「Sexy Summerに雪が降る」にはじまり、Sexy Zoneに提供される三浦の歌詞はことごとく「トンチキ」であるとセクガル(Sexy Girl。Sexy Zoneのファンをこう呼びます)は認識しているようです。

しかし、三浦の歌詞すべてがトンチキである訳ではありません

ここで「トンチキ」とは何であるか、ということを述べておかなくてはならないでしょう。

もともと「トンチキ」とは「頓痴気」と書き、「とんま」だとか「まぬけ」だとかのあまりよくない意味の言葉です。

しかし現在、特にSexy Zone及び三浦作品に関して言われる「トンチキ」は決してこの意味ではありません。

「何を言ってるのかよく分からないけれど心をわし掴みにされる」

このようなフレーズを「トンチキ」である、と言うのだと筆者は解釈しています。

三浦徳子の歌詞と言えばまず引き合いに出されるのは、かつて郷ひろみがうたった「お嫁サンバ」ですが、そのサビの部分の歌詞を見てみましょう。

あわてないでお嫁サンバ 女はいつもミステリー
行かないでお嫁サンバ 一人のものにならないで
(それが大事それが大事)それが大事だよ
1・2・3バ2・2・3バ
お嫁 お嫁 お嫁サンバ

出典: お嫁サンバ/作詞:三浦徳子 作曲:小杉保夫

「あわてないでお嫁サンバ」とは、お嫁サンバに対しての呼びかけなのでしょうか。「1・2・3バ2・2・3バ」というカウントは些か投げ遣りではないでしょうか。そもそも「お嫁サンバ」とは?

このように疑問が続々と生産される歌詞ですが、野暮な解説をすれば、「お嫁サンバ」とは「お嫁さん」と「サンバ」とを融合させた音楽の新ジャンルとも言うべきものです。

若くして嫁ごうとしている、つまり「お嫁さん」になろうとしている女性に「そんなに急いで嫁ぎなさんな」とサンバのリズムに乗せて呼びかけているということなのです。

つまり、郷ひろみが歌っているこの曲そのものが「お嫁サンバ」というサンバの新ジャンルの最初の曲である、という解釈が成立します。

しかし、このような解釈・解説がなくとも、誰もよく分かっていなくても「お嫁サンバ」という曲は大ヒットして、知らない人がいないほどの曲となりました。

歌詞の内容すべてが万人に理解できるものでなくても構わない。それを三浦徳子が立証した、ひとつの「事件」でした。

歌詞とは、一般の詩や文章と大きく異なるものであり、だからこそ作詞家という職業が成り立つのだということが大変よく分かる事例です。

こうした作品群によって三浦は揺るぎない地位を確立するのですが、三浦が書く歌詞はすべてがこうした「トンチキ」なものかと言えば、決してそうではありません。

たとえば、前項でタイトルが登場しました松田聖子「チェリーブラッサム」の歌詞を一部見てみましょう。

何もかもめざめてく
新しい私
走り出した船の後
白い波踊ってる
あなたとの約束が
叶うのは明日
胸に抱いた愛の花
受けとめてくれるでしょう
つばめが飛ぶ青い空は
未来の夢 キャンバスね
自由な線 自由な色
描いてゆくふたりで
何もかもめざめてく
新しい私
走り出した愛は
ただあなたへと続いてる

出典: チェリーブラッサム/作詞:三浦徳子 作曲:財津和夫

「チェリーブラッサム」は松田聖子の初期曲の中でも評価が高い曲ですが、ご覧の通り、少しもトンチキは混じっていません。1人の女性の希望に満ちた旅立ちがフレッシュにさわやかに描かれています。

