Wait & See

17歳、驚きの感性

【Wait & See~リスク~/宇多田ヒカル】歌詞の意味を解釈!リスクを背負うことに意味がある!の画像

宇多田ヒカル5thシングル「Wait & See〜リスク〜」

ミレニアムの2000年にリリースされました。

新たな千年紀が始まったこの年、彼女が音楽を通して発信したメッセージが「Wait & See」。

「ちょっと様子を見よう」といった意味です。

1990年代終盤から、地球規模で広まったのが政治・経済のグローバリズムと、新自由主義

超大国アメリカが世界の画一化を図ったとも取れる急進的な潮流です。

こうした動きは、民族・宗教間の対立という「リスク」を生むことになります。

極限まで高まった「リスク」が現実の悲劇となったのが、2001年のアメリカ同時多発テロ事件でした。

もちろん「Wait & See〜リスク〜」は、世界情勢をテーマにした曲ではありません。

日系アメリカ人としてニューヨークで生まれ育った宇多田ヒカル

当時まだ17歳の少女は、ワールドワイドな空気感を読み取っていたと思えてならないのです。

東京・渋谷の街を飛び回る宇多田ヒカル。操縦するのは、近未来のエアスクーターです。リアルなCGは迫力たっぷりの、クールなPV。

歌詞の世界

「だって」で始まる斬新さ。その多面的な心情

だって「つまずきながら」って
口で言う程 楽じゃないはずでしょ
待って
もう少し分かってくれたらきっと
もっといい雨が降るから

勝手。
そう呼ばれちゃって
時々孤独 感じても大丈夫
二人で出した答に乗り込んで
曇り空を追い抜くから

廻らないタイヤが目の前に
並んでるけど
Accel 踏まずにいるのは誰だろうね
矛盾屋

出典: Waut&See~リスク~/作詞:Utada Hikaru 作曲:Utada Hikaru

それではAメロの歌詞から、順にチェックしていきましょう。

まず驚かされるのは、「だって」で始まる歌詞の斬新さ。

その言葉は、曲にリズムを生み出す効果ももたらしています。

「『つまずきながら』って」「待って」「勝手。」「そう呼ばれちゃって」

「だって」を起点に、見事に韻を踏んでいるのです。

さらに魅力的なのが、リズミカルなテンポをまとった歌詞の意味の深さ。

「だって」という言葉は、相手に反論したり、言い訳したりする際に用いられます。

しかし、歌詞の冒頭に置かれたことで、どんな相手、事柄への反論なのかは不明なまま。

それらはあえて、リスナーの自由なイメージにゆだねられているように思えます。

そんなミステリアスな歌詞ですが、くっきりと感じられる要素があります。

同一人物の内面に潜む、多面的な心情です。

1つは「口で言う程楽じゃない」というネガティブな心情。

もう1つは、「もっといい雨が降るから」というポジティブな心情。

とはいえ、そのポジティブさは、何もかもがうまくいくことを期待したものではないようです。

その根拠は「もっといい雨」という歌詞にあります。

「雨が降り止むわけではない」ということを受け入れているように感じるのです。

複雑に揺れ動く心情が、せめぎ合うような葛藤を感じさせるのは「矛盾屋」という言葉。

「誰だろうね」というシニカルな言い回しは、葛藤から芽生えた自嘲とも受け取れます。

ジャケット写真に映る4人の宇多田ヒカルは、それぞれ違う表情、ポーズ。

多面的な心情を可視化したかのようなイメージをもたらしているのです。

PVでも、3人の宇多田ヒカルが同時に登場するシーンがあります。 

「リスク」が意味するもの

Oh baby wait and see
たまには痛さもいいよね
リスクがあるからこそ
信じることに意味があるのさ
迷わないなんて無理
Oh baby can’t you see
待つのは得意じゃないけど
決めつけるのは早すぎるんだ
占いなんて信じたりしないで

出典: Wait&See~リスク~/作詞:Utada Hikaru 作曲:Utada Hikaru

「リスク」というシリアスな単語が並ぶ、サビの歌詞。

「痛さ」とイコールの意味で使われています。

しかし、それらは決して、遠ざけるべきものとしては歌われていません。

むしろ「リスクがあるからこそ」と、好意的に受け止められています。

人間というのはとかく、リスクを避けようとする生き物。

もちろん、生きていく上でリスクをかわすことは大切なことです。

しかし、リスクを回避するためだけに生きているとなれば、話は別。

人間関係や恋愛、勉強、仕事、趣味など。

なりたい自分になるために。

自分らしさを失わないために。

人生にはリスクを怖れず、全力を尽くさなければならない場面があることは、誰もが知っています。

10代半ばにして、音楽家として生きる覚悟を決めていたであろう宇多田ヒカル。

この曲には、リスクを乗り越えた彼女の言葉だからこそ伝わるメッセージが込められています。

にじみ出る強さ

Oh baby wait and see
やっぱ痛いのはイヤだけど
リスクがあるからこそ
戦う程に強くなるのさ
怖れないなんて無理
Oh baby can’t you see
待つのは得意じゃないけど
決めつけるのは早すぎるんだ
占いなんて信じたりしないで

出典: Wait&See~リスク~/作詞:Utada Hikaru 作曲:Utada Hikaru

繰り返されるサビでは再び、多面的な心情が顔をのぞかせます。

「やっぱ痛いのはイヤだけど」

「怖れないなんて無理」

そんな正直な胸の内も垣間見えます。

一方で「戦う程に強くなるのさ」という、心を奮い立たせる言葉も。

再びリフレインされる歌詞は「リクスがあるからこそ」。

さらには「決めつけるのは早すぎるんだ」「占いなんて信じたりしないで」

弱さを認めながら、リスクを楽しもうというスタンスさえ感じられます。

「様子を見よう」という「Wait & See」の意味。

この曲では、決して消極的なものではないということが、はっきりと分かります。

「自分自身からは逃れられない」という真実

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