青春は"はかなく"はない

藤原基央の歌詞には「君と僕」「情景描写」が交互に現れる特徴があります。

多くは思春期の恋愛経験であり、ほぼ全てが思慕の想いです。

たとえ成就しなかったやり取りでも、二人の間の強い絆が読み取れます。

そういった関係性こそ、人生を歩む道標だ。空に輝く星座なのだ。

BUMP OF CHICKEN楽曲には、思い出さえ未来の指針となることが示されています。

青春の出来事を儚い思い出として描く作品が、アートの世界では少なくありません。

この曲は、思い出を凛として肯定しています

青春は、"はかないもの"ではないのです。誰のものであっても

それは宇宙の中で、輝く4つの星となって、行くべき先を指し示し続けるのです。

"黙ったままの指切り"がメタファー

恋愛の曲で"相手から一方的に想われた"内容の作品は、ほとんどありません

ほとんどが"自分だけの片想い"か、"発展中の男女のやりとり"と言えるでしょう。

これには大きな理由があります。

多くの人が強烈に共感できる設定が、"甘酸っぱい恋の切なさ"だからなのです。

思春期に思い通りの異性を次々と獲得した人などはなく、多くは"秘めた想い"で終わります。

届かぬ想いは個人の意識の中で昇華され、美しいアイコンに変わります。

これを賛美する内容なら、さまざまな設定に合致するため広い共感を得られます。

サザンクロス」では、"黙ったままの指切り"がその象徴となっています。

つまびらかにやりとり出来なかった相手との想いが、この一言に結晶しているのです。

コード進行は初心者向け

レギュラーチューニングの基本形

では、「サザンクロス」のコード進行を見てみましょう。

アレンジと演奏が高レベルなので難しそうに聴こえますが、ギター奏者なら基本の形ばかりです。

Am7     Fadd9 C 
その胸にしまった火に憧れた
Dm7 C D Gsus4 G
飲み込まれて消されてしまいそうで
C  Fadd9 G Am7
夕焼けみたいに暖かくて
G    C   Fadd9 C
寂しくて強かった その火に

Dm7  C
心全部見せてくれた
Fadd9 Gsus4 G
何ひとつ 出来なかったのに

出典: サザンクロス/作詞:Motoo Fujiwara 作曲:Motoo Fujiwara

C   Fadd9   G
どんな今を生きていますか
Am7    C    Fadd9 G
好きだった唄はまだ聴こえますか
C   Fadd9   E
くしゃみひとつで笑った泣き顔
Am7  G  Fadd9 Cmaj7
離れても側にいる気でいるよ

出典: サザンクロス/作詞:Motoo Fujiwara 作曲:Motoo Fujiwara

循環コードの典型

松任谷由実の「瞳を閉じて」もそうですが、"希望"のコード進行です。

クラシックならバロック音楽や教会音楽で使われる循環コード

もちろんロックやポップスでも、明るい曲調なので人気があります。

ギター初心者にハードルになる、人差し指で6弦全て押さえる「バレー」が要りません。

エレクトリックならディストーションをかけて、高音4弦で済みます。

演奏テクニックがものを言いますが、練習次第でそっくりに弾けるでしょう。

どうして爽やかに聞こえるのか

ロックの一般的ボーカルとの違い

ロックのボーカルでは、ディストーション=歪みが好まれます。

大御所ミック・ジャガーはもちろんポール・マッカートニーでさえ、サビでは喉を絞ります

パンクならSEX PISTOLSのように、最初から最後までガラガラ声でがなっています。

BUMP OF CHICKENのボーカル藤原基央の声は、実にクリア

元々しゃがれているわけでもなく、サビで喉を絞ることもありません。

でも、"バンプ"がロックっぽく聴こえない理由は、これではありません。

ロックのボーカルでは、メロディ途中の長音符にバイブレーションをかけません。

藤原基央の歌唱法では、ここにバイブレーションがかかっています。

これは意識したものではなく、おそらく自然にかかるのでしょう。

山下達郎にも、"ちりめんバイブレーション"と呼ばれる細かいニュアンスがあります。

彼の歌唱がR&Bっぽいのは、こういう部分なのです。

本当は「U2」か「レッド・ツェッペリン」

"バンプ"がロックであることは、そのアレンジからも明らかです。

サザンクロス」のイントロでは、エフェクターで歪んだメジャー+9thが炸裂。

すぐにサイドギターのサブリフがアルペジオっぽく響きます。

U2」がほぼ全ての楽曲で使っているボイシングですが、その模倣ではありません。

何故なら、ヘビーメタル以外のロックでは、このスタイルは"古典"だからです。

レッド・ツェッペリン」も「YES」も「POLICE」も、基本はこの形。

深いディストーションをかけたテーマ和音のあと、構成音の単音リフから入ります。

ベースが根音ではなく、和声から入るのもプログレの手法です。

これはプロデューサーからの指示ではなく、どうやら彼ら自身のスタイルのようです。

ファンが骨太だと感じる所以のように思われます。

メロディとコードは王道