「プラネタリウム」の歌詞を紐解く
四畳半を拡げたくて 閃いてからは速かった
次の日には 出来上がった 手作りプラネタリウム
出典: プラネタリウム/作詞:藤原基央 作曲:藤原基央
身近な導入部分からスタートしていきます。
四畳半の部屋は誰しも過ごしたことがあるでしょう。
筆者も漏れなく、親から自分の部屋を与えられた時は四畳半でした。
想像しやすい空間をまずは演出していきます。
それを拡げたい、そんな想いに駆られた少年のストーリーがここから紡がれていきます。
鬱屈とした少年時代、なんだか思うようにいかなかったり、理由もないのにもやもやしたり。
そんな時代を誰しも乗り越えてきているのではないでしょうか。
心が塞ぎこみそうな時、部屋にいることは落ち着くけれど、どうにもこの世界のように狭く感じてしまって、こままじゃ押し潰されそうで心をもっと広い世界に連れて行きたいという衝動に駆られます。
そして、思いついた手作りのプラネタリウム。早速行動に移します。
科学の本に書いてあった 作り方の他にアレンジ
実在しない穴を開けて 恥ずかしい名前付けた
出典: プラネタリウム/作詞:藤原基央 作曲:藤原基央
ここで作る手作りプラネタリウムは紙に穴を開けてドーム状にし、中から灯りを点して暗くした部屋に星を映すタイプだと想像できます。
そのプラネタリウムに個性を出したくて、本来開けるはずのない穴を開けます。
つまり自分の星を作ったわけです。そこに名前も付けることでアイデンティティーを確立していきます。
消えそうなくらい 輝いてて
触れようと 手を伸ばしてみた
一番眩しい あの星の名前は
僕しか知らない
出典: プラネタリウム/作詞:藤原基央 作曲:藤原基央
自分で作った星はその他の何よりも輝いて見えます。それは自分で開けた穴だからこそです。
現実世界に出てみれば存在しない星だけれど、四畳半の宇宙に確実にその星は存在しています。
触れれば手が届くほど近くにある輝く星に、少年は一体何を重ねて見ているのでしょうか。
天井も壁も無くなって 代わりに宇宙を敷き詰めて
窓は一度も 開けないままで 全てを手に入れた
出典: プラネタリウム/作詞:藤原基央 作曲:藤原基央
暗闇の中、映し出す宇宙。
本来ならば外に出ることで得られるはずの景色を部屋の中だけで完結して手に入れています。
何も無くていい、人の手も借りることなく自分だけの力で素敵な景色を作れるという、思春期特有の自己顕示の表れのように感じ取れます。
四畳半の片隅には ここにしか無い星がある
傷付かず 傷付けないままで 君をついに閉じ込めた
出典: プラネタリウム/作詞:藤原基央 作曲:藤原基央
そして、自分で作った星と改めて向き合います。
外の世界にでは、人と関わることで生きていかなければなりません。
しかし、自分の部屋で完結してしまえば、誰とも関わることはないのです。
関わることが無ければ、傷つくことも傷つけられることもありません。
そして、ここで出現する「君」という存在。
文脈で考えると「星」とリンクしてきますが、「君」とは一体誰なのでしょう。
近付いた分 遠ざけてて
触れる事は 諦めてた
背伸びしたら 驚く程容易く
触れてしまった
出典: プラネタリウム/作詞:藤原基央 作曲:藤原基央
少しずつ答えに近づいていくような歌詞です。
自分にとって輝く存在は憧れている人や好きな人など自分以外の誰かなのではないでしょうか。
それに星を重ねています。
人と関わることを近づくという表現で、そして、傷つけたり傷ついたりすることを遠ざけてという表現で示しているように感じます。
傷つけあうことを恐れて、殻に籠もったり、本音でぶつからなかったり、そんな自分を変えようと手を伸ばせば思ったよりも簡単にその「君」には手が届きます。
やめとけば良かった
当たり前だけど 本当に届いてしまった
この星は君じゃない 僕の夢
本当に届く訳無い光
でも 消えてくれない光
出典: プラネタリウム/作詞:藤原基央 作曲:藤原基央
分かってはいたことでも、実際に手を伸ばすのは怖いことです。
人に心から寄り添い手を取り合うことは難しいことです。
しかし、そんな自分を変えないといけません。
手が届くことをちゃんと理解したことで、「星」は自分以外の誰かではないことに気付きます。
「星」は変わりたいと願う自分自身であるのです。
その光は自分自身なので手を伸ばせるものでもありません。しかし、願う心の光は消えないものなのです。
四畳半の窓を開けて 見上げれば現実が巡る
実在しない星を 探す心が プラネタリウム
出典: プラネタリウム/作詞:藤原基央 作曲:藤原基央
「星」が自分自身であることに気付いた少年は変わろうと動き出します。
まずは窓を開け、現実と向き合うことから始めます。
さっきまで部屋の中では確かにあった自分だけの星はもう現実には存在しません。
しかし、願う心の光はやはり消えることはないのです。
暗く閉じかけていた心の中にひとつのたしかな星となってちゃんと存在しているのです。