素晴らしき日々の途中 こびりつく不安定な夜に
全ての声の針を 静かに泪でぬらすように
素晴らしき日々の途中 こびりつく不安定な意味で
美しい声の針を 静かに泪でぬらして

出典: 五月雨/作詞:崎山蒼志 作曲:崎山蒼志

Bメロの歌詞を解説していきましょう。

まず注目したいのは「素晴らしき日々」というフレーズ。

中学1年生でこのワードを選べることが素晴らしいのです。

 

先述した通り、崎山がこの曲で描きたかったのは「中学生ならでは心の葛藤」。

そういった日常を表現するのに「楽しい日々」や「明るい日々」は不向きですよね。

あまりに幸福すぎます。

 

その点「素晴らしき日々」という単語には、悲しみの雰囲気が内包されるのです。

試練の要素もある。葛藤憂鬱な感情もあるでしょう。

清濁併せ吞むからこそ「素晴らしくなる」のです。

「針」という比喩に見る10代前半の心の揺れ

Bメロの残りの歌詞も解説していきましょう。

 

「不安定な夜」はもちろん中学生ならではの未熟な精神状態を表しています。

不安定な心を安定させるためには、常に気を張っていなければいけません。

しかしそんな張り詰めた心に対して、周りの友だちはときに無神経な言葉や行動を発します。

それを「針」というメタファーで表現しているのですね。

 

パンパンに気を張っている中学生の心は、いわば風船。

それを壊すものとして「針」は、ちょうどいいですね。

「ナイフ」「銃弾」は、やはりすこし大人すぎる

中学生の心は「針」で十分壊せるほど不安定なのです。

中1の自分たちの脆さを客観視できる視野の広さ

「僕ら」と「あなた」。初めての人物表現に注目

意味のない僕らの 救えないほどの傷から
泪のあとから 悪い言葉で震える
黒くて静かな なにげない会話に刺されて今は
痛いよ あなたが針に見えてしまって

出典: 五月雨/作詞:崎山蒼志 作曲:崎山蒼志

サビ部分の歌詞解説に移りましょう。

ここでは初めての主語が出てきますね。

 

まずは「僕ら」

ここまで読んだ方はもしかすると崎山は自分のことを歌っていると思ったかもしれません。

しかし違いました。彼は「自分たち、苦悩する中学生みんな」のことを詞にしているのです。

 

彼はインタビューで「客観視することを大切にしている」とも言っています。

広い視野をもって曲を作れるのも、彼の才能の1つでしょう。

 

「救えないほどの傷」とは不安定な時期の自分たちのことを言っています。

傷を負うたびに涙を流す。ここでいう「泪」は実際に流れたのか比喩表現なのかは分かりません。

しかし憂いを帯びた表現であることには変わりないですね。

 

こうした「泪」を流しては、また「針」のような言葉に刺されてしまう。

若い彼らの不安定さを表しています。

 

「黒くて静かな」は、おそらく「魔法の夜」でしょう。

そうすると、一見矛盾が起きますね。

だって、夜は友だちや教師と会話をしないのですから。

 

そう考えると、ここでは日中の会話を反芻しているのではないかという予測がつきます。

昼に交わした何気ない会話を夜に思い出して、傷ついている。

多感な中学生には、こうした時間もあることでしょう。

 

また「黒くて静かな」は夜ではなく、単純に直喩として使っているとも考えられます。

たとえば「親友だと思っていたA君が、実は自分のことを嫌っていた」。

と、他の友人から聞かされる。これは確かに「黒くて静かな会話」ですよね。

中学生くらいの年代では、頻繁に起きる”事件”の1つでしょう。

 

比喩表現なので、解釈の方向は無限にありますが、こうした例がパっと浮かぶと思います。

2つ目のBメロとサビで新しく登場する単語を紹介

「蒼」「宇宙」で表現するストレスや苦悩

素晴らしき日々の途中 こびりつく不安定な蒼に
全ての声の針を 静かに宇宙でぬらすように
素晴らしき日々の途中 こびりつく不安定な意味で
美しい声の針を 静かに泪でぬらして


意味のない僕らの 救えないほどの傷から
泪のあとから 悪い言葉で震える
天使とぶざまな 救えない会話に刺されて今は
今ながれるこの頬は すべてを すべてを
すべてを

出典: 五月雨/作詞:崎山蒼志 作曲:崎山蒼志

2番のBメロとサビでは、少し単語が変わっています。

まずは冒頭の「蒼」。1番では「夜」というワードが使われていました。

 

青や碧、藍、葵など、色合いの変化によってあらゆる表記があるアオ。

なかでも「蒼」は暗い発色が特徴で、黒っぽいブルーを指します。

そう考えると、ここでは「夜」とほぼ同義的に使われているといっていいでしょう。

 

次に注目したいワードは「宇宙」

「宇宙」というと真っ先に浮かぶのは地球外を指す「space」としての宇宙でしょう。

しかし「その人が許容できる範囲」「その人の常識の範囲」などの意味でも用いられます。

この場合は、後者として使われていますね。

 

中学生にとって”宇宙”は狭いものです。

まだ経験も知見も浅く、想定外のことがたくさんある。

そうした未熟で不安定な子供たちにとっては、何気ないひと言すら”針”になります。

ここでもやはり中学生の脆さを表現しているのです。

ラストに希望を持たせてくれる印象的なCメロ部分


冬 雪 ぬれて 溶ける 君と夜と春
走る君の汗が夏へ急ぎ出す

冬 雪 ぬれて 溶ける 君と夜と春
走る君の汗が夏へ急ぎ出す

急ぎ出す

急ぎだす

出典: 五月雨/作詞:崎山蒼志 作曲:崎山蒼志

必要最低限の言葉で情景を切り取る、中1が生み出した圧巻の名文

ラストのCメロ部分を解説します。

ワンフレーズを連続させる「五月雨」のなかでも非常にシンボリックなパートですね。

 

全編を通して聴いても、やはりこのCメロで彼の才能が真に爆発しているといってもいいでしょう。

楽曲的にもかなり凝った”泣ける”進行を使っているのですが、今回は省略。

歌詞にフォーカスして解説します。

 

まず注目したいのが、必要最低限の言葉しか使っていないこと。

またそれだけで見事にリスナーの脳内に情景を映し出しているところです。

言葉の数は圧倒的に少ない。

でも冬から春、夏へと走り抜けるように生きる「君」の姿が見えるようですよね。

 

川端康成の「雪国」の書き出しの印象に近いものを感じます。

 「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」

この日本文学界きっての名文も、必要最低限な言葉で情景を端的に言い表しています。

 

まだ駆け出しのシンガーソングライターとノーベル文学賞作家を並べる。

……ちょっと、持ち上げすぎかもしれません。

しかし端的な文章で情景を映し出しているという意味では「五月雨」のCメロも同じなのです。

冬から夏へと駆けていく希望に満ちたラストシーン