隠しようがない感情の吐露は歌詞の中で行われます。
嫌だという思いは現状に対しての否認です。
こうした現実は飲み込めないよという思いを歌っています。
空までも否認している姿が描かれているのです。
どこまでも現実を肯定できない僕の気持ちが歌われています。
しかし何を嫌っているのかその正体はまだはっきりしません。
「リズム」は嫌だという感情については露わにしますが事実関係については多くの言葉を割かないのです。
醒めない夢とは世界の縁に堕ちてゆく君の姿でしょうか。
肯定できないのは夢であり現実であるのでしょう。
実際に僕と君との間にある距離はあまりに遠いのですから。
僕はこの事実を容認できないのです。
もっと君が見えるようにしたいと願っています。
リズムとは何か
物哀しいラインが続く
悲しい記憶 研ぎ澄ますように
瞼閉じたら 切ない風が
出典: リズム/作詞:モモコグミカンパニー 作曲:アイナ・ジ・エンド
見たくない現実に目を閉じてしまうような場面を想像してみてください。
僕にとって君にまつわる記憶は哀しいものばかりなのでしょう。
記憶に没入するために目を閉じていると風が吹き荒ぶのです。
荒涼とした情景が歌われます。
「リズム」という曲で一番哀しい場面はこの章で紹介するラインです。
歌詞の行方を先取りするとこの曲の中で僕は君と実際に会うことはありません。
病院という孤島に幽閉されたアイナとの関係を歌ったのかもしれないです。
入院すると患者は自分の意志で退院することが許されません。
アイナの不在の時期のことを歌ったともいえるでしょう。
しかしもっと普遍的に会いたい人に遭遇できない状況というのは誰にでもあるはずです。
そんなときに感じる風の寂しさのようなものは誰しも共感できるでしょう。
僕の心の裏側でいま滲んでいる思いはどのようなものでしょうか。
音楽と人体のビートに乗れない
イヤホンしても からっぽのまま
身体すりぬけ はみだすリズム
出典: リズム/作詞:モモコグミカンパニー 作曲:アイナ・ジ・エンド
タイトルを回収する箇所です。
解釈は困難でしょう。
それでもゆっくり言葉を紐解いてゆきます。
イヤホンで音楽を聴いて没入しようとしても僕の心の空洞は埋まらないようです。
音楽の中のリズムは身に入らずにイヤホンの外に漏れてゆきます。
大事なことはこのリズムが実際の音楽のビートに関するものかどうかです。
おそらくその解釈も可能でしょう。
もう一方でリズム、つまり律動というものは心臓の鼓動と親しい関係を持っています。
自分自身の心臓の鼓動も身体の外に漏れ出すような離人感を歌っている可能性もあるのです。
いずれにしてもビートに身が入らない僕はどこか虚しい思いを滲ませています。
この世界の何もかも是認できなくてノンとつぶやくような状況がまだ続いているのです。
しかし「リズム」の歌詞の中で哀しい響きはここまで。
ここから先の展開ではもう少し僕に主体性が芽生えてきます。
リズムに対して乗れない思いを滲ませていた僕が変わりだすのです。
見ていきましょう。
僕の変身を見よう
歌詞の印象が変わる一瞬
引っ掻きたい 噛みつきたい oh baby
愛想もない、あぁ
この僕が一歩踏み出し
出典: リズム/作詞:モモコグミカンパニー 作曲:アイナ・ジ・エンド
僕の君への想いは募ります。
実際に出会って傷を遺すような人間としての触れ合いがしたいのです。
もちろん内面でも外面でも傷を負わすような意味ではありません。
もっと生の迫力ある付き合い方をしたいと僕は願っているのです。
しかしその想いは君に届かないのでしょう。
それならばと僕の姿勢が変わります。
自分が一歩前へ踏み出してみようとここで転機を迎えるのです。
この転換はドラマティックなものでしょう。
スマホの画面越しで君のご機嫌をうかがっていただけの僕の在り方が変わります。
自分から前へという想いはいつだって世界そのものに作用するでしょう。
世界への働きかけをした僕は事態を打開できるかもしれません。
すでに先回りしたようにこの曲の中で僕は君には会えないです。
それでもこの先の未来を変えうるのは僕のこの一歩の前進でしょう。
僕のこの前進は歌詞にどのような変化をもたらしたでしょうか。
夜空に見た吉兆を信じよう
扉開けても まだなにもないけど
夜の隙間に ほら
晴れた空がみえたみえたみえた
出典: リズム/作詞:モモコグミカンパニー 作曲:アイナ・ジ・エンド
実際に事態が大きく変わった訳ではありません。
まだ君の不在は続いています。
それでも僕は一歩踏み出したことで空の晴れ間を発見しました。
晴れ間というものは吉兆を報せてくれるものでしょう。
可能性というものがようやく僕の前で拓いたのです。
僕はこれまで状況に対しての不満しか口にしていませんでした。
その僕が主体性を持って一歩前へ進むことによって見える世界が変わるのです。
モモコグミカンパニーはこの僕の主体性というものを大事なものとして伝えたかったのでしょう。
音楽にも没入できなかった僕のリズムは曲が変わってしまったかのよう。
生きた心臓の鼓動も聴こえ始めたのではないかと思わせます。
「リズム」という楽曲の印象がガラリと変わる瞬間です。
救いがなかった世界観や不穏な空気というものがここで払拭されました。
「リズム」は暗い心に巣食った歌でしたが、総体として希望に向かっていると信じることができます。
もう終盤になるのが寂しくなるでしょう。