ラップのリリックのように始まるのが2曲目『オトナのピーターパン』です。
大人になれないのがピーターパン。では、オトナのピーターパンは大人なのでしょうか?子どもなのでしょうか?
楽曲は全体的にポップでキュート、おもちゃ箱の中を泳いでいるような印象です。
大人か子どもか、で分ければ「子ども」のイメージがあります。
しかし歌詞に着目すると、リボ払い、連帯保証人、家賃高い……。
教えられていないルールがはびこる大人社会
「騙された!」
「騙してないよ」
「幸せかい?」
「そうでもないよ」
脳内でこどもと大人が争ってんの
「聞いてないよ、最初から言っとくべきでしょ? 」
べきべきべきべきべき 心折れる音
出典: オトナのピーターパン/作詞:ピノキオピー 作曲:ピノキオピー
頭にきたこと、傷ついたことや嬉しかったことさえも迂闊に声に出せないのが大人社会です。
すぐに感情的になる人だというレッテルを貼られたり、マウンティング要注意人物として避けられたり。
子どもの頃は当たり前のように表現していた感情を抑え込まなければなりません。
大人は大人らしく、それってどこに書いてあるのでしょうか。
また「人として当たり前」「普通の考え」「常識」という曖昧な概念が突として出現するのも大人社会です。
歌詞にあるように「〜すべき」で大人が大人を攻撃するのが日常ではないでしょうか。
「〜すべき」、それってどこに書いてあるのでしょうか。
大人になって感じる生きづらさはきっと、心の中に未だ生きているピーターパンのせいなのかもしれません。
ピーターパンを飼っていることは、大人としてダメなことなのでしょうか。
3. ナンセンス・ハビット
前2曲とはガラリと印象が異なるのが3曲目『ナンセンス・ハビット』です。
出だしはハープのように繊細な音色にストリングスが薄っすらと重なり、ナナヲアカリの細い声音が絹糸のように伸びていきます。
しかしサビに入った途端、パンクにも通じるリズムで突如疾走。
ところどころ重さを感じ、ポップさが見えなくなります。
アルバムの空気が一瞬で入れ替わるような印象的な曲ですね。
不要な習慣が人を縛る
意識的な無意識演出
そろそろ疲れてきませんか
見知らぬ誰かの不幸で
またちょっと息ができたね
不自然すぎる しあわせアピール
満ち足りてるやつは隠しちゃえ
通知はいかない仕様だし 大丈夫だよ
ねぇ?
出典: ナンセンス・ハビット/作詞:ナナヲアカリ 作曲:ゆよゆっぺ
見ていないフリではなく、見ようとも思わなかったフリ。
知らなかったフリではなく、知ろうともしなかったフリ。
本当は見ているし知っているのに、できるだけ関与したくないという一心で知らんぷりを決め込むことはありませんか?
誰かが痛い目に遭っているのを知っているのに、蜜の味だけ吸って「知らなかった」と言ってしまう。
悪いことではないはずです。
SNSで見たいものだけを見て、見たくないものをミュートする。誰かを傷つけることはありません。
しかしこの行為になぜか罪悪感を抱いてしまうのです。
必要のない習慣が自然と身についてしまったことで、生きづらさを感じやすくなっているのではないでしょうか。
4. パスポート
ボイスエフェクトとEDMの要素を詰め込んだ『パスポート』。
ナナヲアカリのハイトーンボイスの美しさが際立つサビが魅力です。
3曲目の熱をクールダウンするようなライトなリズムは「生きづらさ」を忘れさせてくれます。
しかしあくまでもそれはリズムだけ。歌詞にはやはり、幸せを求めることの弊害が綴られています。
結果が見えなければ前に進めない大人たち
僕だけのパスポート持って
誰に会おうかな会えるかな
懐かしい想いも荷物に詰め込んで閉じ込めて
有効期限切れる前に
あの日々を笑えたら
何も言わずそっとぎゅっと
目を瞑ってさよなら
出典: パスポート/作詞:大沼パセリ 作曲:大沼パセリ
大人になれば、どこに行こうが自由です。思い立ったら有給を申請して旅に出ることもできます。
親の監視下、学校の監視下にない大人は、子どもと比較すればかなりの自由を獲得しているのです。
きっと子どもにいわせれば「いいなあ、大人は自由で」となるのでしょう。
しかし自由だからこそ、どこに行けば良いのか分からなくなるのかもしれません。
自由なはずなのに「いつまでに」と期限を決めて、行き先が決まらないことに不安が募ります。
子どもの頃は、どこに辿り着くか分からない細道を行くのが楽しかったはずなのです。
行先に「幸せ」「成功」が待っていなければ前に進めない。
そんな大人の意気地のなさを感じてしまう『パスポート』です。
5. ウツムキブレザー
ゲームの電子音がいくつものビー玉となって転がり続ける。そんなサウンドで幕を開けるのが『ウツムキブレザー』です。
このアルバムで明確に「恋愛ソング」に位置づけられるのはこの曲だけではないでしょうか。
サビのフレーズがいつまでも頭に残り、さて自分は何をやめようか、と考えたくなります。