架空の少女の人生を描いたアルバム「L-エル-」
これまでもコンセプトを持ったアルバムを発表してきたABC
2015年2月25日、前作「2012」から3年ぶりのオリジナルアルバムとして発表された「L-エル-」。
2013~2014年にかけて「Project “Shangri-la”」という企画上で発表されたシングル3作。
そして本アルバムのリード曲としての役割を担っている「INCUBUS」が収録されています。
Acid Black Cherryのアルバムは全てコンセプトアルバムとして、何かのテーマを掲げていました。
1stアルバム「BLACK LIST」ではカトリックで「罪」とされる欲望を表した「七つの大罪」。
2ndアルバム「Q.E.D.」では未だに未解決である「ブラック・ダリア事件」をモチーフにした物語。
続く「2012」ではマヤ文明の長期歴に基づいた人類滅亡説。
そして生きる“権利”と“義務”をテーマにしています。
架空の少女“エル”が送った波乱の人生
「L-エル-」も今までのアルバムと同じく、テーマを掲げています。
それは架空の女性“エル”と彼女が愛した男性“オヴェス”の物語。
優しい両親の元で育ったエルはささやかな幸せの中、生まれた街で暮らしていました。
そんな彼女の人生は9歳の頃、両親の死を境に激変していきます。
エルが歩んだ波乱の人生と、彼女とオヴェスの互いへの長きに亘る恋慕が描かれたこの作品。
アルバムに同梱されているストーリーブックが曲で紡がれる物語を補完してくれます。
ストーリーブックを開く前に一聴、読みながらもう一聴と、2回楽しむもの一興でしょう。
「L-エル-」の発売から約半年後に当たる2015年8月31日、ストーリーブックが書籍としても発売されました。
発売から3日で重版が決定するなど、アルバムのストーリーブックとしては異例の大ヒット。
こちらは追加シナリオが収録されており、物語に更に深みが出た一品となっています。
なんと「L-エル-」のストーリーは映画化していた!
名監督と豪華キャストが紡ぐ愛の物語
アルバムと共に書籍も異例のヒットを飛ばした「L-エル-」。
なんと書籍化に続き発売翌年には映画化もしています。
タイトルはそのまま「L-エル-」。
「欲しかったのは、愛。」というキャッチコピーが印象的ですね。
監督は下山天。
竹内結子の初主演作である「イノセントワールド」や「SHINOBI」の監督として有名ですね。
下山監督はMV監督としてもその辣腕ぶりが知られています。
本作品に起用されたのも、その経歴故に「L-エル-」の世界観を再現するのに適役と判断された為でしょう。
主演のエル役は広瀬アリスが、オヴェス役は古川雄輝が演じています。
その他前川泰之や田中要次など、豪華役者陣が世界観を彩ります。
ストーリーはアルバム、書籍に準じたものとなっており、エルの人生が映像として見事に体現されています。
クレジットの「原作 Acid Black Cherry」の文字を見るとなんとも嬉しい気持ちになりますね。
現在はDVDが発売されており、豪華特典も用意されています。
中でも声優によるナレーションとアルバム曲で構成された【読み語り版】は必見です。
まだ手に入れてない方は是非購入してみてください。
曲から漂う歌謡感
yasuの音楽の基軸が漂ってくるメロディ
そんなメディアミックスを展開してきた「L-エル-」の収録曲「眠れぬ夜」。
歌詞からは不幸に見舞われたエルがやっと手に入れたささやかな幸せ。
そしてそれがいつか消えてしまうのではないかという恐怖がテーマとなっています。
「幸せすぎて怖い」。
そんな感情を彩る旋律からは、どこか昭和歌謡を思い出しますね。
歌謡感溢れるメロディとは裏腹に、バックで奏でられる伴奏はyasuの原点とも言えるギターロック。
アンバランスなミドルバラードは相反する2つの感情に怯えるエルの心模様を表しているかのようです。
それでいてキャッチーさがしっかり残っているところに、yasuの音楽的センスが垣間見えますね。
古くからのファンはもちろん、Acid Black Cherry初心者にも馴染みやすい曲だと思います。
ではそんな「眠れぬ夜」の歌詞を考察していきましょう。
手にした幸せと失う恐怖
オヴェスとの出会い
もう最初からわかってたんだ
きっと愛してしまうって
ごめんね だからあなたの目を見なかった
あの頃の私はただ幼くて ただ怖かったんだ
傷つきたくないから 愛さない
出典: 眠れぬ夜/作詞:林保徳 作曲:林保徳
オヴェスに出会った瞬間に見初めてしまったエル。
身内の不幸や親族からの扱いによって失意の中に立たされていた彼女の感情が歌われます。
目の前の幸せを手に入れようとするときっと壊れてしまう。
だからこそ最初は自分の感情から目を背けようとしたんですね。
5行目はそんな彼女の複雑な感情をストレートに表現しています。