想いばかりが先走り
なぜか急にわたしの心を襲った
夢の中に入ってきて
わたしの心を震わせる
出典: 夢中人/作詞:周礼茂 作曲:HOGAN N
フェイはこの歌のようにどうしてこんなに強く彼に恋しているのでしょうか?
まず、トニー・レオンが扮する警官が凛々しいこと。
警官の制服を着たイケメンはやはりカッコいいです。
また、見た目はイケメンで凛々しいのに内心は女々しく感傷的といえます。
彼は母性本能をくすぐる一面があるのかもしれません。
別れた彼女のことをいつでもうじうじと思い悩んでいます。
フェイは彼が恋人と別れたという噂を聞いて内心ウキウキしているのです。
しかし表情に出さないようにしています。
別れた彼女はスチュワーデス(90年代の映画なのでこのようにいいましょう)でした。
フェイはハンバーガー・ショップをやめてスチュワーデスになり、警官663号と再会します。
想いばかり先走っていたフェイは、そこで現実としてトニー・レオンと向き合うのです。
「夢中人」の歌詞では、トニー・レオンとの現実に向き合うまでの感情が描かれます。
夢の中で恋しているだけの心理が秀逸に描かれているのです。
しかし映画では、本当に相手と向き合うところまでが描写されています。
本当に相手と現実で向き合うとはどんなことなのでしょうか?
失った恋と次の恋までの距離感
フェイ・ウォンのストーカーと金城武のパイン缶の賞味期限
夢中人 多么想变真
我在心裏不禁
夢中尋 这分憧我在等 你萬分憧的吻
出典: 夢中人/作詞:周礼茂 作曲:HOGAN N
日本語訳です。
フェイは恋する人を夢に見ています。
夢の中の人よ
どれだけ想えばこの恋は現実になるの
待ちきれない
夢の中で探し求める
あなたとの1万分のキスを
出典: 夢中人/作詞:周礼茂 作曲:HOGAN N
『恋する惑星』では2つのラブストーリーが交錯します。
交錯といっても一瞬すれ違うだけですが。
フェイ・ウォンは後半のヒロインで、女性目線のストーリーです。
一方、前半は男性目線のストーリーで、金城武が出演しています。
金城武扮する警官223号も失恋したばかりの傷心の男性です。
寂しさのあまりたくさんの女友達に電話をかけます。
ポリグロットの金城武らしく、多言語でいろんな女の子に電話するのです。
金城武ブームだった当時このシーンが結構話題となりました。
でも、そんな彼も彼女にフラれた寂しさは変わらない。
彼女の好物だったパイン缶を買い続けて賞味期限が来たら、恋も賞味期限切れ。
新しい恋を探そうと決心します。
そこに現れたのはいわくつきの女性でした。
金城武も切ない傷心の男性を演じ、いい味を出していました。
その女性とホテルの1室で2人きりになるのですが、進展しない。
そこでも独特の距離感の取り方が描かれます。
そこですぐに恋愛関係になってしまったら、ストーリーとして面白くありません。
距離感があるからこそ何か後味が残るのです。
前半の最後に金城武とフェイ・ウォンがすれ違います。
フェイ・ウォンは、別の男性に熱烈な恋をしていました。
フェイ・ウォンはスチュワーデスになる
夢中尋 一分憧抱緊 我在心裏不禁
夢中人 這分憧我在等
来製造心裏興奮 心興奮
出典: 夢中人/作詞:周礼茂 作曲:HOGAN N
日本語訳です。
恋は前向きな力に変わります。
夢の中で
1分抱きしめて
待ちきれない
私の心をときめかせに来て
出典: 夢中人/作詞:周礼茂 作曲:HOGAN N
ストーカー行為がバレたフェイは、逃げ出します。
ですが、トニー・レオンからデートの誘いが。
フェイは喜びますが、あえて会わないのです。
トニー・レオンの別れた彼女の職業だったスチュワーデスになりました。
フェイがフライトから戻ってハンバーガー・ショップに行くと、なんとトニー・レオンが!
店の権利を譲り受けていたのです。
そこで再会し、2人の距離が近づいて新しい恋の物語が始まります。
ここで考えてしまいます。なぜフェイ・ウォンは会わなかったのだろうかと。
なぜ、本楽曲の歌詞においてもわざわざ距離を取るようなことをするのでしょうか。
1つの理由として、相手に見合うような自分になるまではあえて距離を取るという心理でしょう。
トニー・レオンの元カノはスチュワーデスでした。
少なくとも、元カノと同じくらいには素敵な女性になりたいと考えたのです。
その夢をかなえるためにフェイはどのくらいトニー・レオンを夢に見たのでしょうか?
そういうロマンチックなストーリーにぴったりのステキな楽曲でした。
今でもさまざまな感想や論評がなされる名作映画『恋する映画』
恋の距離感が秀逸
「夢中人」が主題歌となった『恋する惑星』は今でも評価の高い映画です。
クエンティン・タランティーノ監督もこの映画を絶賛しています。
映画製作関係者にとっても、魅力的な映画なのです。
一方感情論の面でいうと恋の距離感が秀逸で、それは本楽曲の歌詞にも現れています。
例えば「夢中人」の中の「まだあなたとの距離は近くない」というフレーズです。
失恋したトニー・レオンに恋するフェイは、急いで彼に近づいて行きません。
失恋したことを知ってもはやる心を抑えます。
すぐに近づいてはいけないと感じているのと同時に恋に臆病な女性でもあるのです。
とはいえ、アパートの部屋に忍び込んでストーカーまがいのことをしてしまうのですが。
想いが溢れて溢れてしかたがないのですが、彼に直接アタックはしません。
当時の香港の姿が現れたオシャレな映画
また、この映画はオシャレな空気感にあふれています。
本映画は1994年公開です。
香港の中国返還が1997年ですから、当時はまだイギリスの統治下にありました。
映画でも楽曲「夢のカリフォルニア」が強くフィーチャーされています。
フェイ・ウォンが自身の働くハンバーガー・ショップで大音量でかけるのです。
欧米の空気が感じられます。
とはいっても、メインの主題歌に使用されたのはフェイ・ウォンの広東語の「夢中人」です。
欧米の影響とアジアの空気感が混在していてオシャレです。
なんといってもフェイ・ウォンの歌声が魅力的です。