主人公とピアノが佇む部屋の外に、知らない彼が現れた瞬間です。

話しかけられなかったのは、相手を意識しているから。

つまり、主人公は外の世界の彼に恋をしてしまったのです。

それがよくわかる描写が2番の歌詞に出てきます。

ただ彼と家の前の道を散歩して
私の知らない世界の話を聞きたかった

出典: ショパンの嘘つき/作詞:秋元康 作曲:山本加津彦

ただ好きな人の側にいたい。そう願う切ない恋心

しかし主人公は、初めての感情に声すら出せません。

長いこと、ピアノとしか向き合ってこなかったからです。

ずっと1人きりでいても、ピアノさえあれば寂しくなんかなかったのに。

気づいた時にはもう、昂まる感情を抑えられなくなってしまうのでした。

景色は色を変えて

初めて知った恋という感情に、主人公が見ていた景色はガラリと色を変えてしまいます。

想像することの方が 現実に起きることより
素敵だって思ってたし
ピアノの蓋を閉めたら どこへ出かけてみたって
私はひとりぼっちだ

出典: ショパンの嘘つき/作詞:秋元康 作曲:山本加津彦

ピアノのある世界がすべてだと母親に教えられていた主人公。

しかし、それが嘘であると気づいてしまったからです。

本当は自分が孤独であること。

好きな人に話しかける勇気もないこと。

そして、このようにも言っています。

信じていた世界は狭かったし
今のリアルは音もなく夢もない

出典: ショパンの嘘つき/作詞:秋元康 作曲:山本加津彦

恋に落ちた瞬間は穏やかな曲調で、その直後からはやるようなリピート。

曲調の変化により、主人公の心の動揺を表現しています。

初恋の相手とは誰なのか

この曲のタイトルでもあり、曲中に何度も繰り返されるキーワード。

それはショパンです。

歌詞によく注目してみると、この曲にはそれぞれ3つのパートがあります。

1つ目が「ショパンの嘘つき」、2つ目が「ショパンの意地悪」、そして3つ目が「ショパンのせいだわ」

まるで小説のタイトルのようにも思えます。

最も確信に触れたのが次の部分です。

ショパンが ショパンが ショパンが ショパンが 初恋だった

出典: ショパンの嘘つき/作詞:秋元康 作曲:山本加津彦

ここで明らかになったのは、主人公の初恋の相手がショパンだったという驚きの事実です。

そうすれば、先ほどのタイトルの意味も理解できます。

世界のすべてだと教えられた音楽を作るショパンを嘘つきだと言います。

次に叶わぬ恋の辛さを教えたショパンを意地悪だと言います。

そして最後に、すべての気持ちがショパンによるものだと気づくのです。

窓の外の彼とは、物理的な意味を表していたわけではありません。

他者という存在がいる、彼女の知らなかった外側の世界を意味しています。

恋を知らないピアノだけの空間から、恋を知った未知の世界へ。

ショパンへの初恋がきっかけで、主人公は窓を開けてしまいました。

ショパンに翻弄される人生

奏でるメロディー 昂まる感情 伝わらない
それでも一人弾き続ける
ふいに瞳に溢れるショパンの涙

出典: ショパンの嘘つき/作詞:秋元康 作曲:山本加津彦

主人公の恋の相手であるショパンは、過去の偉大な音楽家です。

もう亡くなっているので、会うことは叶いません。

だから伝わらないと言っているのでしょう。

おそらく主人公は、ショパンの写真を部屋のどこかに飾っています。

ピアノを弾く合間、愛するその人が写る写真を眺めている。

切ない恋に涙ぐむ主人公から見ると、ショパンも泣いているように見えます。

では、主人公はショパンを恨んでいるでしょうか?

答えはNOです。

灯りも点けず まだ弾いてる
だけど後悔ないのはショパンの仕業

出典: ショパンの嘘つき/作詞:秋元康 作曲:山本加津彦