君の心の中に棲むムカデにかみつかれた日
ひからびかけていた僕の 明日が見えた気がした
誰かを憎んでたことも 何かに怯えたことも
全部かすんじゃうくらいの 静かな夜に浮かんでいたい
出典: 流れ星/作詞:草野正宗 作曲:草野正宗
「僕」が生前の「君」に恋した瞬間が描かれています。
ムカデが具体的に「君」の心の内側のどんな側面を指すのかはリスナーの判断に委ねられているのです。
いずれにせよ「君」の性格に潜む一面に触れてふとした一瞬に恋に堕ちたのでしょう。
恋愛というものは理屈では片付けられないものですから恋に堕ちた原因を探ろうとしても無理です。
また歌というものは広くリスナーに対して開かれたものですからそれぞれの想いを託して解釈しましょう。
ただしムカデのような害虫を喩えに出すのですから、ちょっと意地悪なところに惹かれたのかも。
歌詞から感じられる「君」の美しさに相反するような人柄が垣間見えたのかもしれません。
どちらにしても恋に堕ちた一瞬で「僕」の中の憎しみや不安が消え去りました。
これこそが恋愛の力です。
一瞬にして眼の前がバラ色に変わるような錯覚こそ恋愛の醍醐味でしょう。
今は負の感情に支配されることなく日々を過ごすことができるようになりました。
ただし、「僕」をそこまで変えてくれた「君」は流星の彼方です。
スピッツが記念すべき20作目のシングルにこの曲を選んだ理由が分かるような気がします。
「流れ星」は草野正宗の大事な想い出が詰まった歌詞であり作品なのだろうと思わざるを得ません。
死んだ者が鮮やかに甦る
流れ星を追いかける
流れ星 流れ星 すぐに消えちゃう君が好きで
流れ星 流れ星 本当の神様が
同じ顔で僕の窓辺に現れても
流れ星 流れ星
出典: 流れ星/作詞:草野正宗 作曲:草野正宗
サビのリフレインです。
もはや「君」が亡くなっているというこの曲の最奥の秘密に気付いてしまうと何とも切ない思いがします。
亡くなった人との会話は主に夢想の中で行われるもの。
この曲のゆっくりとたゆたうサウンドは夢想のリズムを携えています。
草野正宗の声が多少上ずる感じがあるように響いているのは歌詞に込めた魂魄の深さのためでしょう。
「僕」もまたいつか息を絶える瞬間がきます。
そのときこそ本物の神が窓辺に現れるでしょう。
「僕」も「君」と同じように死と向かい合う時がいずれ来るのです。
そのとき神の仮装が「君」の姿であっても「僕」だけは見破ることができると歌っているのかもしれません。
夭逝した人の記憶はそれほどに鮮やかに遺された者を魅了します。
永遠に歳を取らない死者の姿。
死者でありながら追憶の中では生前の姿のままで生き続ける人。
亡くなった人への恋慕は亡霊に取り憑かれることと同じ怖さがあります。
しかし死者の影は夢などの世界で日に日に存在感を増してゆくのです。
「君」を想って夜空を見上げて流れ星を追いかける。
すぐに消えてしまう流れ星は「君」の人生そのものを表現していると感じ入って立ち尽くしてしまう。
夭逝した人を知っている私たちは「僕」の心境がよく分かります。
死者を想い出してあげる
死者を忘却の土地に埋めない
流れ星 流れ星 本当の神様が
同じ顔で僕の窓辺に現れても
出典: 流れ星/作詞:草野正宗 作曲:草野正宗
クライマックスもサビのリフレインです。
スピッツの「流れ星」は5分12秒と比較的に長めの曲ですがゆったり流れるので歌詞の分量は少ないもの。
その分、リスナーに余裕がもたらされて歌詞をよく噛み砕くことができます。
素晴らしい楽曲が終わってしまうことの寂しさを噛み締めながら私たちはこの曲を聴き終えるでしょう。
私たちのそばで生きていながら生きていたことも死んだことも忘れられてしまった人は一番不幸です。
「僕」のように夭逝した「君」をいつまでも忘れられないと想い返すことで「君」は究極に於いて救済される。
流れ星は刹那で儚い存在ですが、度々、私たちの視界を横切ります。
その度に想い出してあげられることはすべて汲んであげたいものです。
死者との程よい関係と距離を保って想い出してあげる。
流れ星が横切る僅かな瞬間だけでも構いません。
記憶を活性化させれば彼、彼女は幸福の名のもとに救済されます。
忘却された人は寂しい土地で息絶えてしまうでしょう。
「流れ星」のユニークなMV
宇宙空間に漂う草野正宗
「流れ星」には素敵なMVがあります。
草野正宗が宇宙服で宇宙空間に漂っている。
他のメンバーは草原で楽器をかき鳴らしている。
草野正宗が弾いているアコースティック・ギターのやつれ具合まで非常に味があります。
宇宙空間に彼が漂っているのは次のラインの映像化でしょう。
誰かを憎んでたことも 何かに怯えたことも
全部かすんじゃうくらいの 静かな夜に浮かんでいたい
出典: 流れ星/作詞:草野正宗 作曲:草野正宗