Rin音のゆったり浸れるラップの世界にようこそ
ラップのような激しい音楽はあまり好きではないと、そんな風に思う人もいるかもしれません。
第一印象だけで「聴かず嫌い」をしているなら、ぜひ「Rin音」の楽曲を聞いてみてください。
Rin音(りんね)は、1998年生まれの若手ラッパーです。
従来のラップの印象を覆すような楽曲を多く作っており、新世代ラッパーとしても注目されています。
彼の一番の持ち味は、驚くべきことにゆったり感だといわれているんです。
ラップというとやはり、「オレが一番!」みたいな攻撃的なものが多いように思われます。
正直、ちょっと女子ウケは狙いにくいジャンルといえるでしょう。
ステレオタイプのラップから距離を取っていたあなたも、彼の曲には認識を新たにできるはずです。
日常で感じたこと、ふと目にしたことなど、独特のRin音ワールドに浸ってみませんか。
今回はSNSをモチーフにした1曲をご紹介し、歌詞の意味を解説していきたいと思います。
リリックから溢れる日常感がむしろいい
自分以外の誰かが作詞した曲を歌うシンガーは多いでしょう。
しかしことラッパーに関して、そこはNG視されていたりするんです。
というのも、ラップの歌詞にとって重要なことは、いかにリアリティのある言葉であるかどうかだからです。
できれば、自分の体験した物事について歌うのが好ましいといわれています。
なので、ラッパーは基本的には自分で作詞を行うのだそうです。
この【SNSを愛してる】も、Rin音による作詞ですね。
彼が得意とするのは、日常を切り取ること。
日常で触れる些細な出来事を歌詞に載せ、絶妙なリズム感で歌い上げます。
冒頭の歌詞も、聴いているだけでその情景が浮かんでくるようではありませんか?
レトロってお洒落でしょ?
少し洒落っ気づいたフリして 家でながしてるVHS
どう? 僕ってお洒落でしょ 画面越し偽物のストーリー
出典: SNSを愛してる/作詞:Rin音 作曲:Rin音・Shun Maruno
「あー、こういう人いるよね」と思わず言ってしまいそうな歌詞が、いきなり登場します。
レトロ志向というのか、古いもの=カッコいいみたいな考えがあって、それに傾いていく人たちがいます。
そういう物を愛でる自分が好き、といった感覚もあるでしょう。
それそのものより、「そういうことをしている自分」にスポットが当たっています。
VHSなんて絶滅寸前だし、本来ならわざわざ見る必要もないはずです。
それなのにそうするのは、「今時ビデオなんて見てるオレ、カッコイイ!」といったところでしょうか。
その証拠に、引用歌詞の2行目では他に対するアピールも窺えます。
「偽物の~」という下りは、そんな自分に気付いている部分もあるということなのでしょう。
レトロなんて趣味じゃないけど、好きなフリしてるとカッコいいからと、自分でもよく分かっているのです。
そういう自分がいいでしょって言いたいだけ
Instagramは既に君が見てて もう十分満足げ
でも現実は大差ない話しさ 録画済みのとっておきは決まってブルーレイ
出典: SNSを愛してる/作詞:Rin音 作曲:Rin音・Shun Maruno
引用歌詞の1行目で、「映え文化」の担い手であるInstagramが出てきます。
「君」とはおそらく「僕」の彼女、あるいはとても仲のいい女友達だと推測できます。
彼女がインスタにべったりで、「僕」はそんな彼女を見てるだけでもうお腹一杯というところでしょう。
そういうカップルは、きっと多いのではと思います。
彼女への仄かな呆れがありつつも、「僕」にもまた、似たようなことをやっている自覚はあるのです。
VHSカッコいいなどと言う割には、ここぞという時には画質のいいブルーレイで番組を楽しみます。
彼女が大好きなインスタの中にある現実とのズレは、「僕」を取り巻く日常の中にもあったのです。
「僕」はピンときた
Ring a Ring a bell Ring a Ring a bell
Tinkerbell も待ってる 鳴ってるTEL 何分待たせる?
Ring a Ring a bell Ring a Ring a bell
ちょっとまってて インスタ映え ごめんお待たせ
出典: SNSを愛してる/作詞:Rin音 作曲:Rin音・Shun Maruno
ringという単語には、音を鳴らすという意味があります。
しかし「ring a bell」という形になると慣用句になり、「ピンとくる」という言い回しになるんです。
電話と絡めて単に着信音を示しているのかと思いきや、どうやら「僕」には何か心当たりがあるご様子。
歌詞の中にある「Tinkerbell」は、韻を踏むための材料と捉えることができます。
しかし、実力派ラッパーのRin音が、そんな形だけのフレーズを置くでしょうか。
おそらくこれは、暗に「君」のことを指しているのでしょう。
「僕」が恋する相手は、茶目っ気たっぷりの妖精みたいな女の子なのかもしれません。
引用歌詞の後半部で、「僕」がピンときていることが何となく分かってきます。
4行目の歌詞を見ると、彼女がすぐに電話に出られなかったことを謝っています。
「インスタ映え狙ってたからさ、手が離せなかったんだよね」
そう言われても、「僕」にはどこか納得できない部分があるのでしょう。
恋人が彼氏の電話にすぐ出られない理由、おまけに誤魔化したい理由とは一体何でしょう。
存在しないものにうんざりしている
全く嘘ではないよ なんて見てられないよ 丸い角砂糖 苦くて飲めないよ
大人びた君が好きなんじゃない 乾涸びたシミを愛してた
出典: SNSを愛してる/作詞:Rin音 作曲:Rin音・Shun Maruno
SNSの世界は、「盛る」ことがもはやお約束になっています。
それは現実的ではないけれど、全部嘘かといえばそうでもないです。
インスタ映えにそういう言い訳を付けられて、「僕」はほとほとうんざりしているのでしょう。