Royal Scandalが描く狂気と悲しみ『ファントムペイン』
シアトリカルなライブ演出で観客を魅了するRoyal Scandal。
彼らの音楽と若手俳優陣による演劇を融合させたライブシアターは、好評のうちに閉幕となりました。
今回ご紹介する曲はRoyal Scandalの第6章『ファントムペイン』です。
一方で、MVを観ずに音だけ聴いても世界観が痛いほど突き刺さります。
後者を選択した方のために、設定やストーリー解説は後回し!
『ファントムペイン』の物語を紐解きます。
LIVE THEATER『Royal Scandal~秘恋の歌姫[ディーヴァ]~』公式サイト
LIVE THEATER『Royal Scandal~秘恋の歌姫[ディーヴァ]~』2018年11月、品川プリンスホテル クラブeXにて公演!
痛みよりも愛を選ぶ
だから、こんな女(アタシ)を許して。
ひとり啼き濡れる、この蜜の花。
でも愛した貴方の気が済むのなら、
この痛み……受け入れるわ。
出典: ファントムペイン/作詞:奏音69 作曲:奏音69
歌詞からテーマが見えてきますね。
この曲は男性から女性への暴力、さらにいえばDV(配偶者暴力)を主題としています。
暴力を受けて許しを請う女性。きっと「お前が◯◯だからだ!」ともっともらしい理由に基づいた暴力なのでしょう。
しかしDVは往々にして「作り出された理由」「こじつけ」「腹いせ」から生まれます。
だから女性は許しを請いつつも、満足するまでやればいいと歌っているのです。
なぜなら、愛ゆえに自分を求めていると感じるから。そして愛ゆえに男の感情を受け止めたいから。
この二人は共依存関係にあるといえますね。
女性に依存している男性は彼女の蜜を貪っている、つまりは甘えているのでしょう。
二人の「女」
暴力を振るう男性と、振るわれる女性。
そしてもうひとり、とある女性の存在が浮上します。
負の連鎖は止まらない
今夜はもう少しだけ酔忘(ヨワ)せて。
一杯(ヒトハイ)が痛みを和らげるの。
出典: ファントムペイン/作詞:奏音69 作曲:奏音69
「今日はもうやめておきなよ」
そんな声が聞こえてきそうな歌詞ですね。
店主の言葉に耳を傾けつつも、席を立とうとはしません。
アルコールの力を借りたら、記憶は消えずとも一瞬だけ嫌なことを忘れられます。
だからといって浴びるように酒を飲む必要はないようですね。
おそらく店主は彼女が置かれている状況を知っているのでしょう。
知っていながら何もしてあげられないことに罪悪感を抱いている可能性もあります。
あと少しだけ飲めば楽になれる、と言われてしまえば許すしかありません。
愛してる、許せない。
忘れたい、離れられない。
そうやって遺った傷痕が、この夜もまだ痛むのよ。
出典: ファントムペイン/作詞:奏音69 作曲:奏音69
愛ゆえとはいえ、暴力を振るうことは絶対悪です。
他人に見えるような場所に傷がつけば、皆が心配するでしょう。
事態を食い止めようとする関係のない人を巻き込む可能性もあるのです。
もしも他に家族がいれば、常に恐怖に怯えた生活を送らなければなりません。
ですから心の中はきっと怒りに満ちています。
しかし一方で、相手は反省しているようだから今までのことは水に流して……、と思うこともあるのでしょう。
DVは、相手が反省の態度や謝罪を見せるからこそ終わらないのです。
しおらしい態度を見せられたら最後、やっぱり彼には自分が必要だと感じてしまいます。
この連鎖が止まらないから、彼女の身体に傷が増えていくわけです。
「遺」という言葉から、この傷が永遠に消えないものなのだと分かります。
傷は体だけでなく心にもあり、人の暖かさに触れたときにズキッと存在を主張するのかもしれません。
どうか娘が守られますように
ねぇ、こんな女(アタシ)を許して。
殴りつ蹴る声と、悲鳴(カナシメ)る声。
出典: ファントムペイン/作詞:奏音69 作曲:奏音69
二人は夫婦であり、愛娘がいることが分かります。
娘の前で「お前みたいな女は」と暴力を振るわれているのでしょう。
「私」ではなくあえて「女」と書いているのはなぜでしょうか。
父親は女性の「母」としての側面ではなく「女性」としての側面を対象に、暴力行為を行っているのだと読み取れます。
つまり、女であれば誰でも父親の暴力被害に遭う可能性がある、と考えられないでしょうか。
母親が痛めつけられる様子を見て、娘は叫ぶことができません。
母親に止められているのかもしれませんね。なぜなら父親の拳が娘に向くことを恐れているのです。
できることは、虫や小動物のように小さく「鳴く」ことだけなのでしょう。