十字架背負う覚悟が無いのなら
その有名私にくれよ
生き急いでる わかってんだよ
だって今の私は今消えちゃう
出典: チュープリ/作詞:大森靖子 作曲:大森靖子
Bメロで印象的に使用される「十字架」は「コンプレックス」のメタファーです。
ZOCのメンバーは全員何かしらのコンプレックスを抱えています。
そして“共犯者”である大森靖子も自身のコンプレックスをパンクロックとアイドルに救われた1人です。
そしてそのコンプレックスこそが自身の生きている証であり創造力の源泉だということ。
ZOCをアイドルとして立ち上げたのはその大切なことを多くの人々と共有するためだと考えられるのです。
既存のプラットフォームで有名になっても伝えたい相手、つまり悩みを抱える少数者に届かない。
ZOCの支配領域を拡張するためには正統派アイドルにも、それらの業界にも勝たなければいけないのです。
彼女たちが急いで伝えたい相手は今にも「死」の誘惑に負けてしまいそうになっているかもしれません。
Bメロのラストフレーズで消えてしまいそうと表現される“私”。
それは過去の自分と同じように悩みを抱える同志の存在を表しているのです。
あいどんきるゆー=僕はキミを死なせないよ
ある楽曲へのオマージュ
あ ああ あいどんきるゆー
あ ああ アイドルになって
君のこと好きになりすぎたのは
私のほうなの 会いに来て 会いたい
出典: チュープリ/作詞:大森靖子 作曲:大森靖子
『チュープリ』のサビでリフレインされるフレーズはある曲名へのオマージュでしょう。
それは銀杏BOYZの『あいどんわなだい』です。
“I don't (wanna)kill you=僕はキミを死なせないよ”。
彼女たちが語りかけるのは悩みを抱える孤独な人々です。
大森靖子が銀杏BOYZと道重さゆみに命を救われたように彼ら・彼女らを救いたい。
そんな動機がZOCをアイドルという形態にさせたのかもしれません。
近寄り難いミュージシャンとは違いアイドル文化の功罪の1つは「会いに行ける」ことです。
特典会というイベントでは握手やチェキを撮影しながらファンと直接会話ができます。
ヴァーチャルでは伝わらない、コミュニケーションの手段としてアイドルという道を選んだのでしょう。
その先の微々たる乙女を肯定せよ!
あ ああ あいどんきるゆー
あ ああ アイコン変えよー
どんな私がキャッチーよ んでもっと
その先の微々たる乙女をみてね
愛してる
チュープリンセス chu!
出典: チュープリ/作詞:大森靖子 作曲:大森靖子
ZOCのメンバーは兎凪さやかの「自撮り詐欺の天才力」も含め自身を飾りません。
香椎かてぃは『family name』でも『チュープリ』でも咥えタバコで登場。
ZOC-004の西井万理那 a.k.a.生ハムと焼うどんは得意のゲス顔を幾度となく繰り返します。
TikTok風の演出も含め彼女たちが肯定しているのは素の自分の「カワイイ」です。
そのことでコンプレックスに悩む人々の自我をも肯定しようとしているのでしょう。
そしてKISSという行為で「相互愛」を確かめ合うのです。
アイドルとファンの関係性
Tシャツに透けて見えるファンの罪悪感も肯定しちゃう!
気づいていたの
私の名前のTシャツの下に
透けてるあの子の文字
どっちが 本命よ?!
出典: チュープリ/作詞:大森靖子 作曲:大森靖子
これまで解説してきましたようにZOCにおける大森靖子の歌詞には共通点が見られます。
それは「社会的弱者への共感」と「生の肯定」です。
一見するとシリアスになりがちなテーマだからこそZOCはユーモアを忘れません。
アイドルファンが一途に1つのグループのみを推してくれる例は稀なケースです。
ZOCのTシャツの下にはもしかしたらBiSHのTシャツが隠されているかもしれません。
「嫉妬」という「カワイイ」武器で武装すること。
そのことでファンのTシャツに透けて見える罪悪感を払拭しています。
ヲタの気持ちはヲタだから分かるのです。
今の幸せを噛みしめて
一生背負う覚悟が無くたって
お手軽に好きになっていいよ
私生活とか色々あって
だって今は私でしあわせでしょ
出典: チュープリ/作詞:大森靖子 作曲:大森靖子