阿婆擦れなお前に振り回されて
Creepy Nutsの配信シングル「阿婆擦れ」は、アルバム「よふかしのうた」に収録されています。
女に振り回される男を描いた艶っぽい一曲です。
R-指定の研ぎ澄まされたライムによるリリックと、DJ松永のジャズ風でアダルティなフロウ。
それだけでも印象に残る一曲ですが、一筋縄ではいきません。
「阿婆擦れ」とは、恋愛や男女関係に奔放な女性のこと。
間違っても褒め言葉とは言えない単語ですが、一方で離れられない魅力もあります。
そんな阿婆擦れな女性に振り回される男の姿…。
結論から言ってしまいましょう。
ここで描かれている「阿婆擦れ」は、HIPHOPそのものを。
それに振り回される男は、R-指定やHIPHOPに魅せられた人々を指しています。
HIPHOPへの愛と苦悩を奔放な女性に例えた歌詞を、じっくり解釈していきましょう。
意味深なMVもチェック
艶っぽい雰囲気溢れる大人のMV
「阿婆擦れ」のMVはスーツ姿のR-指定とDJ松永、そしてスタッフ達の姿が描かれています。
余裕ある雰囲気のR-指定とスタッフに対して、DJ松永は落ちている色っぽい雑誌に目が止まったり…。
というのも、アダルトなお店に遊びに行った面々。
一方、DJ松永は店の前で見張りをさせられています。
その後でMV撮影に臨んだのでしょう。
コミカルな展開を描きつつ、カッコよくもセクシーな雰囲気もあり。
どことなく一昔前の歓楽街のような雰囲気のあるMVも是非チェックしてみてください。
クレジットされた女性の名前は一体…?
ところでMVを最後まで見ると、出演者とスタッフの横に何やら女性の名前らしきものが書かれています。
この名前は一体何なのか気になりませんか?
実はこのMV、艶っぽい雰囲気を出すために全員が大人のお店に行った後撮影したそうです。
スタッフロールにあるお名前は、そのときにお世話になった方々のお名前だとか。
よく見ると自分のお名前の方もいますが…。
女性経験の少なさでよくいじられるDJ松永だけ除外されているのもチェックできます。
ファンなら思わず笑ってしまう仕掛けです。
「お前」は一体どんな人?
俺はお前に釣り合わない
俺はキープかアッシーか?
所詮はSucker MCか?メッシーか?
出典: 阿婆擦れ/作詞:R-指定 作曲:DJ松永
「俺」は、「お前」にとっては都合の良い恋人未満の男のようです。
いつも2番目以降のキープ。
アッシーは運転手、メッシーはご飯をおごってくれる男。
そんな扱いなのでしょう。
「Sucker」は、スラングで未熟者、青二才といった意味。
未熟なMCだとバカにされている、という意識が伝わってきます。
この部分は「Sucker=サッカー」と、有名選手「メッシ」を掛けている様子。
キーパーに足、サッカーにメッシとイメージを続けているのも面白いところです。
「メッシー」と「メッシ」のダブルミーニングと考えることもできるでしょう。
スター選手のようにテクニックには自信のある俺の自負が見え隠れするのです。
そしてリリックは口喧嘩やディベートという言葉に繋がっていきます。
「お前」が俺に求めているのは恋愛ではなく、単なる試合や遊びの相手なのでしょう。
これは、R-指定が元々フリースタイルバトルを得意としていることを指しています。
フリースタイルでは最強と言われても、HIPHOPシーン全体からは求められない。
自分は主流にはなれないという苦悩が現れています。
派手な男がお前の好み
俺には武勇伝もなく洒落た格好もできません。
そんな俺は「お前」には釣り合わないと自嘲してしまいます。
HIPHOPと言えば、素行不良や薬物問題などで世間を騒がす人も多い印象です。
そういった悪さを武勇伝と捉え、もてはやす空気が残っているのでしょう。
ファッションも派手でお金のかかったものがHIPHOPらしいと思われています。
R-指定自身も目立つ非行歴や犯罪歴があるわけではありません。
いわゆるB-BOY的なジャラジャラした服装も好まないようです。
けれど「お前」、すなわちHIPHOPシーンが好むのは結局そうした人物像。
「お前」が愛するのは、そうした派手な男なのです。
やっぱなんだかんだ言ってイカちぃのが良いのか?
胸板も財布も厚い方が良い?
出典: 阿婆擦れ/作詞:R-指定 作曲:DJ松永
「言って」「イカちぃ」「良い」のライムが続きます。
「お前」が愛するのはいわゆる「イカつい」男。
ワルくて腕っぷしが強く、派手で身体も鍛えている。
金回りもよくリッチでセレブ、そんな派手な男が好みなのです。
これは、一昔前にHIPHOPといえば連想したような男性像。
結局のところHIPHOPシーンで主流になる、「お前」に愛される男…。
それは一昔前のような派手でワルい男なのでしょう。
俺は「オモロい」ことにかけては自信があります。
派手な奴らにはオモロさ、つまりリリックやライムの上手さでは負けはしない。
けれど「お前」には振り向いてもらえないのです。