あの別れの日に、なぜもっと引き止めなかったのか。

あなたの思いが覆ることはないとわかっていても、どうしてもっと話を聞かなかったのか。

あの時のことを思い出すたびに、後悔ばかりが心に押し寄せるのです。

なぜ、どうして、いつから?

それすらも聞かず、最後まで物分かりの良いふりをしてしまった。

あなたが別れを告げた理由を聞くことができていれば、きっとこんなに悩まずに済んだかもしれないのに。

雨の別れの日の記憶は、いつまでも消える事がありませんでした。

あなたの今にも泣きだしそうな表情も、自分の中に芽生えていた一切を諦めた感情も。

別れの悲しみを癒すことはできるのか?

日々の暮らしの中で、必死に忘れようとするけれど

ガラス片を避けながら
直行直帰寝落ちる毎日さ
満員電車に息を潜め
鳴り響いたベルが発車の合図さ

出典: 傘/作詞:常田大希 作曲:常田大希

それでも、毎日は続いていきます。

忙しなく行き交う人々の合間を縫いながら、街を歩き回る日々。

家に帰って電池が切れたように眠り、翌朝起きてまたすぐに家を出る。

以前のように忙しい合間を縫って会いに行ったり、連絡をする人がいなくなった毎日。

まるで自分がロボットになったかのように、ただ淡々と日々を過ごすのです。

時折ふと、どうしようもない別れの悲しみに襲われる瞬間もあります。

あなたと一緒に立ち寄ったカフェ、一緒に見たテレビ番組、見に行こうと約束していた映画

たくさんのあなたとの記憶の欠片が、ふいに自分の胸を突き刺していくのです。

けれど、立ち止まって悲しみに暮れる時間を与えられているほど暇ではありません。

日々の忙しさに、なんとかその悲しみを誤魔化しながら、わたしは毎日を過ごしています。

繋いだ手を確かめた
確かに僕ら其処に居たのさ
寄せては返す波の中を
必死に立っていたんだ

出典: 傘/作詞:常田大希 作曲:常田大希

あなたの温もり、あなたの声、あなたの表情。

忙しない日々の中で、それは時折ふと記憶の中から蘇ります。

街の喧騒の中に、もしかしたらいつかの自分とあなたがいるかもしれない

仲睦まじく手を繋いで、今夜の晩ご飯について相談しながら、帰路につく2人の姿が。

そんなはずはないと頭ではわかっていても、人混みの中を探してしまう自分がいるのです。

大勢の群衆の中にたった1人で、ぽつりと立ち尽くしたまま。

失ったあなたの面影を、わたしはふとした瞬間に探してしまうのです。

ゴールなんか有りはしないよな
ただのレースとは違うよな
巷に流れるラヴ・ソングの
様にはいかないね

出典: 傘/作詞:常田大希 作曲:常田大希

誰かとの恋愛の先に、ゴールはありません。

結婚も、これから先続く2人の夫婦としての生活の新たな始まりです。

街の中で流れるありふれたラブソングは、どうして2人の恋にゴールがあるように歌うのでしょう。

ただのかけっこやレースのように、ゴールを迎えれば終わりのように歌うのでしょう。

恋が実っても、2人が永遠に結ばれたとしても。

生きている限り、愛する相手との先にゴールはないのです。

強いて言うならば、どちらかが先に命の終わりを迎えるまでは。

ふと聞こえてきた、どこかで聞いた覚えのあるラブソング

2人の思いは通じ合いました、めでたしめでたし。

2人は結ばれ幸せに暮らしました、めでたしめでたし。

現実の誰かとの恋は、そんな風に終わりません。

そこからさらに2人の日々は、ずっと続いてゆくはずです。

別れを乗り越えるにはまだ時間がかかりそう

さよなら ハイになったふりしたって
心模様は土砂降りだよ 傘も持たずにどこへ行くの?
あれこれ 不安になったって
どうしようもない “運命でしょ?”
曇りガラス越しのあなたには もう何も届いちゃいないんだ

出典: 傘/作詞:常田大希 作曲:常田大希

一緒に過ごした時間が長い分、あなたのことをそう簡単に忘れることはできません。

無意識のうちに、あなたの面影を探してしまうのです。

働いていても、街にいても、家に帰っても。

いつか何かの拍子に、あなたがわたしの元に戻ってきてくれるのではないか。

無理な願いと知りながらも、そう思わずにはいられないのです。

失って初めて、あなたの大切さに気付く

使い古された表現で、自分には当てはまるものではないとどこかで思っていました。

まさかこんな形で知ることになるとは、少し前のわたしは思いもよらなかったでしょう。

わたしがこの別れの悲しみを乗り越えるには、まだしばらく時間がかかりそうです。

曇りガラスは何を表現していたのか

サビの最後に登場する「曇りガラス」というフレーズ。

結局のところ、この言葉は何を表現していたのでしょうか。

2つの角度から捉えなおしてみましょう。

別れた日の喫茶店

まずは冒頭のフレーズを解説した際に触れたとおり、別れを告げられた喫茶店の窓ガラスという解釈です。

大切な人と別れ話をした雨の日、残念ながら天気も雨でした。

去っていく君の姿をはっきりと見たかったのに、最後まで天は味方をしてくれません。

雨粒や湿気で曇ってしまった喫茶店の窓ガラス越しに去り行くあなたの姿を見つめる。

別れの寂しさを増幅させる物理的な要因として描かれていました。