清らかな、その心は穢れもせず罪を重ねる。
天国も地獄さえも、ここよりマシなら喜んで行こう。
「人は皆平等などと、どこのペテン師のセリフだか知らないけど」

出典: カルマの坂/作詞:新藤晴一 作曲:ak.homma

主人公の少年はまだ子供ですから、本来なら清らかな魂であるべきです。

しかし、悪行とも思わずに生きるために多くの罪を犯してきたことでしょう。

1行目の穢れなき心というフレーズから、そうであることがわかります。

悪意をもっているわけではなく、純粋な心で生きるためにやるべきことをやっている。ただそれだけなのです。

そして穢れなき魂は天国にいくという思想すら持たず、今の現実が彼にはすべてなのでしょう。

大人がいう言葉は彼にとって何の意味も持たず、信じることもできず、ただ生きる

そんな過酷な人生を小さな子供が生きているという悲しい物語です。

少年が出会った美しい少女でさえ…

パンを抱いて逃げる途中、すれ違う行列の中の
美しい少女に目を奪われ立ちつくす。
遠い町から売られてきたのだろう。
うつむいているその瞳には涙が。
金持ちの家を見とどけたあと
叫びながら、ただ走る。

出典: カルマの坂/作詞:新藤晴一 作曲:ak.homma

ある日、いつものように食料を盗み逃げていた少年は、あるものに目を奪われます。

それはきっと自分と同じくらいの年齢である少女です。

2行目の美しいというのは、一目ぼれのような初恋を意味しているのかもしれません。

一目見ただけで美しい少女だとわかるほどの子であっても、3行目のようなことをされてしまう。

これは紛れもなく大人の業です。

お金のために子供を売るという人身売買を指しているのではないでしょうか。

お金持ちの家に売られ、泣く少女。その涙に気が付いた少年…。

それだけではありません。この歌詞から見えてくる背景にはもっと辛い現実があるのです。

神の存在すら感じられずに

清らかな、その体に穢れた手が触れているのか。
少年に力はなく、少女には思想を与えられず。
「神様がいるとしたら、なぜ僕らだけ愛してくれないのか」

出典: カルマの坂/作詞:新藤晴一 作曲:ak.homma

少女の幼い身体は大人の業によって、お金のために捧げられます。

1行目の表現からわかるのは人身売買により、大人の男に買われていくということ。

えげつない悪行が少年の生きる場所では行われているのです。

穢れのない心を持つ少年と、穢れた手を持つ大人の対比によってより少年を取り巻く環境の劣悪を感じます。

少年は助けてあげたくても何もできず、少女が泣き叫びながら走っていくのを見つめるしかありませんでした。

自分には少女を救う力がないことも、きっと彼を苦しめたことでしょう。

だからこそ、3行目のように神に問いかけているのだと考察できます。

少女の心を救う思想というものは存在せず、少年もまた、信仰心など持てずにいるようです。

自分たちの置かれている状況を考えれば、神に愛されていないと思って当然でしょう。

誰からも手を差し伸べられることもなく、業の限りを尽くすしかないのです。

目の前にあるカルマの坂

夕暮れを待って剣を盗んだ。
重たい剣を引きずる姿は、
風と呼ぶには悲しすぎよう
カルマの坂を登る。

出典: カルマの坂/作詞:新藤晴一 作曲:ak.homma

しかし少年はどうしても少女を救いたかったのです。

いつもなら自分の食料を手に入れて住処に逃げ帰るのかもしれません。

誰にも見つからないよう、今日食べる食べの食料を隠しながら。

しかし少女を見てしまった少年は、何かに取りつかれたように行動に出ていました。

盗みなら慣れたもの。重い剣さえ手に入れることができてしまいます。

少年がいとも簡単に剣を手に入れるそのことだけでも胸が痛いのですが、この後の歌詞に注目です。

何のために剣を盗み、引きずるほどの重さに耐えながら坂道を登っていくのか…。

最後の行「カルマの坂」は業にまみれた汚い世界の象徴なのではないでしょうか。

唯一の善のためにとった行動

怒りと憎しみの切っ先をはらい、
血で濡らし辿り着いた少女はもう、
こわされた魂で微笑んだ。
最後の一振りを少女に。

出典: カルマの坂/作詞:新藤晴一 作曲:ak.homma

少年は、自分が生きるために犯す罪ならいくらでも正当化することができたのでしょう。

しかし少女がされていること、彼女の苦しみを感じることで少年の中で何かが壊れてしまいました

怒りと憎しみに支配された心は制御ができず、唯一の善のために大人たちを剣で斬ってしまうのです。

2行目から伝わってくるのは、多くの人を斬り息も絶え絶えの状態で少女の元にやってきたということ。

彼女を救いたいという一心で、少年は自分の手を血に染めてしまったのです。

しかしもう、目の前にいる少女を救うことができないと悟ります。

少年が辿り着いた時にはもう少女の心は壊れてしまっていたのです…。

こんなにも不幸で残忍な人生ならば、いっそのこともう苦しまないようにしてあげたい。

そんな想いが少年の中で芽生えたのだと思います。

彼は渾身の力を振り絞り、高く掲げた剣を一気に彼女に向かって振り下ろしたのです。

つまり少年は、少女を殺したーー。

もしかしたら微笑んだ少女はそれを望んでいたのかもしれません。

同じ苦しみを理解できた少年だからこそ、その微笑の意味を理解することができたのではないでしょうか。

これが彼にできる正義であり、善であったのです。

痛みは鋭く少年に突き刺さる