人生を賭けた「ギャンブル」
「絶頂集」「平成風俗」に収録
2000年9月3日発表、椎名林檎の8cmシングル3枚組「絶頂集」に収められた「ギャンブル」。
初期の椎名林檎サウンドをダイレクトに伝える鋭利なギターが印象的な楽曲です。
後に2007年2月21日発表、斎藤ネコとのコラボ・アルバム「平成風俗」で繊細なリメイク。
シングル集「絶頂集」は廃盤(2019年5月現在)になっておりデジタル配信のみで聴くことができます。
初出の「絶頂集」の「ギャンブル」はライブ音源です。
この歌には公営ギャンブルの話題は一切出てきません。
何をもって「ギャンブル」とするかはその人それぞれです。
椎名林檎は人生を賭けた「ギャンブル」の話をします。
破滅的なのにほのかなユーモアをたたえた歌詞。
この歌詞を紐解きながら人生を賭けたギャンブルの真相に迫ります。
本人が胴元の「ギャンブル」
「ギャンブル」の中で一番危険?
「ギャンブル」と聴いてどんなことを思い出すでしょうか?
月曜日から日曜日まで何らかの形で行われている公営ギャンブル。
IRリゾート整備法で国内に流入するカジノ。
海外各地で行われている様々なカジノ施設。
勝利や依存、敗北と喜び悲しみの悲喜こもごも見受けられます。
椎名林檎の「ギャンブル」はそうした自治体や他人が胴元の賭け事の話ではありません。
胴元も成功するか否かも本人次第の「ギャンブル」に挑戦します。
さて、その実態はいかがなものでしょう?
歌詞を見ていきましょう。
優しい「あなた」に心奪われる
まだまだ平穏な状況
あなたはそっと微笑(わら)ってくれるから
明くる朝とうに泣き止んで居るのさ
此の小さな轍(わだち)に「アナタ呼吸(イキ)ヲシテ居(イ)ル」
出典: ギャンブル/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
まず気付くのはこの頃はまだ旧仮名遣いの歌詞ではなかったこと。
旧仮名遣いの歌詞ですと受け止めるまでにワンクッション置くような印象があります。
その点、現代国語で言文一致の歌詞は安心できるのです。
前の晩、主人公の「私」は泣きぬれていたよう。
優しい相手は笑顔を絶やさない人です。
そんな相手の顔を見つめている内に泣いている自分がおかしく思えてきた。
朝には涙も乾ききっていたなどの心境が歌われています。
まだ順調な交際であるように思えるところ。
「あなた」が存在してくれていることへの感謝が滲みます。
命がけの夏が来る
見え隠れする反抗心
蝉が喚いて夏の到来を知る
其の都度何故か羨んで居るのさ
此の戦地で尽きたら「何(ナニ)カシラヘノ服従(フクジュー)」
出典: ギャンブル/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
過酷な夏が来ました。
セミたちの声でその事を知るのです。
椎名林檎はここで日常生活の場を「戦地」と例えます。
「戦地」たる過酷な夏の日常。
命が尽きてしまったら「なにか大きなもの」へと服従することと同じだ。
解釈が難しい場面です。
どこかギリギリの感覚で生きている気概が伝わってきます。
近年の酷暑では夏が本当に戦場のように厳しい環境です。
また、日本人は夏になると必ず先の大戦のことを想い返すもの。
過酷な環境で尽きてしまうということは自然の摂理や社会の原則への服従を意味します。
この頃の椎名林檎にはそうした服従への反抗心がうかがえるのです。