一瞬で道が分かれる
再び女子高生が走っている映像。しかし、バスを目前にしてトラブルが発生します。
彼女の眼鏡が地面に落ちてしまったのです。ガラスにはヒビが入っています。
眼鏡が落ちたことで彼女は足を止めざるを得ず、バスは発車してしまいました。
一人目はバスに乗り、二人目はバスに乗れず。
二人の西野七瀬は、眼鏡が落下した瞬間から別々の人生を歩み始めたということになります。
一人目の西野はバスに乗って家に帰るのでしょう。では二人目はこの後、どうなったでしょうか。
些細な出来事によって、2人の未来は変わってしまいました。
今までの人生は同じだったにも関わらず、ここから2人は違う未来を歩み始めるのです。
人生の転機
割れてしまった眼鏡を拾い上げた彼女。そこに近づいてきたのは、スカウトマンの男性でした。
眼鏡がないため、手渡された書類の内容が読めません。
眉根を寄せるようにして確認すると、なんとアイドルオーディションの案内状だったのです。
「眼鏡が落ちた」
ただそれだけのことで将来を左右するような出会いが訪れました。
人生の「分岐点」は一瞬で過ぎ去り、気づいた時には分かれ道のどちらかを無意識に選んで進んでいるということでしょう。
たった1つの些細な出来事が要因となって、私たちの未来は木の枝のように分岐していきます。
そこから分かるのは、私たちは気が付かない内に運命というものに導かれているということです。
私たちは自分で未来を選択していると思っています。
しかしながら、本当は自分で選択した訳ではない、偶然の出来事に巻き込まれていることの方が多いのでしょう。
そしてそれがこのように、別の未来の可能性となっていくのです。
未来が変わる要因というのは至る所にあります。
そう考えると、もしもこうしていたらと自身の行動を省みても仕方がないことなのかもしれません。
それぞれに届いた嬉しい知らせ
二人目の西野はカフェで退屈そうに頬杖をついています。眼鏡はやめてコンタクトにしたようです。
彼女のスマホに届いた通知はアイドル発掘オーディションの最終選考通過の知らせでした。
あまりの衝撃に声を上げてしまったようで、周囲のお客さんに謝っています。
一方、一人目の西野七瀬はどうしているでしょうか。
彼女は美術部員。おどける友人部員たちに微笑みながら、画板に鉛筆を滑らせています。
友人と比較すると、あまり騒がしいタイプではないようですね。
実は彼女の元にも嬉しい知らせが舞い込んできました。
念願だった美術学部の合格通知が届いたのです。
書類を胸に抱き、静かに喜びを噛み締めますが、嬉しくて仕方がなかったのでしょう。
屋上に上がると大声で「やったー!」と叫びました。
普段は大人しい性格でも、いざというときは自分が出せる女性ということですね。
乃木坂46の西野七瀬自身、喋ることが得意ではなく比較的大人しいタイプのようです。
そんな彼女が時折爆発させる感情を、他のメンバーが目にしたのかもしれません。
カフェではニヤニヤが止まらず、屋上では楽しそうに跳ね回るという二人の西野七瀬が印象的です。
冒頭の「眼鏡を落とした」というたった1つの分岐が、ここでは更に未来を大きく変えていきます。
そうした経験する出来事の違いというのは、本人の性格にも影響を及ぼしていくことでしょう。
ここから分かるのは乃木坂46として活動している現実の西野七瀬にも、他の未来があったかもしれないこと。
そう考えると、今まで私たちファンをアイドルとして楽しませてくれてきた彼女の存在がとても貴重なものに思えてきます。
日本中にこれだけ人が溢れている中で彼女がアイドルという職業を選んだのは、奇跡的なことだといえるのではないでしょうか。
「逃げる」と「進む」は違う
それぞれの人生を歩き始めた二人。
二人とも懸命に生きているのに、なぜか明暗が分かれます。
つまずいたのは一人
大学に入学した一人目の西野七瀬は、石膏像のデッサン中に石膏像ではないイラストを描いていました。
彼女が描いたのは、可愛らしいモンスター。その丸い頭からは木が生えていて、木の実が落ちている光景でした。
木の枝の分岐は人生の分岐を表しているのではないでしょうか。
そして、枝の先に実がなっていることから「どんな道を選んでも幸せが掴める」という意味を感じます。
一方、アイドルの道を歩き始めた二人目の西野七瀬は、ダンスレッスンの真っ最中。
周りの動きについていけず、どこか落ち込んでいるような表情を見せています。
彼女がこのままレッスンについていけるのだろうか、と周囲は不安そうです。
二人の西野七瀬のうち、つまずいたのはアイドルの一人。美大生の彼女は楽しそうに過ごしています。
