奇才!長谷川白紙の注目楽曲「草木」

DTMで音楽を制作した場合、自作の楽曲を気軽に聴いてもらいたいと思ったら、便利なのがSoundCloud。
この音楽共有サービスに音源をアップしておけば、世界中からアクセスすることができます。
コアな音楽ファンにとっては、リスナーとしてアーティストのレアな音源を見つける楽しみもあるわけです。
そんなSoundCloudの使い手としても知られる長谷川白紙さん。
今回ご紹介する「草木」は、2018年12月にリリースされたEP「草木萌動」の収録曲です。
YMO「キュー」のカバーも含むこのEPが、初めてCD化された作品。
しかも発売当時まだ10代の現役音大生だった為、その並々ならぬ音楽的才能に注目が集まりました。
特に「草木」はジャズ、現代音楽、エレクトロニカの要素が先鋭的に盛り込まれているのにポップ。
古風で難しい言葉が並んでいるのに、耳なじみのいい歌もの楽曲としても成立しています。
芸術とエンターテイメントの狭間で頭を悩ます音楽家が多い中、爽やかに新たな風をもたらしたイメージです。
その軽やかな奇才ぶりはMVでも観ることができます。
リズムに身を委ねて揺れていたいところですが、気になるのは歌詞。
一体どのような内容なのでしょうか。
難しい言葉をひとつずつ解読します。
1番の歌詞はこちら!
のんびりするとき
羊裘まとい 釣るときは
泡にも 耳 耳 澄まして
空気に投げ歌う線は
針のよう なのに
出典: 草木/作詞:長谷川白紙 作曲:長谷川白紙
どうやら羊裘垂釣(ようきゅうすいちょう)という四字熟語をもじった出だしになっています。
羊の皮をまとって釣り糸を垂らすような、俗世を離れた隠遁者を表す言葉。
実際に気合の入った世捨て人になると意気込んでいるわけではありません。
むしろ日常生活の現実的な話を脇に置き、のんびり釣りでもするような気分と考えられます。
そんなときはどうするのでしょうか。
その答えが歌詞の2行目。
泡の音を聴いてと呼びかけています。
歌詞の1行目以外に難しい言葉は出てきませんが、具体的に何を表しているのかは曖昧です。
全体の雰囲気を意訳してみましょう。
のんびり釣りする気分のときは、水面に浮かぶ泡のような丸い音色も意識してみてほしい。
その上にまっすぐな歌声が重なると、弾け飛ぶようにかき消されるかもしれないけれど。そんなイメージです。
要するに「泡のようなサウンド」と「線みたいな歌」からなるこの曲。
「リズム(泡)を含むサウンド」と「メロディ(線)に歌詞を乗せた歌」の対比と考えられます。
のんびりした気分で、歌はもちろんサウンドにも耳を傾けてほしい。
そういう意味はないでしょうか。
この曲の聴き方
柔らかなまま 渦を巻いて
髑髏に響く
熱は箔を 丸めていく
出典: 草木/作詞:長谷川白紙 作曲:長谷川白紙
歌は楽器の音色より強度が高いもの。
人は常に音を聴き分けていて、歌もの楽曲だとメロディを追いがちです。
これが直線的な音の聴き方。
その線で円を描き丸みをもたせ、頭蓋骨に音を共鳴させると良さそうです。
そうすると平面的ではなく立体的に音を楽しめるといったところでしょう。
歌も楽器の音色のように捉えるといいのかもしれません。
サビの歌詞はこちら!
悄々(しょうしょう)とは
端から押し詰めて
潰し逃がす悄々
出典: 草木/作詞:長谷川白紙 作曲:長谷川白紙
なぜ前もってこの曲の聴き方に関するレクチャーがあったのでしょうか。
その理由がわかるサビです。
要するに、歌詞には尖りきった難しい言葉ばかりが並んでいるということ。
例えば、悄々(しょうしょう)とは元気がなく悲しい様子を表しています。
このように言葉は難解でも、そのメロディや歌声は非常にポップ。
丸くふわふわ宙を浮くかのようです。
こうやって音楽の楽しみ方を伝えながら実際に奏でることによって、この曲を聴く方の悲しみは吹き飛ぶはず。
そういう話ではないでしょうか。