熱風船
クライマックスの夜空に舞う熱風船はタイの有名な祭事で、豊作の感謝と魂の浄化を願うものとされています。
渡辺美優紀の卒業を祝福し、全てに感謝する。このシーンにはそうした想いも込められているのでしょう。
そして舞い上がっていく熱風船を見つめる視線は、メンバーとファンの想いが込められているようです。
インサートされる一連のショットの意味
波打ち際を歩く
曲の冒頭から裸足で波打ち際を一人歩く足が映し出されます。一見すると歌詞に連動するかのような短いショットです。
足はやがて二人になり、次のショットでは水着姿で波打ち際を歩く渡辺美優紀と山本彩が映し出されます。
二人が着ている水着はもうひとつのMVであるダンシングバージョンの衣装です。
この一連のショットは2つのMVを単純にリンクさせるためだけのものではないでしょう。
二人の視線と表情はステージに向かうアイドルのようです。
そうしてMVのストーリーの中の渡辺と、NMB48としての彼女が交錯していきます。
またここで渡辺と山本の二人だけということも印象的です。
二人の関係性がここでも強調されています。
このショットの後、ドラマでは山本が渡辺を「夢」の世界に導くのです。
ヒロインである彼女にとって、導き手である山本が特別な関係であることを暗示しています。
そして二人が歩く先はダンシングバージョンへと続いていることも同時に示しているのです。
つまりダンシングバージョンはこのMVのストーリーの一部として見ることも出来ます。
海を見つめる
もう一つインサートされる海岸の林から海を見つめるシーンも同様です。
ここでは渡辺美優紀と他のメンバーは、見つめ合うのではなく共に同じ場所で水平線を見つめています。
その様子は仲間と共にNMB48として一つの同じ目標を目指していたことを象徴しているかのようです。
これらのシーンは歌詞を引用しながら、ドラマにおける過去のパートとしても組み込まれています。
ダンスバージョンMV
ダンスバージョンのMVには、余分なインサートは一切ないというストイックな作りになっています。
渡辺美優紀の水着
センターである渡辺美優紀は頭にカラフルな花冠をつけ、白のフリルのビキニ姿です。
その衣装はどこかウエディングドレスを想起させます。
むろん「卒業」を悲しむのではなく祝福ととらえ、そこから祝福される「花嫁」に連なっているのでしょう。
それでも別れた恋人を歌った歌詞を考えれば、「花嫁」や「祝福」というイメージは相反するようにも思えます。
振り付け
そのダンスの振り付けもどの瞬間にもメンバーが常にかわいく、かっこよく見えるように計算されています。
それでいてマネしやすく、かわいく見えるという王道のような振り付けです。
しかし間奏に入る直前、両手を顔に寄せて頬をなでるポーズが入ります。
少しさびしげで印象的なこの仕草によって、一瞬だけ、大人びた雰囲気を醸し出します。
その後、山本彩が渡辺美優紀の隣に来てダブルセンターとなります。
二人は恋人のようでもあり、また山本彩が卒業する渡辺を祝福するかのようです。
この二つの振り付けによって、全体が過去の美しく楽しかった思い出を表しているように見えてきます。
そして寂しげなしぐさが別れてしまった現実を垣間見せます。
そしてダブルセンターで「君と僕」が海で繋がっていることを暗示するのです。
それは現在であり、かなえられなかったもう一つの未来でもあります。
視線によるリンク
最後のショットは踊り終わり浜辺に座り海を見つめる彼女たちを見下ろしながら遠のいていくカットです。
その映像はもうひとつのMVのクライマックスでの見上げる視線と対になっているようでもあります。
イメージドラマ風MVではインサートによって、ダンシングバージョンを物語に取り込んでいました。
その一方で双方のラストが飛び立つ視線と見送る視線としてシンクロしていきます。
こうして2つのMVは過去と未来、夢と現実とを相互に描きながらリンクし、渡辺美優紀の卒業を祝福しています。