青空はもう見えない?
顔色も変えないね くずれかけたぼくを見ても
冷ややかなやさしさの 裏に別れを用意してたね
雨雲の裏の青空は見えない
出典: バチェラー・ガール/作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一
ここで彼女がどんな女性だったかということが少し見えてきます。
振られた彼にしてみれば悲観的な見方になるのは仕方がないのかもしれません。
悲しみとショックで立っているのがやっとの彼と、平然と彼を見つめる彼女。
もともと冷たい性格というわけではなくて、今の彼にはそう見えていると思いたいですね。
これほどはっきりと強い女性と弱い男性を描き分けた曲も珍しいのではないでしょうか。
ただ冷たい歌詞ではなくて、あくまで都会的なセンスが全体に漂っているところがいいなと思います。
それでもこの曲は彼に厳しい内容で、ふたりが付き合っていた頃に見えていた青空は見えるはずもありません。
なんだか彼のことが気の毒にも思えてくる場面です。
届かない言葉
ますます冷めてしまう彼女
君が欲しいと つぶやくだけで
すべてなくした
でも言わずにはいられなかった
淋しい
出典: バチェラー・ガール/作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一
彼は彼女のことが好きで好きでしかたがありません。
だけどここでとても直接的な言葉をつぶやくのは、どういうことなのでしょう。
もう終わりかけている恋なのに、彼女に会うと思わず口からこぼれてしまったのでしょうか?
相手の気持ちがもう冷めてしまっているとしたら、そんな言葉は聞きたくないでしょう。
しかもはっきりと言うのではなくてうつむき加減でつぶやかれたとしたら、なおさらです。
自分の言葉が彼女の冷めた心にとどめを刺したとしたらこんなに切ないことはありません。
それでも自分の想いを口に出さずにいられなかったのです。
間奏に続いて入る最後の行のひと言が彼の気持ちのすべてでしょう。
マイナーなメロディーは似合わない?
シティ・ポップの極意
最後にもう一度降雨の情景をピアノに例えたパートが登場しますが、歌詞は繰り返しなので省略します。
“雨は~”で始まるパートはふたりの別れのシーンを挟んで全部で4回あって、これが効果的なのです。
最初にこのパートを持ってきた時点でヒットは約束されたようなものだったと思います。
強めのドラムのリズムに支えられた、切ないの一歩手前ぐらいのメロディーが絶妙です。
間に挟まれたふたりの別れを歌うパートがなんとなく明るいメロディーなのはなぜでしょう。
たぶん彼の辛い気持ちに引きずられないようにしたのかもしれません。
どしゃ降りの雨の中、別れのシーンが暗くマイナーなメロディーでは沈んだ雰囲気の曲になってしまいます。
辛い気持ちを洒落たメロディーに乗せたところがシティ・ポップと呼ばれる所以ではないでしょうか。
このあたりは作曲した大瀧詠一のセンスなのだろうと思います。
彼の器が小さすぎた?
去りゆく彼女の背中
忘れるよ二人には 小さすぎたぼくの傘
どしゃ降りに 消えて行く
君の強い 背中 きっと きっと
忘れるさ
出典: バチェラー・ガール/作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一
ようやく諦めがついたのか、彼は別れの原因を自分に求めます。
自分の器が小さくて彼女の心を繋ぎ止めることができなかった。
そう自分を納得させようとしているのです。
ここでも強い女性と弱い男性という構図は変わりません。
振られて自分の至らなさを反省する男性と背筋を伸ばして去っていく女性。
雨の中を遠ざかる彼女の背中には揺るぎない強い意志が表れています。
彼のことはきっぱりと忘れ去ってまた新しい恋を探すのでしょう。
それでは彼はどうなのかというと、簡単に彼女のことを忘れることはできそうにありません。
悲しい彼の強がりが、どしゃ降りの雨の中に消えていきそうです。