何も持たないころは捨身で笑いを取りにいくこともできました。
今回限りウケればそれでいい。
けれど多くのものを手にした今、キレはどうしても失われていきます。
冠番組、人気芸人という名、多くのファン…。
失いたくないものが多いあまり、今の立場に固執してしまうのです。
「ほしん」の繰り返しが印象的なライムが「保身」に走ってしまう本心を描き出しています。
自分で作り上げた自分に追い詰められる
己のアイデアが己の枷になる
俺を分かってくれと叫び
世に知らしめたばかりに
自分で自分をより自分らしく演じなきゃいけない羽目に
出典: バレる!/作詞:R-指定 作曲:DJ松永
ピン芸人とは「自分一人で笑いを取る芸人」。
そこには「自分」という個性がいかに強烈かも関わってきます。
変人、天然、鋭いツッコミ、人見知り…。
自分で自分の「属性」を決め、自分はここが面白いんだ!とアピールした結果の成功。
その結果何が起きるでしょうか。
世間がその人に求めるのは、よりその「属性」らしい生き方。
変人なら、どんな場面でも奇妙な言動が求められるでしょう。
人見知りなら、人付き合いが苦手そうなふるまいを要求されます。
その通りに行動しなければ、「思っていたのと違った」と落胆されてしまう…。
そういった日々の中で、自分で作った自分像ががんじがらめに自分を縛っていきます。
求められる自分像への苦しみ
求められてるあの味
でも俺はもうそこにゃ居ない
俺って誰?俺って何?
びびって手も足もでないです!
出典: バレる!/作詞:R-指定 作曲:DJ松永
芸人になって芸を磨き、仕事をこなしていくうちに変わっていく自分。
けれど、周りが自分に求めるのはいつまでもデビューした時の「味」です。
わかってほしいと作り上げ、興奮するアイデアだった自分像。
しかしそれは今の自分とかけ離れていって、自分自身がそれを掴むのに必死になっています。
世間に求められている自分とは何だろう?
考えるほど新しいことに挑戦するのは怖くなり、芸の幅は狭まっていきます。
底の浅さが「バレる」時
何もない自分に焦る理由
バレる!
俺にはもう何にもないや
バレる!
いやハナから勘違いだった
バレる!
バレる…
化けの皮剥がされる…
出典: バレる!/作詞:R-指定 作曲:DJ松永
二度目のフック。
しかし、今度は立場がまるで異なっています。
第一フックでは自分のアイデアを武器に攻めかかる立場の強気な思いが描かれていました。
一方このフックで描かれているのは、若手に攻めかかられ、自分の底の浅さに苦しみ焦る感情です。
かつて自分が作り上げたアイデア。
絶対にうまくいくと信じ、才能がありすぎて面倒臭いとまで笑ったアイデアに首を絞められる。
最初から自分に才能があるなんて勘違いだったのかもしれない。
才能とアイデアに満ちた若手の前で、保身に走り新しいことができなくなった自分。
才能のなさを暴かれるのも時間の問題です。
失いたくないものを多く抱え、追いかける者に追われて、自分の才能のなさに直面する。
打開できない現状に、ただ本性が「バレる」ことを恐れ、焦るのです。
落ちぶれる自分に喜ぶ奴も
水を得たAll My Haters
手を叩いて指さしてる
ほれ見たことか!笑える…
出典: バレる!/作詞:R-指定 作曲:DJ松永
アンチや自分の失敗を望んでいた者。
売れていく間に増えた彼らに一泡吹かせることもできません。
才能のなさがバレた瞬間、水を得た魚のようにバカにして笑い者にされます。
あいつは面白くない、やっぱり才能がない…。
一気にそんな悪いイメージばかりが語られます。
これで芸人人生は終わってしまうのでしょうか。