だからといって、アイドルの西野七瀬が進む道を間違えたとは言い切れません。
なぜなら、彼女はアイドルメンバーの一員として皆に迎え入れられているからです。
うまくいかなくて足を止めてしまったとき、自分のことのように心配してくれる仲間ができたのです。
どちらの西野七瀬も、自分の出来ることを懸命にこなそうとしています。
その姿勢には違いはありません。
どちらの未来が良いとか悪いとかではないのです。
私たちは時々、選択を間違えたと思ってしまう時があります。
そう思うときは大抵自分が苦しかったり、思うように行かなかったりする時です。
しかしそれは必ずしも間違いではありません。
もしこの道を選んでなかったらこの仲間に出会えないし、こういう経験もできていなかった。
そう思えれば、自分の選択を後悔せずに済むのではないでしょうか。
彼女もアイドルになったことが苦しくても、決して間違いではないのです。
二人の根底にあるのは「絵」
美大生の西野は友人たちと公園に来ていました。
笑顔の絶えない彼らの光景をバスの中から見ていたのが、アイドルの西野です。
もしもアイドルにならなかったら自分もあんなふうに……と考えたのでしょう。
少し悲しそうな表情を見せます。
自分から望んでオーディションを受けた人もいれば、西野七瀬は親が応募したそうです。
もしあの時オーディションを受けなければどうなっていたか。
アイドルとして生きるのは楽しいことばかりではありませんから、「もし別の選択をしていたら」と何度も想像したはずです。
実はアイドルになってからも絵を描き続けていた二人目の西野。
手元のスケッチブックには女の子のイラストが描かれていました。前髪の辺りには「飛」の文字。
文字から伸びた線は頭の上へ向かい、三本に分岐して伸びています。
女の子の頭の丸さ、頭の天辺からの枝分かれ。美大生のイラストと重なる要素がいくつかありました。
「飛」の文字と枝分かれの意味
「飛」の文字から伸びた線と、その枝分かれにどのような意味があるのでしょうか。
普通の女子高生にとって、アイドルは雲の上の存在ともいえる遠いもの。
そこに、あっという間に届いてしまったわけです。
言い換えれば、女子高生の立ち位置から何もかもを飛び越えてアイドルになった、ということでしょうか。
今彼女は「飛」の字の中にいます。そこから動けずに苦しんでいます。
しかし「ずっとそこにいる必要はない」ということを、伸びる線が表現していると考えられます。
そして「これからも沢山の選択肢がある」ということを、枝分かれで伝えようとしているのではないでしょうか。
乃木坂46からの卒業が決まっている西野七瀬は、こうしたポジティブな気持ちでいるのだと感じます。
これからの未来にはきっと無限の可能性があるから大丈夫だ。
彼女は今、そう思いながら新たな未来へと羽ばたこうとしているのではないでしょうか。
限界を迎えたアイドルの行き先
一人でカラオケを楽しむ美大生。ストレスを発散するように歌い、入室してきた店員を巻き込んで大盛り上がりします。
それで元気が取り戻せるぐらい、彼女のストレスは小さなものだということです。
一方、アイドル西野七瀬は今もなおうまく踊れません。踊れないというより、集中できないように見えます。
ダンスの途中で限界を迎えてスタジオを出ていこうとしますが、マネージャーらしき人物が目に留まり、出ていけませんでした。
でも本当に限界なら、マネージャーのことなど考えずに逃げ出せばいいのです。
それができなかったというMVの描写は、何を表しているのでしょうか。
アイドルを辞めてしまいたいと思ったとき、思い浮かぶのはメンバーやファンの顔、お世話になった人の顔。
応援してくれる人たちのおかげでここに辿り着いたのだ、と思って踏みとどまるのです。
では、実際に卒業を決めた西野七瀬には、こうした人々の顔が浮かばないのか?といえばそうではありません。
「疲れた、つらい、辞めたい」だけではファンに対する後ろめたさは消えません。
しかし西野七瀬は「前に進みたい理由」が明確になったため、堂々と卒業が宣言できたのだと考えられます。
今の彼女は、扉を開けた先に誰が立ちはだかろうとも、その先に進んでいくことができるのです。
それはこれまでの乃木坂46としての活動があったからなのでしょう。
ここからは、彼女が決してネガティブな気持ちで卒業していく訳ではないということが分かります。
自分にとってまた新たな未来を模索していきたいという欲求が強くなったのでしょう。
乃木坂46として出来ることはやり切ったという気持ちなのではないでしょうか。