新しい「Heaven」の創造

全編英詩で綴られた感動的なストーリー

安室奈美恵【Heaven】歌詞を和訳&考察!「Heaven」にはどうやったら行ける?愛の力を感じようの画像

2013年7月10日発表、安室奈美恵の通算11作目のアルバムFEEL」。

このアルバムに収録された楽曲Heaven」について解説いたします。

先進的なエレクトロニック・ミュージックとR&Bのテイストを交えた名曲です。

歌詞は強気な女性が主人公で、愛した男性への賛辞で埋め尽くされています。

全編を英詩で描き、安室奈美恵も完璧に歌いきっているのでJ-POPとは思えない雰囲気

分かりやすい英詩なのですが、情報量がぎっしりと詰め込まれているので和訳がないと理解できないかも。

今回の記事では英詩を和訳しながら歌詞に込められた愛の概念を紐解いていきます。

主題は楽曲タイトル「Heaven」そのままに天国についてです。

普段、私たちに馴染みのある天国はこの歌詞では登場しません。

男女ふたりにとっての天国という新しい意味付けをしています。

理想の愛の形などもうかがえるこの曲の歌詞を分析していきましょう。

果たして「Heaven」の正体とは何なのか。

それでは実際の歌詞をご覧ください。

死者の国ではない天国

不遜な考え方でしょうか

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Heaven is where we are, where we are
With you, it's never far, never far
Heaven is like a star, like a star
Sky-high but not too far, not too far

出典: Heaven/作詞: Emyli 作曲:Anton Zaslavski Emyli Tommy Clint

イントロの最初の穏やかな印象は瞬時に裏切られます。

エレクトロニック・サウンドが全開で繰り広げられるのです。

ハードコアな魅力まで備えられた楽曲になっています。

歌詞にはすぐにテーマの「Heaven」が登場。

高校1年生にも理解できる易しい英文ですが、何しろ情報量がいっぱいなので最後まで読むのが困難。

マシンガンのように繰り出されるワードの数々。

カラオケで歌うには難しい曲でしょう。

その分、この曲をマスターできたならば一躍カラオケの女王にもなれそうです。

英詩はなるべく細かく分けて読み解いていきます。

和訳しましょう。

「天国とは今、私たちがいるところ 私たちがいる場所

あなたがいれば 天国は決して遠くない 遠くなどない

天国は星のよう 星のようなところ

天高くあれど 遠過ぎはしない 遠過ぎなどしない」

すでに天国の解釈が普通のものではないことにお気付きになられると存じます。

この曲「Heaven」の語り手であり主人公でもある女性は天国を死者たちの国とは見做しません

あくまでも地上にいる私と愛するあなたのふたりの間に創造されるものとして天国を解釈します。

人が死んだ後の世界というものではなく、共時性があるものとして捉えるのです。

現世でありながら天国を満喫できるのならば、その人生は非常に豊かなものになるでしょう。

こうした発想は不遜な考え方でもあり、背徳感もあります。

しかし音楽とは祝祭感を伝えるメディアです。

今の生活に飽き飽きしている人たちに新しい見方を提示するのもアートの約目でしょう。

恋愛をとことん楽しんでいいんだよという想いが滲む楽曲が「Heaven」の骨格なのです。

今、ここにある天国。

そこに好きな人とふたりでいられることの幸せを想像してみてください。

幸福であることを力強く指示・支持するこの曲は美しいです。

充実した恋愛の中で得るもの

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I know you are the one
I know you are my love
Heaven is with you

出典: Heaven/作詞: Emyli 作曲:Anton Zaslavski Emyli Tommy Clint

語り手の私があなたへ抱く想いが吐露されます。

「あなたは私にとって唯一の人だって分かっているの

あなたは私の愛のすべてだと分かっているの

天国はあなたとともにある」

若い女性にとって最愛の人は何かしらの運命の出会いによって結ばれたと考えるでしょう。

語り手の私も他の誰かがどういおうとも気にしないくらいの気持ちで好きな人への愛を告白します。

とても充実した時間を過ごせる相手なのでしょう。

あなたといる時間こそが天国になると私は歌います。

他の誰にも替えられないかけがえのない人

こうした恋愛を経験すると人は強くなり、また相手を思いやる尊い感情を育むことができます。

愛する人と一緒に入られる至福のとき。

現世にいながらにして天国にいるような気持ち。

恋愛経験者であるならば、こうした情感を分かち合えるはずです。

私とあなたの物語はまだまだ続きます。

祝祭感と肉感的な愛の歌

「感じる」ことが大事

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Badabada Boom Badabing Bada Boom!
Tell me what you need and I'll give it to you, boo
Cuz I'm feelin' all of the moves you got
Got me takin' off my clothes cuz I'm super hot

出典: Heaven/作詞: Emyli 作曲:Anton Zaslavski Emyli Tommy Clint

不思議な呪文が登場します。

原詩を読んで頂くと分かるのですが、さすがに訳出できませんでした。

恋の呪文というとこの言葉遊びのかっこよさが消えてしまいます。

しかし特に意味はないものです。

「Badabada Boom Badabing Bada Boom

あなたが欲しいものを教えてちょうだい そうしたら私があなたにお望みのものをあげるわ

あなたが起こす挙動のすべてを私は感じ取っているから

ひどく熱いの 私から服を剥ぎ取ってちょうだい」

愛し合うふたりにもはやタブーなどないのでしょう。

とても刺激的な言葉が並びます。

安室奈美恵のエレクトロニック・ミュージックはブラック・コンテンポラリーの延長線上のものです。

黒人音楽にある肉感的な愛を祝祭的に昇華する歌詞までも引き継いでいます。

一昔の日本の歌謡史ではあまり見受けられなかったような表現が存在するのです。

そもそも全編英詩という音楽は歌謡史の中では珍しいものでしょう。

日本語で表現するとどこかかっこ悪くなったりする表現も英語で歌われると随分印象が違います。

あなたの「言葉」ではなく、「挙動」「行動」「アクション」に感じ入るものがある。

この「感じる」というものも大切な要素でしょう。

「思う」や「考える」とは違ったもの、五感で受け入れるものであることが大事なのです。

日本文学に目を向けると、こうした肉感的な愛の把握は第二次大戦後にならないと登場しません。

歌謡曲やJ-POPでも恋に「悩む」若者像が未だに登場します。

そうした頭脳で愛を把握するという発想からどこまでも遠いのが安室奈美恵の「Heaven」なのです。

考える前に抱き合おうというようなひどく正直な愛。

天国が生まれるのはこうした愛の姿態からだけなのです。

私たちが創造する天国

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