各レーベルで争奪戦
音楽中心だった世界で
生まれも育ちも福岡県で、デビュー前まで一歩も福岡を出たことがなかったというYUI。
初めて飛行機に乗った時には、聞き慣れないシートベルトの着用を促すブザー音に、「未来だ!」と感じたというほどに純粋で真っ白な少女だったようです。
生まれた頃から自然と音楽が身近にある環境で育ったせいか、一度聴いたメロディはすぐに歌えるという稀有な才能を持っていました。
幼い頃は、一人の時間になると、たとえば「青空を頭の中に浮かべてメロディを付けてみる」というような“遊び”を無意識にしていたのだそうです。
根っからの音楽好き(本人曰く「音楽バカ」)の片鱗は、もうそんな小さな頃から持っていたのでしょうね。
怒られてでも歌いたかったオーディション
高校中退後、音楽を求めてさまよっていたYUIは、当時ストリートライブをしていた4人組バンドの「ビアンコネロ」に衝撃を受け、突発的に声を掛けたことで多くの縁を結んだようです。
地元の音楽塾を紹介してもらい、そこで初めてギターを学んでコードを覚えました。
ギターを抱えてあぐらをかくという、YUIのアイコンにもなる有名なスタイルで、路上で弾き語りを始め、知人のライブの前座や、音楽塾関係のイベントでライブハウスにも出演するようになります。
そしてその音楽塾関係者の勧めで、応募者約2万人と言われているオーディションを受け、最終審査を受ける10人の中に選ばれました。
そして本来は2曲だけ披露するところを、「2曲目の続きで……」などと言いつつ3曲目も歌い、怒られるのがわかっていたため、慌てて逃げ帰ったというエピソードも明かしています。
しかしその後、実は音楽レーベル内ではYUIを求めての激しい争奪戦があったらしく、デビューが決まったことを福岡で知らされた本人は驚いたようでした。
2004年の夏前には、既にデビュー曲である「feel my soul」の原曲を書き上げていて、東京と福岡を往復する生活が続いていましたが、ドラマのタイアップが決まったために、秋には上京しています。
映画『タイヨウのうた』で主演
まさかの女優経験
デビュー後のシングル曲はいくつもタイアップを持っていますが、2006年6月に公開された映画『タイヨウのうた』で、まさかの主演女優デビューを果たします。
当時のYUI自身はあまり乗り気ではなかったそうですが、話を聞いて台本を読み、浮かんできた情景をメロディにすることで、どんどんと役に入り込んでいったようです。
この物語は、「色素性乾皮症」という病気で、太陽に直接当たることのできない病を抱えた少女が主人公。
音楽が好きで、昼間は家で寝ているか、曲を描いているという彼女・雨音薫は、夜限定のストリート・ミュージシャンなのです。
そんな彼女が、いつも部屋の窓から見えるバス停を気にしているのは、サーフボードを持った男性がよく通るから。
ある夜、いつものように夜の公園でストリートライブをしていると、その男性・藤代孝治が偶然通りかかります。
そこから恋愛の歯車が回り出し、目の前に死が待ち受けている薫の心と運命を大きく変えていくのです。
恋愛だけではなく、家族や親友との絆も描かれたこの作品の主題歌「Good-bye days」を、「YUI for 雨音薫」名義で発表するなど、YUI自身は「あの曲は薫の曲」とも言っています。
この映画でYUIは「第30回日本アカデミー賞・新人俳優賞」を受賞し、また主題歌である「Good-bye days」も20万枚の売上を果たしました。
この映画はその後日本でドラマ化され、韓国でもミュージカルになり、ベトナムでも連続ドラマとしてリメイクされるなど、作品そのものも大きく支持されています。
どうしても伝えたかった想い
愛する人へのアンサーソング
何故ここまで長々と前作や映画を振り返ってきたのかというと、今回紹介したい「I remember you」という楽曲についての予備知識を持っておいて欲しいと思ったからです。
前作にあたる「Good-bye days」が、雨音薫が愛する藤代孝治のことを想って作られた曲だとすると、この「I remember you」はその孝治から薫へのアンサーソングになっているのです。
YUIが語るには、この楽曲の歌詞が「藤代孝治か私かっていう、その辺は曖昧」とのこと。
藤代孝治の後ろ姿は見えるけれど、その後ろにはYUIがいて、藤代孝治を含めた景色を眺めているのかも知れない、とも言っています。
「客観でも主観でもない、不思議なところ」と表せるのが、なんだかYUIの感性の豊かさを改めて実感させられますね。
舞台は鎌倉
季節外れのあの場所で
この楽曲がリリースされた時のキャッチコピーは、「せつなくも素直に描いたオリジナルソング。この秋に贈ります。」というものでした。
「I remember you」はYUIの6作目のシングル曲で、2006年9月に発表されています。
映画の舞台は夏の鎌倉でしたので、薫が亡くなった後、孝治が海辺で思いを馳せている様子が目に浮かぶようです。
ライブ映像がありますので、まずは歌詞を聞きながらご覧ください。
歌詞
それでは歌詞の内容を見ていきましょう。
風はもう 冷たいけれど 懐かしい そらの匂いがしたんだ
ホームから海が見える この場所で 君を捜してる
出典: I remember you/作詞:YUI 作曲:YUI