雪の夜に

降り落ちる雪はスロー 少し黙って僕はそれを見てた
寒いんだけど窓は あえて開けっ放しにしておいたよ

出典: スローモーション/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎

2018年冬。

大寒波の影響で、日本のあちこちで雪景色が見られました。

雪国育ちでないわたしにはその光景は珍しく、夜半過ぎ、ずいぶん長い間雪が降るのを眺めていました。

窓から忍び込む冷気は、雪のない夜よりは少し湿っていて、鼻の奥をつんと冷やします。

何もない夜はスロー 少し黙って僕は冬を感じて
寒いんだけど上着は あえて置きっぱなしで駅へ向 かったよ

出典: スローモーション/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎

その時、この曲を思い出したのです。

まるで重さを持たない羽のように、ふわふわと降る雪は、

わたしが生きるこの時間よりもずっとゆっくり、生きているように見えたのです。

そうまるで、スローモーションのように。

ほら終駅着きまだ降りず なぜか心の奥で考えてました
くだらない くだらないことですぐ悩む

出典: スローモーション/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎

一郎さんは、この雪をどこで見たのでしょうか。

彼の郷里は雪国・北海道。

この楽曲を製作した年(2011年)には、彼は上京し、夢を追いかけ始めているはずです。

東京に降る雪に、ホームシックに似たものを感じたのでしょうか。

スローモーションで降る雪は、ひとに考える時間を与えます。

だけど集積せずに放り出す なぜか僕はそうして生きてました
つまらない つまらないことですぐ悩み 泣いたフリした

出典: スローモーション/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎

当時の彼には、きっと悩みが多かったでしょう。

バンドは軌道に乗り始めている、だけどこのままの人気を保ち続けられるかはわからない。

音楽は夢ですが、プロにとっては同時に生きていくための手段です。

人気はイコール、彼らの生きる糧です。

行けない つらりつらりと行けない それはつまりつまりはスローモーション
ふわりふわり漂う 僕はまるで雪のよう

出典: スローモーション/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎

はやる気持ちとは裏腹に、まるで降る雪のようにゆっくりとしか進んでいけないもどかしさ。

不安や焦燥を煽るように、その歩みはまるで遅くなっていくように感じます。

降り落ちる雪はスロー 白く曇った窓はまるで僕のよう
淋しいのは雪から雨に変わったせいで 意味はないけど

出典: スローモーション/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎

悩むことに、あまり意味はありません。

この世には、自分の力ではどうしようもないことのほうが多いからです。

苦しむ心や寂しい気持ちは、意味あるものではないと彼も歌います。

それでも、雪が降る夜にはそんな思いが押し寄せるのです。

ほら終点着き走り出す なぜか心の奥に君はいました
白い息 白い息吐きながら想う

出典: スローモーション/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎

あの日別れた「君」。

何年か後にふと浮かぶ、あの日大切だった誰かの存在。

雪の静けさは、ひとをエモーショナルな気持ちにさせる天才です。

だけど終電過ぎ自由になる 夜は心へ僕を閉じ込めました
戻れない 戻れないこのもどかしさに 泣いたフリした

出典: スローモーション/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎

今更思い出したことで、あの日に戻れるわけでもない。

想いばかりが巡る夜は、雪の静けさのせいか、いつも以上にひとりを閉じ込めます。

だんだん減る だんだん減る だんだん減る未来 未来
だんだん知る だんだん知る だんだん知る未来

出典: スローモーション/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎

生きていけば、未来は砂時計の砂のように、どんどん減っていきます。

砂が減っていけば、砂の中にあったものが少しずつ見えても来るでしょう。

そんな、雪の夜に想うとりとめのない気持ちを綴った1曲です。

終わりに