このように、三浦は「トンチキではない」歌詞を書くこともできるのです。ということは、おそらく三浦はトンチキをトンチキとして意識して書いているのでしょう。

トンチキが必要なところ不要なところ、三浦はそれを独自に判断して必要なところにこそトンチキを構築するのではないでしょうか。

ただ、傾向としては、曲先の場合にトンチキソングは生まれやすいようです。「曲先」とは、詞と曲でつくられる楽曲の、曲の方を先につくる制作方法です。

先に例に挙げました「お嫁サンバ」などはその典型で、仕上がった曲を聴いて「ダンサブルでノリがいい曲だ」と郷ひろみはよろこんでいたのですが、三浦の歌詞を読んでがっかりしたという逸話もあります。

サビの「1・2・3バ」などは確かにメロディありきの歌詞と納得できます。また、田原俊彦の「シャワーな気分」の歌い出しも「だけ だけ 君だけが好き」と同様の傾向が見られます。

もしかしたら、先に仕上がった曲が三浦徳子の頭脳を刺激してトンチキを引き出しているのかもしれません。

「Sexy Summerに雪が降る」を知ってる?

驚きのタイトル、驚きの歌詞

「Sexy Summerに雪が降る」は2012年10月にリリースされた、Sexy Zoneの3作目のシングル曲です。5年以上前にリリースされた曲ですが、いまだに語り種になっている曲です。

Sexy Zoneの曲はセクガルたちも認めている通り、トンチキソングが多いです。中でも、シングル曲としてリリースされたこともあり、強いインパクトを与えたのが「Sexy Summerに雪が降る」でした。

タイトルを聞くだけで「何かがおかしい」ことが明からさまです。「Summerに雪が降る」のです。異常気象です。しかも「Sexy Summer」です。どんな夏なのか。さらにリリースは10月。秋です。

Sexy Zoneは秋にサンタクロースを模した衣装を身につけ、夏の歌を「雪が降る」と歌ったのでした。もう何が何やら。「究極のトンチキ」と言われる所以です。

歌詞の冒頭部を見てみましょう。

Hello,Hello! & Merry Chistmas 今がいいチャンス!
一年中の愛を込めて 告白するよ Beautiful night

出典: Sexy Summerに雪が降る/作詞:三浦徳子 作曲:Janne Hyoty / Martin Grano

ここだけならば普通のクリスマスソングです。「メリークリスマス」を言う頃に「一年中の愛を込めて」告白するなんて、なかなかロマンティックです。

さらに続く歌詞を見てみます。

君だけを見てた Long time 誰か恋してても
真夏の海 舞い落ち溶ける ホワイトスノウ? 不思議さ

ためらうボクに 勇気を 胸いっぱい下さい
声をなくして 叶えた 人魚の願いのように

Summer time クリスマスの Ding Dong 鐘が鳴るよ
見慣れた景色が Shine on, Come on, Shine on

出典: Sexy Summerに雪が降る/作詞:三浦徳子 作曲:Janne Hyoty / Martin Grano

真夏の海にホワイトスノウが舞い落ちています。確かに不思議です。Summer timeにクリスマスの鐘が鳴ります。南半球での話でしょうか。

そんな奇妙な状況の中で、主人公の「ボク」は「一年中の愛を込めて告白」しようとして、ためらっています。「勇気を胸いっぱい下さい」と誰かに願っています。願う相手はサンタクロースでしょうか。

