ツーコーラスで明らかになるシングル・プレイの意味
メランコリックなボサノバのリズムに陶酔
この曲のタイトル「ロング・バージョン」、そして中に出てくる「シングル・プレイ」の意味をうんぬんするツイートや質問がネットによく出ています。
一般的に使われる“ロング・バージョン”とは、歌やドラマや映画(DVD)などの、通常版、つまりスタンダード盤に対して長い特別仕様のものをいいます。
歌なら別アレンジで伸ばしたり、映画なら未公開シーンを加えて再編集したものがそれ。
ただこの歌詞に出てくる「ロング・バージョン」は意味が違うようです。
その意味するところは、シングル・プレイの意味にあります。
ツーコーラスめの歌詞を以下に。
コピーのシャガール壁に
白いシーツ 素肌に巻いて
君はあの日 遊びでいいと
酔った俺の手を つかんだ
出典: ロング・バージョン/作詞:湯川れい子 作曲:安部恭弘
この歌詞でハッキリ見えてくるのが、男女の明確な関係です。
「君はあの日 遊びでいいと」「酔った俺の手を つかんだ」ということは、この男女はずっと恋焦がれて告白した、というような10代の男女ではない。
どこかの酒場で飲んで、酔ったあげくに一緒になってしまった大人の男と女。
女は男に「遊びでいい」と言ったわけですから、当然、ふたりの恋はワンナイト・ラブ。
それが“腐れ縁”、つまり何度も逢瀬を重ねるような、深い仲になってしまった。
また、女は男を相手にするような夜の女だった可能性も。
そうなると、この曲はいっそうアダルト感が増して、18歳未満お断りになります。
さあ、ここまで読めたら、サビで登場する「シングルプレイ」の意味が、おのずと分かってくるはず。
シングル・プレイのつもりが
いつか気付けば
ロング・バージョン
似たもの同志のボサ・ノヴァ
ちょっとヘヴィーめな
ラブ・ソング
出典: ロング・バージョン/作詞:湯川れい子 作曲:安部恭弘
歌の中で使われる「シングル・プレイ」は、ひとり遊び、の意味ではありません。
1回だけのプレイ、つまり一度きりの逢瀬という意味ですね。
それが「いつか気付けば ロング・バージョン」。
つまり、一度きりのプレイのはずが、長くつきあうロングなバージョン(関係)になってしまった。
どうしてそうなってしまったのか?
それはふたりが、「似たもの同志」だったから。
酒場でちょっと意気投合して、寝ようか、となったけれど、意外に相性が良いのがわかって、ついずるずると何度も関係を持ってしまった。
そうです、なかなかリアルな大人の恋愛事情を、ある意味、ねっとりと描いているわけです。
なので、曲の付け方によっては、ド演歌やムード歌謡になってもおかしくない。
それが、いい感じのメランコリックなAORになったのは、作曲者の安部恭弘と編曲者の井上鑑のナイスなコラボレーションのおかげです。
演歌風シチュエーションとボサノバの幸福な出会い
ボサノバ好きと名アレンジャーがベストマッチ
安部恭弘(あべ・やすひろ)は慶應義塾大学時代より音楽活動を始め、杉真理や竹内まりあらと交流。
彼らのコンサートのバックアップなどを経て、1982年にシングルデビュー。
彼はボサノバが好きで、ボサノバ調の曲ばかり作っていたため、「ボサアベ」と呼ばれたほど。
「ロング・バージョン」は湯川れい子の歌詞に「ボサ・ノヴァ」と出てくるので、それで曲調をボサノバにしたのかもしれませんが、作曲者自体の好みも反映されていたようです。
またそれを見事なAORにアレンジした井上鑑(いのうえ・あきら)の功績も忘れてはいけません。
AORとは、アダルト・オリエンテッド・ロックの略称で、1980年代に流行っていた音楽ジャンルで、オシャレで洗練されたサウンドが特徴。
当時のJ-POPや歌謡曲、ニューミュージックより、ちょっとハイセンスで都会感覚のナンバーは覚えやすく、大人びた感じ。
洋楽でいうなら、ボズ・スキャッグスやボビー・コールドウェルなど。
邦楽ならば大ヒットした「ルビーの指輪」の寺尾聰や杉山清貴あたり。
井上鑑は、寺尾聰の「ルビーの指輪」の編曲者で、この曲が収録されたアルバム「Reflections」のプロデュースを担当。
当時このアルバムはめちゃくちゃ大ヒットして、1981年の年間チャートでは堂々の第1位。
井上鑑は最近では「家族になろうよ」など福山雅治の楽曲を担当しています。
稲垣潤一とは「エスケイプ」「夏のクラクション」「バチェラー・ガール」などで組んでいて、稲垣サウンドを知り尽くしています。
そういうわけで、ボサノバのテイストと井上鑑のフィーリングが幸運にも溶け合って、「ロング・バージョン」は見事な大人のボサノバAORになったのです。
2ndアルバム「SHY LIGHTS」そしてベスト盤に収録
大人の恋愛シーン、その官能的なてん末を聴きまくれ!
稲垣潤一6枚目のシングル・レコードとして発売された「ロング・バージョン」。
ですが、1983年11月にシングル化される前、同年2月1日発売の2ndアルバム「SHY LIGHTS」に「ドラマチック・レイン」等とともに収録されました。
それがCMソングに起用されるのを機にシングルカットされて、稲垣ファン以外にも知られるように。
今や稲垣潤一のスタンダードナンバーのひとつです。
その後、この曲は「TRANSIT」に収録され、以後リリースされる稲垣潤一のベスト盤には必ず収録されています。
華やかだった1980年代のジャパンAORのサウンドに浸るなら、「ロング・バージョン」を是非!
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