名曲、なのにお蔵入りの危機
聞けばこの曲、マッキー(槇原のニックネーム)の美しいファルセットも織り込まれて、とてもいい仕上がりなのですが、大ヒットしなかった――というか、お蔵入りの危機もあったのです。
実は1999年8月26日、覚せい剤取締法違反で槇原が逮捕されたのです。シングル発売後のこととはいえ、彼のCDが市場から一斉に回収されます。
さらに、曲調についてもいろいろと取り沙汰されます。楽曲の醸(かも)すその怪しげな雰囲気が、覚醒剤事件の時期と一致して「覚醒剤の影響でこういう曲になった」と思われてしまったのです。
実はこの楽曲、オーダー当時からとあるドラマのテーマソングとして使用されていることが決まっており、ドラマ制作社側から「怪しげな雰囲気の曲を作ってほしい」との依頼のもと、作られたモノだったのです。
本人はその意向に沿って曲を作っていただけなのに・・・・・・間が悪くトホホな結果に。
とはいえ覚せい剤は絶対ダメ!ですね
ラスト見た?!最後にマッキーが頭を銃で撃ち抜かれるなんて!!
おとぎ話を不思議そうに聞いていたあの女の子こそ、実はジョロウグモのような妖(あや)しい女だったのかも・・・・・・!
とあるドラマとは、日本テレビ系ドラマ『ラビリンス』だった!
ドラマ『ラビリンス』とは
『ラビリンス』は、1999年4月21日から同年6月30日まで、日本テレビ系列で放送されていたテレビドラマで、俳優・渡部篤郎の日本テレビ系連続ドラマとしては初主演作にあたります。
ドラマのあらすじは、何と言うか、医療界を舞台に繰り広げられる、おどろおどろしい人間の欲望の物語です。
ドラマの完成度並びに視聴率は高く、最終回は12.2%を記録し、また以下を受賞しました。
第21回ザテレビジョンドラマアカデミー賞
主演男優賞(渡部篤郎)
劇中音楽賞
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/ラビリンス_(テレビドラマ)
『Hungry Spider』の不運は続く・・・・・・
このドラマ、音楽にアルゼンチンの高名な作曲家であるアストル・ピアソラを起用。それが仇(あだ)となり、音楽の著作権使用料がベラボーな金額!になってしまうことが発覚。
さらに主題歌を作ったマッキーが覚せい剤取締法違反(所持)現行犯で逮捕されたこともあって、現在でも映像ソフト化が実現していないのでした。不運ですね・・・・・・。
ちなみにドラマ『ラビリンス』のサントラは発売されています。
ただし、ソフト化はされていないとはいえ再放送自体は2度程なされているので、永久欠番ではないようです。
サスペンスドラマの金字塔といえる、文字通りの「隠れた名作」ということになるのではないでしょうか。
気になる歌詞をチェック
色眼鏡で見たくはないので、ドラマのこととかいろいろと調べました。
そうすると、ドラマに「パピヨン」(papillon:チョウのフランス語)がキーワードとして出てくるのです。
つまり、オーダーにものすごく忠実に作った作品であって、覚せい剤のなせる業ではありません。マッキーの名誉のためにも強く主張しておきますね。
片思いの恋をする男の葛藤
今日も腹を減らして一匹の蜘が
八つの青い葉に糸をかける
ある朝 露に光る巣を見つけ
きれいと笑ったあの子のため
やっかいな相手を好きになった
彼はその巣で獲物を捕まえる
例えば空を美しく飛ぶ
あの子のような蝶を捕まえる
出典: https://twitter.com/samuraix_0102/status/534187327271084032
1番の前半で感じられるのは片思いの恋をする男の葛藤ではないでしょうか。
蜘蛛の巣を張って今日も餌が罠にかかるのを待つのですが、ここにあるのは下卑た男の欲望です。
その罠にかかる蝶はいうまでもなく女性のメタファーですが、蜘蛛は最初この蝶を捕食したかっただけでした。
しかし、そんな蜘蛛の巣を「綺麗」と評したものだから、蜘蛛はその蝶に恋をしてしまう想定外が生じるのです。
これを男女に置き替えると、女をナンパして抱きたかっただけの男がその女に本気で惚れ込んでしまうことを意味します。
だからこそ「やっかいな相手を好きになった」とはそんな想定外に狂わされる男の悲しさを表わしているのです。
同時にここにあるのは「聖」と「邪」の対比であって、蜘蛛を「邪」だとするなら蝶が「聖」でしょうか。
本物の輝きの前に邪なるものは圧倒されてしまうということもまた感じ取れます。
必死に理性と格闘する蜘蛛
朝露が乾いた細い網に
ぼんやりしてあの子が
捕まってしまわぬように
I'm a hungry spider
You're a beautiful butterfly
叶わないとこの恋を捨てるなら
この巣にかかる愛だけを食べて
あの子を逃がすと誓おう
出典: https://twitter.com/samuraix_0102/status/534187327271084032
英文の訳は「僕はお腹をすかせた蜘蛛、そして君は美しき蝶」ですが、大事なのはそのニュアンスです。
ここでは自身と相手の違いを言葉にしつつ、決して私情に惑わされまいと理性と格闘する蜘蛛の生き様が描かれています。
その後に続く日本語の歌詞も見事で、男はきっとこの恋が最初から叶わない片思いであることを分かっているのです。
近づいてしまえば拒絶されてしまうであろうことも分かっていながら、しかし手放してしまうのも惜しまれる。
そんななけなしの理性を総動員して必死に踏みとどまっている男の情けなさがこれでもかと詰め込まれています。