歌詞のおしまいの方で「ボク」の想いは「君」に通じて「めでたしめでたし」です。そこでこのフレーズが入ります。

Summer time 雪がKissした
ボクの心の
Sexy Sexy Zone

出典: Sexy Summerに雪が降る/作詞:三浦徳子 作曲:Janne Hyoty / Martin Grano

無理やりグループ名を入れた力技にも捉えられますが、これはおそらく恋の奇跡なのです。「ボク」が「君」と同じ星に生まれ出会い永久の愛を誓うことで起きた奇跡なのです。

夏の日に雪が「ボク」の心のSexy Zoneに口づけた。夏に雪が降るだけでも奇跡なのですが、その雪が心の大切な、敏感な部分に触れたのです。

夏に雪が降るだけなら「異常気象」で、どこにも起こり得るかもしれません。それが心の内側に触れるというのは、奇跡としか言えないでしょう。

こじつけに思われるかもしれません。しかしこれを(ほぼ)納得させるのがSexy Zoneマジックであり三浦徳子マジックです。

三浦が演出したトンチキな歌詞をSexy Zoneが真面目に歌うことで「素敵な恋の奇跡」がまっとうに語られるのです。

1980年前後のアイドルの時代のはじまりの頃から、アイドルの歌にはトンチキが混じっていました。当時はトンチキとは呼ばれていませんでしたが、その整合性をリスナーが問うことがなかったのです。

それはおとぎばなしの「むかしむかしあるところに……」という語り出しに「いったいいつの時代のどこの話なのか」と問うことがないことに似ています。

恋やロマンスで奇跡が起きたり起こしたりするのがアイドルソングです。トンチキが混じっていてこそのアイドルソングです。

ロマンスとトンチキを自在に操ることができる三浦徳子がSexy Zoneに提供する歌詞がどれもトンチキなのは、三浦がSexy Zoneを正統派アイドルであると目す証拠かもしれません。

タイトルだけで人心を騒がせた「Sexy Summerに雪が降る」の歌詞全文は下記サイトでご確認ください。

Sexy Zoneの「Sexy Summerに雪が降る」歌詞ページ。「Sexy Summerに雪が降る」は、作詞:三浦徳子、作曲:Janne Hyoty/Martin Grano。

そして、三浦徳子がSexy Zoneに提供した中で「究極のトンチキ」と呼ばれるもうひとつの曲「ぶつかっちゃうよ」の歌詞も合わせてご覧ください。こちらはかなり振り切った感じです。

Sexy Zoneの「ぶつかっちゃうよ」歌詞ページ。「ぶつかっちゃうよ」は、作詞:三浦徳子、作曲:Scott Kingston・Joakim Bjornberg・Christofer Erixon・Takashi Ohmama。

台詞も入っています

【Sexy Summerに雪が降る/Sexy Zone】ざわめきが生じたタイトルの意味するものは?!の画像

アイドルソングのギミックとしてよく使われる「台詞」が「Sexy Summerに雪が降る」にも入っています。

メンバー5人のそれぞれのファンに対して不平等にならないよう、5人それぞれに台詞があります。

  • 「僕たちからサマークリスマス」(中島健人)
  • 「あなたのもとにも雪が届きますように」(菊池風磨)
  • 「今年の冬も一緒だよ」(松島聡)
  • 「I miss you」(マリウス葉)
  • 「1年中愛してるよ」(佐藤勝利)

ここで一際トンチキなのが中島健人です。「サマークリスマス」を実にロマンティックなフレーズとしてさらりと言ってのけるのです。

三浦徳子のトンチキを受けて、それを見事に歌いこなし演じきる者の先頭を行くのが中島健人です。アイドルとしてプロであると言えるでしょう。

アイドルのために用意されたトンチキを真面目に当然のこととして使いこなすのは、アイドルの技量です。その点において、中島健人は他の4人よりも一歩秀でていると言えます。

自ら王子キャラを確立して「ラブホリ(Love holic)」を自称し「セクシーサンキュー」などという決め台詞を編み出す能力を持つ中島は、三浦のトンチキ歌詞を見事に味方につけています。

同じキャラクターがいてもおもしろくありません。菊池、佐藤、松島、マリウスの4人は、中島とは異なったキャラクターである必要があります。

それ故にいくらかキャラクターが弱く感じられる部分もありますが、よーく観察すると4人もそれぞれにアイドルらしいキャラクターを持っています――つまりトンチキです。

彼らのキャラクター性がそれぞれに伸びて、ただ見目よく恰好いいだけのタレントとしてではなく、アイドルを極めるSexy Zoneであることが望まれます。