清水依与吏の“独唱”的な哀切漂うバラード
3thアルバム「blues」収録、ギターソロが泣かせます
「僕が今できることを」は、2012年11月にリリースされたbuck number3枚目のアルバム「blues」に収録されたスローバラードです。
アルバムの曲順でいうと、最後から2番目。
最終曲は「恋」で、これは2012~2014年放送の「musicる TV」(テレビ朝日系)のエンディングテーマ、また「JAPAN COUNTDOWN」(テレビ東京系)のオープニング曲になりました。
「恋」はしっとりしたラブソングなので、アルバムの締めくくりには最適。
「僕が今できることを」もアルバムの締めくくりにふさわしい曲と言えますが、ほぼギターソロをバックにVol.の清水依与吏が切々と歌うので、ウェットな哀愁ムードが濃厚。
なのでこれをエンディング・ナンバーにもってくると、悲しげな雰囲気のまま尻すぼみに終わる感じにも……。
そこで「恋」を最後にもってきたように思えるのですが、逆に考えると「僕が今できることを」の哀愁漂う雰囲気というのは、それほど強烈だということです。
自分がたどってきた人生を振り返った時、思う事
清水依与吏の情感たっぷりな歌声に胸がジーン……
さっそく歌詞をみていきますが、その内容はおおざっぱにいうと、今まで歩んできた人生を振り返る、回顧と感謝がテーマです。
歩いてきた道は
楽しいだけじゃなかったな
だけど思い出し笑えるのなら
今が幸せ とゆう事だろう
出典: 僕が今できることを/作詞:清水依与吏 作曲:清水依与吏
2012年にこの曲を発表した時の清水依与吏は、28歳。
「歩いてきた道は」と、人生を振り返るにはまだ早い、まだ若いといえますが、青春を振り返るのならちょうどいい年頃。
リーダーの清水依与吏がback numberの母体となる最初のバンドを結成したのは2004年で、ちょうど20歳の頃。
2007年に現在のメンバーでback numberをスタートさせますが、インディーズ時代を含めてその活動は「楽しいだけじゃなかった」はずです。
そんなback numberがメジャーデビューして頭角を現して来たのは、「僕が今できることを」を発表した前年の2011年。
メジャーデビューを機に注目を集め、徐々にスターダムを駆け上がっていきます。
ようやくback numberは「今が幸せ とゆう事」になってきたのです。
「僕が今できることを」はメジャーデビューの翌年、2012年の曲。
この頃には、売れてきた、という実感とともに、それまでお世話になってきた周囲の人々に対する感謝の思いがより強くわき起こっていたのではないでしょうか。
Bメロでは、さらにその心境が綴られます。
この歌詞って真面目過ぎ! あまりにも生真面目では!
売れてゴーマンにならないように、との戒めか?
毎日少しづつより良い自分になる為
きっと誰もが悩んでいるのだろう
答えのない問いかけに 今も
出典: 僕が今できることを/作詞:清水依与吏 作曲:清水依与吏
back numberは、若い男の子にウケるバンドだ、とか、弱いダメダメ男子が特に親近感を覚える曲だ、といった感想がネットに多くあがっています。
それは「高嶺の花子さん」や「青い春」を聴いているとよく分かるのですが、それらの歌詞にも時々、生真面目というか、真面目過ぎるような青臭いフレーズがちょくちょく出てきます。
この「僕が今できることを」では、「毎日少しづつより良い自分になる為」がそれです。
「より良い自分になる為」って……イマドキのティーンや20代の若者って、こんなにクソ真面目なんだろうか?
それに「より良い自分になる為」に「きっと誰もが悩んでいるのだろう」か?
悩んでいることは悩んでいるだろうけど、「より良い自分になる為」ではないような気がします。
ただ、この曲を作った時の清水依与吏は、そんなふうに自分を律したい心境にあったのでしょう。
いわば、売れてゴーマンになるのではなく、本来の自分を失わずに、以前よりちょっといい人を目指そう、ということではないでしょうか。
勝って兜の緒を締めよ、みたいな心持ちだと思います。
なぜ、そんなに生真面目に思うようになったのか。
その理由をサビでこう説明しています。
back numberファンに対する感謝の思い
今後のback numberの進むべき道を再確認
僕らは優しい人に支えられて
いつの間にやら誰かの分まで
生きなきゃいけない気がするけど
涙も汗も一人分しか流せない
だから自分の思うように
僕が今できることを
出典: 僕が今できることを/作詞:清水依与吏 作曲:清水依与吏
「僕らは優しい人に支えられて」というこの歌詞を読むとこの曲のテーマというか、なぜこの曲を作ったのかが、一瞬で分かると思います。
「僕ら」は、もちろん清水依与吏を含めたback numberのこと。
「僕ら」を支えた「優しい人」は、インディーズ時代のファンや仲間、またはメンバーの家族のことでしょう。
まだ売れなかった頃、清水依与吏は左官屋をやりながらバンド活動に勤しんでいます。
メジャーになるまで随分苦労してきているんです。
そうした売れない頃からback numberを応援して励ましてくれた人々に対して、精一杯のお返しをしたい、ということ。
しかしback numberは、スリーピースバンドゆえ3人しかいません。
「誰かの分まで」「生きなきゃいけない気がするけど」、「涙も汗も一人分しか流せない」というわけで、3人ができる“お返し”はせいぜい3人分しかないのです。
なので結局「だから自分の思うように」「僕が今できることを」やっていくしかない、といった現時点での心境告白になったのです。
曲調に哀愁が漂うのも、ストレートにではないけれど苦労した時代のことが歌詞に込められているためですね。
サビの最後は、曲のタイトル「僕が今できることを」で締めくくられます。
これは、今自分が出来る精一杯のパフォーマンスを見せることしかないのだ、といったアーティストとしてはギリギリの覚悟を誓ったもの。
そのきっぱりした、清々しさが、またまた生真面目な印象を持ってしまいます。
back number、好感度、大ですね。
しかし、この歌詞はこうしたback numberの意図を外しても、自分が誰かのために感謝を伝えたい、との思いを込めた曲として聴くことが出来ます。
だから、子供が親に対して、とか、カレシがカノジョに、夫が妻に対して抱いている感謝の気持ちを伝える時に、それを表せる歌としても十分成立しています。
バラードの強みですね。
なので、例えば結婚式の会場とか、卒業式といった日常生活の節目や門出で歌われていい曲だと思います。
今後、あらゆる生活シーンでもっと広く歌われて欲しいですね。