「心海」で思い描く夢とは
つづく歌詞では、「心海」で1人苦しむ主人公が、他者と出会う様子が光をモチーフに綴られていきます。
海の底から見える光のイメージなど、美しい光景が主人公の心と重なりながら表現されています。
1人の世界「心海」から連れ出してくれる存在
微睡む白んだ光が僕を呼んだ
手を伸ばしてくれるなら
出典: 心海/作詞:Eve 作曲:Eve
1人で自身の心の中の「心海」に沈み苦しんでいた主人公に、海面から白んだ光が見える様子が想像できますね。
この光のような存在は自分の殻をやぶるきっかけとなる他者だと考えられます。
挿入歌となっている「ジョゼと虎と魚たち」の物語では、ジョゼにとっての恒夫のことです。
深い海で理想を描く
ああ心はまだ応えられないまま
深い海凪いでは 理想描いた今
ただ痛いほど願って 忘れはしないから
出典: 心海/作詞:Eve 作曲:Eve
外の世界へ踏み出すきっかけとなる光の存在がありながらも、応えられない。
続く歌詞から、結局自分だけの世界から出ていけなかったことがわかります。
深い海の底の風も波もない穏やかな場所で、主人公は理想を思い描きます。
この理想というのは、自分だけの世界「心海」から出て自分以外との他者と関わりを持つことです。
主人公の強い決心が伝わってきますね。
凪ぐという言葉は風や波が収まった状態から転じて、心が穏やかになることも意味します。
主人公は穏やかな場所にいながらも、心は穏やかではなく葛藤でいっぱいなのです。
このEveさんの言葉選びによって、主人公のいる場所と心の状態のコントラストがより一層感じられます。
今のことではない?異なる時制を使った表現
この曲における歌詞表現の豊かさで重要なのが、過去形や仮定法が使われて時制がばらばらに混ざっていること。
特に最後にも繰り替えされるサビの部分に注目してみましょう。
ああこのまま立ち止まってしまったら
涙の味でさえ 知らないままだったな
君と笑って
出典: 心海/作詞:Eve 作曲:Eve
ここで興味深いのが、「~してしまったら、~だった」という仮定法が使われている点です。
この時点では、まだ主人公が他者と関わりを持てたのか歌詞では明らかではありません。
でも、光のような存在の他者と一緒に現在は笑いあって、過去を振り返っているのかなと推測できますね。
光の存在と出会ったことで膨らむ夢
「心海」で1人きりだった主人公が、光のような存在の他者を通じて変わっていく。
後半では、人と関わりをもつ世界を望み、前に進んでいく主人公の心が描かれています。