「サンサーラ」は輪廻転生のことである、とは前の項で述べました。

ここで歌われている、1行目は「前世のあなた」のことを表しています。

いま、「現」で人生を生きるあなたが、ずっと昔に「誰か」だったとき、すなわちそれは「夢」。

その「前世」の「夢」は、もちろんいまは思い出すことはできませんが、確かにいまも心のどこかにあるのです。

だから2行目で「宿る」という表現をしているのでしょう。

ややスピリチュアルな観点で見ると、いわゆる「魂の使命」とでもいうべきものかもしれません。

前世で果たしたこと、また逆に果たせなかったことが現世での「宿命」となって心の中に生きています。

人間は誰しもが何かの使命を背負って生まれてくるといいますが、その使命とは前世の夢ではないでしょうか。

「サンサーラ」の2番の歌詞解釈

中孝介「サンサーラ」の歌詞を解釈!川の流れに"サンサーラ"を重ねる…その意味とは?テーマは「生と死」の画像

続いて、2番の歌詞を解釈していきましょう。

繰り返すもの

彷徨う昼と夜のストーリー
命つないで
朝もやに煙る ほとりに佇みながら
耳をすまし 聴くのは

出典: サンサーラ/作詞:山口卓馬 作曲:山口卓馬、酒井陽一

冒頭の「ストーリー」とは何を歌っているのでしょうか。

「昼と夜」と聞くと、たった1日の出来事の話をしているんじゃないか、と思う方もいるでしょう。

しかし、ここではもっと壮大なものについて歌っています。

それは、人間の生と死です。

ここでもやはり、輪廻転生へとつながっていきます。

「生と死」を繰り返す私たちは、昇っては落ちる日、すなわち太陽のようです。

私たちの「一生」を「1日」にたとえると、次のように考えられます。

「昼」=「生」

「夜」=「死」

私たちが毎日を生きるようにして、「生と死」も繰り返されていく。

そう考えると、「朝もやに〜」というところの意味も深く分かって来ます。

「朝」とは生まれ変わったばかりの私たちのこと。

生まれ変わったばかりの新鮮で美しい気持ちで、歌詞のなかを生きる人物は「サンサーラ」を歌っているのです。

非常に面白い所は「輪廻」、すなわち「生と死」の繰り返しという壮大なテーマを日常生活の1日という卑近な所に落とし込んでいること。

輪廻というとどうしても「前世」「現世」といった壮大で現実離れしたような印象を受けますが、そうではありません。

1日を生きていくこと自体が既に「生と死」の繰り返しであるというのは逆転の論理を用いた慧眼の発想です。

生きることは、「サンサーラ」だ!

込められた強いメッセージ

時の流れは、人生は、「川の流れ」のようで、そのなかで「生きている」という当たり前のことを忘れてしまいます。

輪廻転生を繰り返す私たちの心の中にはたくさんの「夢」が宿っているはずなのです。

生まれ変わったばかりの新鮮な気持ちで、心には「夢」を抱えて、この「現」を生きていこう。

そんな強いメッセージがこの曲には込められていたのです!

生きること自体が、まさしく「サンサーラ」といえるのでしょう。

生と死の実感が薄い現代社会

では何故「生きている」というただそれだけの事実がここまで力強いメッセージとして響くのでしょうか?

それは「生きている」という実感を得るにはどうしてもその裏にある「死ぬこと」の実感が薄いからです。

「ザ・ノンフィクション」が作られた1995年はバブルが弾けて不況の波が社会を覆って来た暗い年でした。

しかし、不況といっても戦後直ぐの何もなくてボロボロだった貧しい時の日本程ではありません。

高度経済成長によって得たメリットは大きく、それなりに頑張れば最低限の衣食住は確保出来るのです。

しかし、それだけ発達した現代社会の中では「」を実感し、それについて葛藤する場面は少なくなりました。

95年当時で見ても阪神淡路大震災とオウム真理教の起こした地下鉄サリン事件で改めて「死」について考えた位でしょうか。

そう、人間は喉元過ぎれば熱さを忘れる生き物で、常に「」が近い状態でなければ「」の実感は持てないものです。

「ザ・ノンフィクション」という番組並びにその主題歌の「サーラー」は現代社会において薄れた「生と死」の実感を持たせようとしたのでしょう。

戦争がなくなり、平和な世の中で生きていけることは決して当たり前ではなく奇跡とさえいえるかもしれません。

それを「輪廻」という別方向のアプローチから訴えたところにこの曲の魅力が詰まっているのだということが分かります。

中孝介のルーツ

中孝介「サンサーラ」の歌詞を解釈!川の流れに"サンサーラ"を重ねる…その意味とは?テーマは「生と死」の画像

ここまで「サンサーラ」の歌詞について解説してきました。

この楽曲はその世界観の魅力もさることながら、やはり中孝介さん自身の歌声の力もあってこその楽曲です。

そこで最後に中孝介さんの歌声のルーツについて触れてみたいと思います。

奄美大島出身の中孝介さん。

実は、奄美地方の伝統を継承するアーティストとして、シマ唄の歌い手「唄者」としての一面も持っています。

この要素が、「サンサーラ」という楽曲により深みを与えているのではないでしょうか。

まとめ

中孝介「サンサーラ」の歌詞を解釈!川の流れに"サンサーラ"を重ねる…その意味とは?テーマは「生と死」の画像

中孝介さんの「サンサーラ」の歌詞解釈を本記事ではさせていただきました。

当たり前のことを歌っているようで、そこには「輪廻転生」の考えに基づいた、神秘的で奥深い世界観が描かれていました。

だからこそ、人の人生を扱う番組である「ザ・ノンフィクション」に長年採用されているのだといえるでしょう。

冒頭でご紹介したように、はじめはシングルのB面だった「サンサーラ」。

その後、2011年に発売された3rdアルバム「キセキノカケラ」。

そして2016年に発売された初のベストアルバム「THE BEST OF KOUSUKE ATARI」にも収録されています。

ベスト盤に入れてくるあたり、とっても粋(いき)ですね。