イムジン河 水清く とうとうと流る
出典: イムジン河/作詞:朴世永 訳詞:松山猛 作曲:高宗漢,加藤和彦
歌の主人公の前には先程とは何も変わりなく、河が流れています。
主人公が立っている地と、河の向こう側を隔てていることを知るはずもない河。
だからこそ「清く」澄んだ水が悲しいのでしょう。
綺麗に見える水だけれど、それは涙の色を表しているように目に映るのです。
この場所で主人公が落とした涙が流れる河。
涙で河の水量も増えてしまったのでしょうか。
今日も「とうとう」と滞ることなく流れています。
そして歌詞は「流る」と終止形で結ぶのです。
河は流れているけれど、今の辛さや悲しみはいつか終わる。
そのような願いが込められているのでしょうか。
自分にもしそれがあれば
つながっているから
北の大地から
南の空へ
飛びゆく鳥よ 自由の使者よ
出典: イムジン河/作詞:朴世永 訳詞:松山猛 作曲:高宗漢,加藤和彦
主人公は再び河の向こうの地に視線を移します。
自分が立っている地面がつながっているように、空もつながっている。
そして主人公の心を知ったように、鳥が空に飛び立ちました。
主人公は空を見上げて鳥の姿を追いかけます。
北と南を隔てる河を、あっという間に飛び越えて向こう側の空を飛ぶ鳥。
翼があれば自分もあのように飛べるのに。今すぐにでも河の向こう側に行けるのです。
歌の主人公は自分の思いを翼に託したい、「使者」になってと願います。
何にも邪魔されずに、この河を渡ることができるように伝えて欲しい。
翼を使って飛ぶのなら、きっとその願いを叶えてくれると祈るのです。
抗えないこと
だれが祖国を
二つにわけてしまったの
誰が祖国をわけてしまったの
出典: イムジン河/作詞:朴世永 訳詞:松山猛 作曲:高宗漢,加藤和彦
翼を持つことはできない、翼に思いを託して祈ることしか今はできないのです。
そして、どうして自分がこのような辛い思いを抱えることになったのか。
誰に向けて今の悲しみを訴えていいのかを、知るすべが無いのです。
もしかしたらこの状況になってしまった理由を、微かに分かっているのかもしれません。
それでも誰にも言えないのです。解決の方法を教えてくれる人もいないのでしょう。
だから繰り返してしまいます。「だれが」と「誰が」と切なく問いかけるのです。
1つであったあずなのに、抵抗をすることも許されず分かれてしまった国土。
地面も空も1つにつながっているのに、違うことを受け入れなければいけない自分がいます。
心では抗おうとしているのに、どうすることもできずに空を眺めたままです。
つなぐ橋ができれば
空を見上げて
イムジン河 空遠く
虹よかかっておくれ
河よ おもいを伝えておくれ
出典: イムジン河/作詞:朴世永 訳詞:松山猛 作曲:高宗漢,加藤和彦
どうにもしようのない心を抱えたままの歌の主人公。
それでもつながっている空を見ながら、希望を捨てることはありません。
翼は手に入れられなくても、河に橋をかければ向こう側に行けると、再び強く願うのです。
もし今空に「虹」がかかればそれを渡って河を超えることができる。
空と光が作り出した橋ならば、誰にも邪魔をされずに渡れると信じたのでしょう。
でも目の前にあるのは自分の心の中を見透かしたように、こちらと向こうを隔てて流れる河。
それが真実であれば、せめて自分の本当に言いたいことだけでも伝えて欲しい。
心にある悲しみも苦しみも流れに乗せて、向こう側に届けて欲しいのです。
歌の主人公が見ている河は最初から最後まで、何も変わらずに流れ続けています。
変わらない変えられない
ふるさとをいつまでも
忘れはしない
イムジン河 水清く
とうとうと流る
出典: イムジン河/作詞:朴世永 訳詞:松山猛 作曲:高宗漢,加藤和彦
大地を流れる河の風景は歌が始まってから、何も変わってはいないのでしょう。
つながっている地面と空にも変わりはありません。
歌の主人公の心に変化はあるのでしょうか。
翼を求め、橋を架けることを望み、隔てているものに挑もうとしました。
そしてそれがすべて叶わないことが、分かってしまったのです。
それでも歌の主人公の心も同じなのでしょう。
変わらず願うのは「ふるさと」のこと、「忘れない」がそれを表しています。
自分が生まれた土地のことはいつまでも覚えている。
いつかその地に行くことだって諦めていないのです。
歌詞の最後まで「とうとう」と流れる河。
その大きさは歌の主人公だけではなく、すべての人の思いも受け止めているのでしょう。
向こう側に行きたい人たちすべての願いを河は知っています。
ここで泣いている人たちを河は拒むことはしません。
澄んだ心が流す涙も一緒に河は今日も流れています。
いつかこの河をすべての人が渡れることを、静かに祈っているのでしょう。