「夢は夜ひらく」の原曲は東京少年鑑別所で歌われていた俗謡です。
その俗謡を様々な作詞家・作曲家が書き直しています。
いずれにせよ少年鑑別所という暗い出自がこの曲の理解に重要なポイントとなっているのです。
園まりによる「夢は夜ひらく」
ただし園まりによる「夢は夜ひらく」は藤圭子の「圭子の夢は夜ひらく」とはまったく趣が異なります。
歌い出しを読んでみてください。
雨が降るから 逢えないの
来ないあなたは 野暮な人
ぬれてみたいわ 二人なら
夢は夜ひらく
出典: 夢は夜ひらく/作詞:中村泰士 富田清吾 作曲:曽根幸明
大人の愛を歌ったラブソング調であります。
藤圭子の「圭子の夢は夜ひらく」とは決め台詞の「夢は夜ひらく」の意味までまったく違ってきそうです。
園まりによる「夢は夜ひらく」には人生全体に及ぶ宿命的な暗さというものがありません。
片想いのつらさを嘆いてはいますが、藤圭子のように人生すべてを嘆くものではないのです。
人生すべて汲み尽くして暗さを嘆いてみせた藤圭子と石坂まさをの「圭子の夢は夜ひらく」。
こちらの方が後世まで愛されている点に注目しましょう。
暗かった青春の想い出
「圭子の夢は夜ひらく」の続きを見ていきますね。
十五 十六 十七と
私の人生 暗かった
過去はどんなに 暗くとも
夢は夜ひらく
出典: 圭子の夢は夜ひらく/作詞:石坂まさを 作曲:曽根幸明
非常に重いラインです。
つらい日々も夢の中では救われる
思春期にあたる青春時代が暗い想い出ばかり。
女性として非常につらい日々を経てきたのだと思わざるをえません。
それでも夜の夢の中だけでなら救われることがある。
人間存在の根本原理まで迫ろうとするチカラがこの曲に宿っています。
類まれなる作詞家と歌手がタッグを組む
恐ろしさまで感じさせる石坂まさをによるシリアスな作詞です。
情念を淡々としっかり歌い重ねる藤圭子の迫力にたじろぎます。
作詞家も歌手も他に類例を見ないような個性でした。
そのタッグによる相乗効果はすさまじいものがあります。
恋多き女の寂しさ
昨日のマー坊 今日トミー
明日はジョージか ケン坊か
恋ははかなく 過ぎて行き
夢は夜ひらく
出典: 圭子の夢は夜ひらく/作詞:石坂まさを 作曲:曽根幸明
恋多き女の心境を歌い上げます。
そこには恋の喜びよりも、落ち着かない恋愛に対するため息をつくような想いが歌われるのです。
ひとりの人と密な関係でいられる充足感が私の人生にはまったくないのだと。
哀しい恋愛でしか男性と関係を築けない女性の寂しさが浮き彫りになります。
儚い夢の中でしか充足できない愛の姿です。