この時眺めているのは歪んだ空。

空がなぜ歪んでいるのか。主人公はまだその理由に触れようとしません。

ここでの空の歪みは、主人公の抱える悲しみの象徴です。

あまりに大きな悲しみは、目に映る景色や主人公自身の心すら歪めてしまったのでしょう。

もしくは、この歪みそれ自体が本当に彼女の目に映っているのだとしたら。

その歪みというのはおそらく、彼女の目に浮かぶ涙を意味しているのではないでしょうか。

涙によって視界が歪むのは、彼女が彼との思い出に浸っていることを表しているのでしょう。

脳裏に2人で過ごした楽しい思い出が走馬灯のように流れる。

もうその日々が戻ってこないことがたまらなく悲しいのでしょう。

失った感情の行き場

思い出になんてできない

振り返るのは あっけなくて怖い あてもなく信じた心が愛おしい
ふとした時に剥がれた思い出 抱きしめる日が来るわけが…

出典: 青空/作詞:AIKO 作曲:AIKO

身を焼くほどに焦がれた恋いも、振り返ってみれば呆気なく終わってしまいました。

現実はなんて無情で儚いものでしょう。主人公は恐れを感じます。

疑うこともなく、ただただあなたを信じていた心。

そんな自分の純粋さを愛しく思いながら、同時に気の毒にも感じます。

それだけまっすぐに信じていたが故に、この失恋から立ち直ることなんてできない。

良い経験だったと笑って振り返る事ができるわけない、という強い失望が表れています。

振り回された恋心

想ったり嫌になったり自由で不自由だった
それはあなたがいてくれたからできたんだ

出典: 青空/作詞:AIKO 作曲:AIKO

恋い焦がれたり、ふとこの関係に嫌気が差したり。心はいつも恋に振り回されて浮き沈みしていました。

あなたを中心に動き回る感情。

それは自分の意のままであるようで、あなたという存在に捕らわれた不自由なものでした。

その一挙一動で嬉しくも悲しくもなる。そんな気持ちでしょう。

あなたが離れてしまった今、もう二度とそんな気持ちは抱けないのです。

恋というものはどんな形であろうと、終わってしまえばそこに寂しさを覚えるもの。

特に彼女の場合は、彼のことを深く愛していたがために、その寂しさが大きいのではないでしょうか。

本当に大切な人だからこそ、そうやって心を惑わされていた。

そのことに今気がついたのでしょう。

薬指に残る未練

そっと薬指を縛る約束を外してもほどいて無くしても
まだ気をつけて服を脱ぐこの癖はなかなか抜けないな

出典: 青空/作詞:AIKO 作曲:AIKO

薬指が意味するものは二人の幸せな未来です。

婚約指輪や結婚指輪。この指にはめる指輪は恋人達の約束の印です。

そんな思いを込めた指輪をきっと主人公も贈られていたのでしょう。

服を脱ぐ時、指輪にひっかからないように気を付けていました。

その癖は指輪がなくなった今も染み着いて直りません。

あなたがいないのに、あなたがくれた当たり前の名残だけがそこにあるのです。

指輪を外した主人公を縛るのは、分かれてしまったあなたへのどうしようもない想い。

そうなれば良かったという、幸せな二人の未来への望みです。

主人公が薬指を縛り、繋ぎ止めているもの。

それは簡単には消すことのできない、あなたへの未練です。

その指に永遠の愛の誓いを夢見る。aikoらしいロマンチックな表現です。

ですが、そこに抱く夢が幸せで輝きに満ちて見えるほど、主人公の悲痛が強調されていきます。

現実を受け止めていく

なんだよあんなに好きだったのに
一緒にいる時髪の毛とか凄い気にしていたのに恋が終わった
破裂した音が鳴っている 今あたしの薄ら汚れた空に吸われていくの
恋が終わった

出典: 青空/作詞:AIKO 作曲:AIKO

どうしようもない悲しみ。

あまりの苦しさを怒りに変えることで、どうにか主人公は心に折り合いを付けようとします。

あんなに好きだった私の気持ちはどうなるんだよ。

身なりを気にして、お洒落であろうと頑張っていたのに。なんなんだよ、と。

そうすることで、主人公は冷静に一つの事実と向き合おうとします。

恋は終わった」。

大切にしていたものが、呆気なく壊れてさらさらと崩れ落ちていく。

その破片が風に舞い上がり、空へと消えていきます。

ここでようやく、主人公の心の整理がつくのです。

終わった恋を客観視できるようになったことで、自分の気持ちと折り合いが付けられるようになったのではないでしょうか。

彼女にとって報われなかったこの恋がようやく過去のものになろうとしています。

苦しみの中にいた彼女は、ようやくその檻から抜け出そうとしているのです。

今まで囚われていた想いが、空へと浮かんでいくのを彼女は感じているのでしょう。

主人公の空

ちょっと唇に力入れて
何にでも頷いてって今思い返すと馬鹿みたいだな
ボーッとした目の先に歪んで見えてる
本当は涙で見えないただの空

出典: 青空/作詞:AIKO 作曲:AIKO