歌手としての柴咲コウ
女優としてもミュージシャンとしても、第一線で輝き続ける柴咲コウ。
日本アカデミー賞をはじめとする数々の演技賞を受賞、2017年には大河ドラマの主人公を演じるなど、女優としてのキャリアはまさに輝くばかり。
ミュージシャンとしても、2003年にRUI名義でリリースした2ndシングル「月のしずく」がオリコン週間シングルチャート1位を獲得。
この曲は、映画『黄泉がえり』の主題歌、劇中歌として使用されました。
柴咲コウはこの映画でRUIという名前の歌手として出演していたことから、RUI名義でのリリースとなったそうです。
『黄泉がえり』は当初3週間限定公開の予定で公開されましたが、その内容の素晴らしさから口コミでの人気が広まり、3か月以上に渡るロングヒットに。
映画の人気が上昇するにつれて、この「月のしずく」の人気もじわじわと上昇、チャート1位を記録したのはリリース5週目でした。
柴咲コウは、歌手デビューシングルにあたる前作「Trust my feelings」が売り上げ面であまりいい結果を残せなかったため、その先の歌手活動に消極的になっていたといいます。
でも、この「月のしずく」がヒットしたことが、女優、そして歌手としても活動を続けていくことにした決め手になりました。
その後の歌手としての活動はご存じの通り、たくさんのヒット曲、名曲を私達のもとに送り出してくれました。
「月のしずく」がなければ、その曲たちも存在しなかったのかと思うと、感慨深いものがありますね。
「野性の同盟」
29thシングルの表題曲
椎名林檎がプロデュース!
椎名林檎は、かねてから機会があれば柴咲コウに曲を書いてみたいとコメントしていたそう。
「野性の同盟」に寄せて椎名林檎は、歌い手として原始的な力強さを感じさせると柴咲コウの声について語り、曲のイメージとしては彼女を見守る旧友からの手紙、というものだといいます。
迫力のある、中性的な魅力の声で壮大に歌い上げことができる柴咲コウですが、椎名林檎はこの曲については「手紙を音読するように」歌って欲しいというリクエストを出したそうです。
結果として、新しい柴咲コウの新しい魅力を引き出した形になりました。
PVをチェック!
パワーコードで淡々と進んでいく曲が、柴咲コウの声の力強さとよく合っていますね。
椎名林檎がイメージを出したこのMVは、山田智和の手によるもの。
山田智和は、サカナクションや水曜日のカンパネラなどのPVを手掛ける若手注目映像作家。
夢のような、シュールなおとぎ話のようなイメージの映像と、神々しい光を浴びながら歌う柴咲コウが別世界に誘ってくれるような、浮遊感のある美しいPVとなっています。
「野性の同盟」の歌詞
ではここからは、「野性の同盟」の歌詞を見ていきましょう。
挨拶のない手紙
挨拶のない手紙を書き損じたまま大事にしたい折目が嵩張っていく
綯い交ぜの念僕は埋め尽くしたものの相変わらず君へ送れず仕舞い
ふしだらな世界を縫って引き合うようにふたりは野性を有している
ねえ如何して今会えないでいるかを教えて欲しいよ声が聴きたいよ
知っていたんだ前に云っていたね君にとっては沈黙だけが正しいと
出典: 野性の同盟/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
こうしてみてみると、同じ字数でずっと言葉が並んでいます。
これは圧巻ですね。
そして内容は、やはり椎名林檎独特の世界。
離れたところから”君”を想って書く手紙には、たくさんの想いが詰まっています。
しかし、手紙には普通、時候の挨拶など、何らかの挨拶が入るもの。
この手紙は、書き損じたとありますが、挨拶がないということはもともと出すつもりのない手紙なのかもしれません。
宛先のない手紙と同じです。
それでも相手への気持ちを抑えきれずに、つい文章にしてしまう。
届くことは決してないのに、そうせずにはいられない。そういう気持ちを経験したことがある方も、多いのではないでしょうか。
会えない時が切なくて、声が聞きたくて、でもそれを伝えることはできない。
伝えてはいけないのかもしれません。
沈黙を愛する”君”は今、どうしているんだろう。そのことだけで、心が支配されてしまいます。
最初の出会い遥か秋空を思い返せば内緒の願いもじき片付いていく
分かたれた未来の今日が割り出す過去ひとりじゃ野性を無くしそう
ねえ如何して今会いたくなったかを考えて欲しいよ顔が拝みたいよ
憶えているちょっと泣いていたね僕にとっても沈黙だけは正しくて
真相なんて何時だって物音一つしないしじま一点に宿っているんだ
出典: 野性の同盟/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
文字にしていけば、胸の奥に秘めていた思い出も鮮やかに蘇ります。
今、こんな風に離れてしまったその岐路を思い出していると、ひとりではたまらなくなってきます。
どうしてこんな風になってしまったのかを考えても、ひとりでは堂々巡りばかり。
あの時も何も言えなくて、二人の間を沈黙が支配していた。
その沈黙が、全ての答えだったのかもしれないと離れてしまった今となってはわかるけれど、あの時はそうではなかったのです。