Official髭男dism「相思相愛」はどんな曲?
ビリー・ジョエル、矢野顕子さん、アンジェラ・アキさん、中村佳穂さん。
この辺りの上質なピアノ系ポップスがお好きな方にぴったりの曲でしょう。
今回はOfficial髭男dism(以下ヒゲダン)の「相思相愛」を紹介します。
ヒゲダンは2018年4月、ドラマ主題歌にも起用されたシングル「ノーダウト」でメジャーデビューしました。
「相思相愛」は、この「ノーダウト」もおさめられたアルバム「エスカパレード」の収録曲です。
ヒゲダンにとって1枚目のこのフルアルバムも、「ノーダウト」と同日にリリースされました。
ただ「ノーダウト」はメジャーレーベルのポニーキャニオンから発売。
「エスカパレード」はインディーズレーベルから発売という、少々珍しいリリース形態でした。
つまり「相思相愛」はインディーズに別れを告げ、メジャーシーンへ。
そんなタイミングの曲です。
号泣必至の失恋ソング。
わざわざ泣かせようとしていることがわかっていても涙が止まりません。
この「あり得ないほどずるい」極上のピアノポップの歌詞を紐解きます。
歌詞を見てみよう!
クズ男になった?
「最低でクズな男になった
気分はどうだい?」
僕は僕に問う
責めるつもりはないんだ
でもグチくらい
言わせてくれたっていいだろう
我ながら少し見損なったよ
出典: 相思相愛/作詞:藤原聡 作曲:藤原聡
冒頭からいきなり、「相思相愛」という歌物語の主人公「僕」の自問自答が投下されます。
しかもクズ男になったというのです。
いったい何が始まったのか、度肝を抜かれるようなインパクトのある入り方になっています。
どうやら僕は自分が情けないと嘆き、グチをこぼしたい気分なのでしょう。
といっても、たまたま目の前にいた知らない人が突然、頭を抱えて「あ~!」と叫んだような状態です。
お笑い芸人にたとえるなら、宮下・草薙の宮下さんとばったり遭遇してしまった感じでしょうか。
グチがたまっていることはわかったから少し落ち着こうと声をかけたくなるほどです。
ただ、宮下さんの芸を地でいくような僕に何が起きたのかはわかりません。
ブルース?ジャズ?
ヒゲダンがブラックミュージックをルーツとしていることを考慮した解説も加えていきましょう。
グチをこぼす歌といえば、ブラックミュージックでは泣きのブルースです。
あるいは切ないジャズバラードも考えられるでしょう。
この曲ではジャズっぽいサウンドにのせてブルース調の歌詞を歌う!という宣言かもしれません。
愛する彼女に言い訳しつつグチを吐きまくるのはブルースの常套手段です。
実際ジャズサウンドとともにヒゲダン流のブルースがスタートしています。
最低なブルースマンになりきるところから始め「こんな感じだけどどう?」と自問自答しているのです。
しかも、このなりきり&自問自答をリスナーに提示して「どう?」と問いかけるという二重構造になっています。
歌物語の内容はまだわかりませんが、このように音楽的な裏テーマを想像するのもヒゲダンの醍醐味でしょう。
いったい何があった?
彼女と別れた
「さよなら」だけで片付けてさ
「はいそうですか」ってなるには
月日はあまりに重なりすぎたから
せめて最後くらいは
出典: 相思相愛/作詞:藤原聡 作曲:藤原聡
この曲の音楽的な背景がわかったら、あとは実際にヒゲダン流ブルースの世界に飛び込むだけです。
どうやら僕は彼女と別れたようです。
しかも、自分から別れを切り出したわけではなく、振られたのでしょう。
交際期間が短いほど傷は浅いとは限らないかもしれませんが、長いつき合いだとショックも大きいですね。
ところが別れを切り出すほうも実は大変という考え方もできるでしょう。
相手が落ち込むことはわかっているので伝え方には神経を使うはずです。
その結果、別れの言葉はシンプルな一言だったという話でしょう。
いつのまにか疎遠になって、気がついたら別れたことになっていた。そんな失恋もあります。
それを考えると、シンプルな言葉でも別れをきちんと伝えたのは、彼女の優しさかもしれません。
ところが僕は、長いつき合いだったのに別れの言葉数が少なすぎるのは冷たいと感じたのでしょう。
深読みすると、インディーズからメジャーへ移るにあたってのヒゲダンの心境も重なります。
たとえば急なデビューによって別れの挨拶代わりの活動がままならず、この曲に思いを託したのかもしれません。
はっきり言ってほしかった
「相思相愛じゃない」
「疑う余地もなく愛はない」
それくらい言ってしまったって
良いじゃない
ほんとずるいよな自分勝手だよな
ありえない
それもちゃんと
わかってたんじゃない?
出典: 相思相愛/作詞:藤原聡 作曲:藤原聡
僕は彼女に対して、勝手すぎるとグチをこぼしています。
それは彼女がさっぱりとしたきれいな別れ方を選んだからでしょう。
客観的にみるとやはり彼女の優しさのようにも感じられますが、僕としては不満なわけです。
なぜなら本当にもう自分のことを愛していないのか、なかなか信じられないからでしょう。
何もかもひっくるめたシンプルな別れの言葉だけなのはずるいという話。
「嫌いになったから別れて」とはっきり言ってもらわないと、彼女の愛が冷めたことを実感できないのでしょう。
これが歌物語の世界観です。
さらにヒゲダン流の音楽的な裏テーマについても解説しておきます。
涙腺に響く歌詞やコード進行など。
ずるいとわかりながら実際にやることへのとまどいが見え隠れしているかもしれません。
このようなエクスキューズ(言い訳)をわざわざ提示する技を多用するところがヒゲダンのおもしろさでしょう。
おまけにグチや言い訳は、ブルースの歌詞の様式美にも則っています。
そしてヒゲダンというバンドのストーリーさえ重ね合わせることもできる点がニクイですね。