ジャズミュージシャンが作るポップスの体現

菊池成孔プロデュースによって完成した「世界はここにしかないって上手に言って」

ものんくる【空想飛行】歌詞の意味を独自解釈!"空想飛行"の世界が心地いい…行き着く先は一体どこ?の画像

2015年にはJAZZ JAPAN AWARD新人賞を受賞し、フジロックへの出演を果たしたものんくる。

2017年には3rdアルバム「世界はここにしかないって上手に言って」がリリースされました。

ジャズ界の大御所である菊地成孔がプロデューサーとして参加した今作。

楽曲を彩るジャズミュージシャン達の演奏も手伝い、耳の肥えた音楽ファンも納得の一枚となっています。

今回紹介する「空想飛行」は角田曰く、元々今以上に電子楽器が締める割合が多く、2次元的であったそうです。

そこにパーカッショニスト大儀見元の演奏が加わることで、有機的な広がりを持った楽曲になったとのこと。

奏者によって楽曲に大きな進化がもたらされる好例と言えますね。

若手ジャズミュージシャンのオンパレード

ものんくる【空想飛行】歌詞の意味を独自解釈!"空想飛行"の世界が心地いい…行き着く先は一体どこ?の画像

「世界はここにしかないって上手に言って」には様々なジャズミュージシャンが参加しています。

ホセ・ジェイムズの作品や、報道ステーションのテーマ曲への参加が有名なトランペッター・黒田卓也

ポスト上原ひろみとして注目され、自身のトリオを始め世界的に活躍中のピアニスト・桑原あい

若手No.1ギタリストと評される井上銘

ジャズギター界の革命児、カート・ローゼンウィンケルとの共演経験もあるドラマー・石若駿

ルパン三世の音楽担当として有名な大野雄二氏など、様々な音楽家との活動が目立つ宮川純

彼らを始め、曲のシチュエーションに合わせたキャスティングが行われています。

これだけのアーティストを集めることができたのも、ものんくるの2人と菊地成孔の人脈によるものでしょう。

彼らが作り出す音楽は間違いなく日本トップクラスのクオリティ。

聴き手の脳内幸福度を一気に引き上げてくれること間違いなしです。

「空想飛行」の聴きどころ

注目は井上銘のギターソロ

ものんくる【空想飛行】歌詞の意味を独自解釈!"空想飛行"の世界が心地いい…行き着く先は一体どこ?の画像

空想を揺蕩(たゆた)うような曲調の中で、吉田の歌声と演奏陣の妙技が光る「空想飛行」。

6拍子の曲ですが、パーカッションの独特なアクセントによる斬新なリズム感が心地よいです。

その中でも注目は間奏で入る井上銘のギターソロ

バップの要素をしっかり感じつつ、曲に合った耳馴染みの良いソロワークは白眉です。

角田のベースも、グルーヴィかついぶし銀なフレーズでバンドサウンドを支えます。

この曲の浮遊感を担っているのはやはりシンセサイザーの音でしょうか。

全体を俯瞰で聴いても、それぞれのプレイにフォーカスしても楽しめる完成度がうれしいですね。

空想の名にふさわしい浮遊感のある歌詞

夢の中を表現した歌詞

2時間ちょっとのショートフライトで
桜の森の満開の下
眠る間もなく都会から異世界へ
準備忘れたハイヒールのまま

出典: 空想飛行/作詞:角田隆太 作曲:角田隆太

どこかへ行こうとしている描写であることが分かります。

小旅行程度の距離を飛行機で移動し、都会から離れる主人公。

「異世界」という表現からは、これから向かう場所の異物感が感じ取れます。

自分の経験にはない場所、つまりは新天地を目指しているみたいですね。

この表現からは、単に場所を移動するということとは別の概念が想像できます。

ものんくるの音楽が世の中に訴求しているのは、ポップスとジャズの融合です。

今まで彼らが根城にしてきたジャズという音楽性を持ったまま、ポップスという「異世界」に旅立つ。

この部分からは、彼らの音楽性のスタート時の心情が歌われているように感じます。

準備もろくにせず、遠出するのに靴は動きづらいハイヒールのままのようです。

そこからは用意周到な状態で「異世界」への旅を始めたことを示唆しています。

現在の音楽的地位に至るまで、決して順風満帆ではなかったということが感じ取れますね。

視界は現在良好 時刻通りの到着予定
それでも行き先は雨 二人らしくて可笑しいよね

出典: 空想飛行/作詞:角田隆太 作曲:角田隆太

ここで登場人物が2人になっていますね。

この2人とは、メンバーの吉田と角田を示しているのでしょうか。

後述の歌詞からはそうと捉えきれない部分も出てきます。

物語が1つ存在した上で、それに自分達を重ねているという状況を予想した上で解釈を進めます

目的地には予定通り着きそうですが、到着地点では雨が降っているようです。

ものんくるの2人を投影して考えると、なんとか今までの活動はビジョン通りに進んでいることがわかります。

しかし、これから先も雨模様。

まだまだ困難は多いと感じているようです。

そんな状況を2人らしいと表現していることから、今までもトラブルを乗り越えてきたことがわかります。

透明な君の身体 くぐり抜けたら上昇気流
出くわす迷子の感情 つれて彷徨う空想飛行

出典: 空想飛行/作詞:角田隆太 作曲:角田隆太

ここから夢の様相が強く出てくるように感じます。

「透明な君」の中を通り抜けるという描写からは非現実性が垣間見えます。

また、「迷子」になってしまった「感情」ですが、これも夢なら説明が付きます。

夢の中では感情のコントロールは出来ないことが多いです。

起きてから思い返してみると、夢を見ている間に自分が何を考えていたかは思い出せないと思います。

そんな状況が詩的な表現によって、高度な文学に生まれ変わっていますね。