と伸ばすところがキャッチー!
失恋の痛みと追憶をさらに深く重く強調!
3年経ってもカノジョを忘れられない男の心境
ツーコーラスでは、復縁を、またはかつて愛した恋人を想う「僕」の状況が詳しく描かれます。
海沿いのカーブを二つの夏過ぎて
今年も一人きりさ
出典: 夏のクラクション/作詞:売野雅勇 作曲:筒美京平
「二つの夏を過ぎて」「今年も一人きり」なら、「僕」は失恋して3年目の夏ということ。
まだ新たな恋人は見つかっておらず、と言うことは3年前に別れたカノジョを思い続けている、ということになります。
かなり切ない、涙ぐましい状況です。
その切なくも女々しい心を刺激するのは、ワンコーラスではGINでしたが、ツーコーラスではもっと鋭くリアルに描き出します。
傷跡に触れたまるでKNIFEさ
瞳閉じる 瞳閉じる
出典: 夏のクラクション/作詞:売野雅勇 作曲:筒美京平
傷口にGINは超痛い!
だけど、痛いといってもせいぜい染みるだけ。
しかし、傷跡にKNIFEとなると染みるだけじゃすみません。
傷は切り裂かれ、切り開かれて取り返しの付かぬことに。
3年前の夏に別れたカノジョを想う「僕」の心境は、癒えることなく、その悲哀はますます深く重く沈潜しているよう。
辛いですね。
甘やかなリードギターの響きが泣けてくる
そしてツーコーラス目のサビはこうです。
夏のクラクション
Baby もう一度鳴らしてくれ In My Heart
夏のクラクション
風に消されて もう聴こえない
Leave Me Alone (So lonely summer days)
出典: 夏のクラクション/作詞:売野雅勇 作曲:筒美京平
「風に消されて もう聴こえない」は、実際にカノジョの声を忘れてしまった、ということでしょうか。
もはやその姿さえ忘れてしまい、女性を愛した想い出だけが痛く胸に刻みつけられている、とも解釈できます。
失恋3年目です。恋した記憶は鮮やかに残っていても、細部はぼやけていきます。
最高に“痛い”のは、最後の英語のフレーズです。
「Leave Me Alone (So lonely summer days)」
直訳すれば、“僕ひとり取り残された とっても淋しい夏の日々”。
この曲の「僕」がこのあと、海に身投げしないことを祈るばかりです。
ただ、こんな悲痛な歌詞なのに、メロディにはリゾート・ビーチのやんわり涼しげなムードが漂うのです。
日焼けした肌の余熱をクールダウンしてくれる、サマーブリーズのように。
この作曲は御大・筒美京平!
日本の歌謡曲、ポップス、ロック、演歌すべてのジャンルで名曲を残している、最大の作曲家。
名曲はあまりにも多いのでリストアップしませんが、そんな筒美京平が作ったこの曲は、逆に失恋男の悲哀を大いに高めています。
まさにミスマッチの効果!
さすがとしか言いようがありません。