「FIGHT CLUB」が描いた時代

追憶の1999年

Mr.Children【FIGHT CLUB】歌詞徹底解説!本当の敵は誰?タイトルはあの映画が由来!の画像

2015年6月4日発表、Mr.Childrenの通算18作目のアルバムREFLECTION」。

このアルバムに収録された楽曲FIGHT CLUB」について解説いたします。

楽曲のタイトルから察する方もいらっしゃるはずです。

この曲はデビッド・フィンチャー監督の映画「ファイト・クラブ」を下敷きにしています。

「ファイト・クラブ」が目まぐるしくシチュエーションが変わってゆく映画であることに影響されたのでしょう。

Mr.Children楽曲「FIGHT CLUB」も疾走感が生命のポップ・ロック・チューンです。

1999年とは妙に浮足立った世相が印象的な年でしょう。

今の若いリスナーは幼すぎて覚えていなかったり、生まれていなかったりで馴染みが薄いかもしれません。

歌詞の冒頭の「ミレニアム」というワードもピンと来なかったりするのでしょうか。

この記事はあくまでもMr.Childrenの「FIGHT CLUB」の解説記事です。

しかし必要な範囲で当時の時代背景なども解説いたします。

それでは実際の歌詞を見ていきましょう。

1999年という特殊な年

破滅と希望で混沌とした日々

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99年 ミレニアムを間近にしてナチュラルハイ
世界中が浮足立ってた
そしてお前は ファイトクラブでブラピが熱演してた
イカれた野郎に憧れてた

出典: FIGHT CLUB/作詞:KAZUTOSHI SAKURAI 作曲:KAZUTOSHI SAKURAI

歌詞の冒頭に現れるのは1999年の世界です。

語り手である主人公は友人である「お前」に語りかけます。

1999年というのは不思議な高揚感があった年でした。

若い世代は記憶がないでしょうし、生まれてさえいないかもしれません。

日本では「ノストラダムスの大予言」との関係が話題になっていました。

中世フランスの予言者といわれるノストラダムスが1999年に大災厄が起きると詩にしたためたのです。

この予言詩については五島勉という作家が1973年に書籍化してベストセラーになります。

終末思想などに大きな影響を与えました。

実際に人為的に大災厄=テロを起こしたオウム真理教の思想形成などに影響を与えます。

1999年7月、空から恐怖の大王アンゴルモアが云々という詩句を覚えている方も多いはずです。

オウム真理教はこの予言を人為的に再現する前段階として地下鉄サリン事件を起こしたともいわれます。

ところが実際に1999年になってみると大災厄が起きる前兆はどこにもありませんでした。

むしろ次の年の2000年にwindowsが暦をリセットされる「Y2K(2000年)問題」などが心配されました。

世紀末というものはいつの時代も大騒ぎになります。

19世紀末にも退廃的な社会状況が生まれました。

20世紀末は輪をかけて混乱した社会情勢であります。

一方で新しい千年代の始まりである21世紀を控えていたこともあり、新たに希望を謳う人もいました。

様々な人たちがそれぞれに興奮しながら過ごしていたのが1999年です。

Mr.Childrenの「FIGHT CLUB」の歌詞はこの雰囲気を知らないと深い理解にたどり着けません。

映画「ファイト・クラブ」の影響力

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主人公の友人はブラッド・ピットが演じた映画「ファイト・クラブ」に釘付けだったようです。

1999年に公開されたデビッド・フィンチャー監督の映画「ファイト・クラブ」はスタイリッシュな作品。

フィンチャー監督が得意なサスペンスですが、とにかくスピード感あふれる展開が印象的です。

また、歌詞にもあるように狂気があふれたイカれた映画でもあります。

資本主義社会に根本的な疑問を持って巨大企業へのテロを企てる「ファイト・クラブ」を描いていました。

映画「ファイト・クラブ」のあらすじ・ネタバレなどは紙幅の関係で掲載できません。

著名な作品ですのでネット検索していただければすぐに解説記事をご覧いただけます。

またAmazonプライム会員の方は実際の映画をネット配信でご覧いただけるのでチェックしてください。

資本主義社会への疑問という点はMr.Childrenの「FIGHT CLUB」にも共有されています。

この先の展開を読んでいきましょう。

仮想敵との虚しい闘い

巨大匿名掲示板などの登場

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皮肉で染まった色眼鏡かけて
そこからすべてのものを見下し

仮想敵見つけ
そいつと戦ってた
誰も相手になんかしてないのに
例え敵でも 嫌いな奴でも
ひとりより まだマシだった
孤独がいちばんの敵だった

出典: FIGHT CLUB/作詞:KAZUTOSHI SAKURAI 作曲:KAZUTOSHI SAKURAI

1999年頃の風景描写がまだ続きます。

この頃、インターネットの巨大匿名掲示板がアンダーグラウンドから表世界に進出しました。

冷笑的な態度が受けていて、自分よりも立場の弱いものを罵倒する嫌な風潮が広まります。

インターネットは現実社会の鏡のようなところがあるものでした。

他者の立場を理解するよりも先に、他者を攻撃するような文化

まっすぐ物事を見つめるよりも斜めから色眼鏡で物事を偏見の目で見てしまうこと。

社会の中で下層に沈ませていたものがインターネットの普及でオーバーグラウンドに現れた時代。

この傾向は1999年頃に始まったものですが、現代の社会ではより深刻な社会問題になっています。

桜井和寿は1999年と地続きである物事をチョイスして提示しているのです。

あの時代だけの話じゃないよ。

そんな桜井和寿の想いが透けます。

孤独と向き合うのは怖い

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インターネット上で「悪者」を仕立て上げて攻撃する日々。

日々、飽きもせずに目に見えない相手に悪罵を投げつけること。

こうした不毛な行動には実生活では仲間がいません。

しかし不思議なことにインターネットの中では仲間がいるのです。

実際に出会える仲間ではないのに勝手な連帯感と高揚感で弱者を痛めつける。

最低な行為だと自覚するのですが、自分の孤独を知るよりはいいだろうと開き直ります。

本当の敵は社会を分割するような大きな力が振るわれていることであるというのに。

失われた30年での「勝ち組」と「負け組」などあらゆる差が生まれる残酷な格差社会が生まれました。

その中で人は細分化されて無力化されて孤独になります。

この孤独と向き合うことはとても怖いことですから、気分を紛らわせられるものに依存するのです。

映画「ファイト・クラブ」と呼応する展開でもあります。

この映画の主演のブラッド・ピットに影響された友人の姿。

桜井和寿はこれら一連の出来事に批判的な目を向けています。