青空とは
等身大の恋心を、すっと駆け抜けていくそよ風のような声で歌い上げるシンガーソングライター・aiko。
日本の音楽のメジャーシーンの第一線で、時に甘く時に切ない恋愛ソングを歌い続けています。
青空は彼女が2020年2月に発売した39作目のシングル。全作から約1年9ヶ月ぶりの、ファン待望の一曲です。
晴れ渡る青空のように軽快な曲調とは裏腹にその歌詞は主人公の悲痛な心境をまっすぐに綴ったものとなっています。
聴いていて胸を締め付けられるような歌詞に込められた思いを考察していきましょう。
あなたとの恋
禁じられた関係
触れてはいけない手を 重ねてはいけない唇を
あぁ知ってしまった あぁ知ってしまったんだ
出典: 青空/作詞:AIKO 作曲:AIKO
ささやくようなaikoの声は許されない恋を歌います。
おそらく、浮気や不倫のような禁じられた関係に落ちてしまったのでしょう。
恋い慕った人には相手がいるにもかかわらず、唇を重ねてしまいます。
進んではいけない一歩を踏み出してしまった主人公の後悔と負い目。
けれどもう知らなかった頃には戻れない。後戻りはできないという気持ちが表れています。
望んで踏み出したにも関わらず、どうしても後ろめたさを感じてしまう。
そんな彼女の心境を想像すると、こちらまで胸が締め付けられます。
こうなることを望んでいたのに、なった後でその過ちの大きさに気づいたのかもしれません。
禁じられた恋をしてしまったことを後悔している彼女ですが、留めておけないほど想いが募ってしまったのでしょう。
身を裂くほどの別れ
あなたにもう逢えないと思うと 体を 脱いでしまいたいほど苦しくて悲しい
あなたに出逢う前の何でもなかった 自分に戻れるわけが…
出典: 青空/作詞:AIKO 作曲:AIKO
そうして始まった恋も、月日を経て終わりが訪れます。
もう会うことは出来ない。二人は禁じられた関係に別れを告げたのでしょう。
この別れは主人公にとって身を掻き毟るほど辛く苦しいものでした。
その人と過ごした時間、重ねた経験は主人公の価値観すら変えてしまうものだったのでしょう。
出会いの前と後で、主人公の世界は大きく変わってしまいました。
それだけ大きな存在で離れがたい人だったのですね。
主人公にとってこの恋というものはとても大切な経験だったのでしょう。
たとえ許されざるものであったとしても、それは自分を大きく変えるほどの恋だったのです。
このパートでは関係を持ってしまったことへの彼女の後悔は感じられません。
禁じられた関係を築いてしまったことよりも、好きな人との別れに対しての悲しみの深さが表現されています。
本当の温もりを知ってしまったからこそ、彼のことが愛おしくてたまらないのです。
もうその温もりを感じられないことが、何よりも悲しいのでしょう。
現実から目を背けていた
間違いを引き返せない目の奥まで苦い
だけど無しに出来ないよ ずっと背けてた
出典: 青空/作詞:AIKO 作曲:AIKO
あなたと一緒にいた頃の回想でしょう。
二人の関係が間違いだと分かっていても、もう感情に歯止めが利かなかったのです。
彼の本当の相手への罪悪感や謝罪の念を常に感じていたとしても。
彼への気持ちと隣にいられる時間を失いたくなかった主人公はその現実から目を背け続けていたのです。
ですが、その時間は長く続きません。
禁じられた関係が正される時が来てしまったのです。
間違っている関係というのは、いつか必ず終わりを迎えます。
主人公にとってこの恋は間違っているからといって諦められるようなものではなかったのです。
彼女は何よりも、彼のことを愛していたのでしょう。
どうなっても構わないと覚悟を決めていたのかもしれません。
罪悪感や後悔さえも抱えて生きていこうと考えていたのではないでしょうか。
正しい形で恋をしていればこのような形にはならなかった。
しかしそんな風に出会うことができなかったから、このような悲劇が生まれてしまったのです。
彼女のやり切れない気持ちと深い悲しみが伝わってきます。
呆然と見上げた空
振り返る思い出
ちょっと唇に力入れて
何にでも頷いてって今思い返すと馬鹿みたいだな
ボーッとした目の先に歪んだ青い空
出典: 青空/作詞:AIKO 作曲:AIKO
辛い思いを噛みしめながら、楽しかったあの頃を思い返します。
あなたの言うこと、すること全てをなんの疑いもなく肯定していた主人公。
それくらい自分にとっての全てであり、彼を信じていたのですね。
ぼんやりと青空を眺めながら、その純粋でまっすぐだった自分の心をバカみたいだと笑います。
ここでタイトルの「青空」に隠された意味が判明するのです。
主人公の切ない心情を嘲笑うかのような、眩しすぎる青空。
彼女の曇り切った心と正反対のその真っ青な空が、余計に彼女の心の中の孤独を大きく見せます。
自分を卑下するかのような言葉を吐きながらも、彼女にとってその瞬間は確かに幸せだったのでしょう。
大切な時間というのは振り返ってみると、あっという間なものです。
冷静になって初めて、恋に溺れていた自分を客観的に見られるようになったのでしょう。