やがてあなたは優しくなります。

人の痛みを知ることになります。

たくさん流した涙は、あなたの心根をやさしくします。

怒ったり、泣いたり、憎んだり。

みんな人として当たり前のことをやってきただけです。

それをみんな、優しいお母さんは見守ってきてくれました。

時には親子げんかもしたでしょう。

言ってはいけない言葉も吐いたでしょう。

でも、それらは全て大人になってゆくための階段。

無駄になることなんて、ひとつもないのです。

1番の歌詞は、ひとりで頑張ってきた自分の人生に対して懸命の強がりに感じられます。

でも、それでいいのです

人は生まれて死んでゆくまで、数知れぬ出会いや別れ、喜びや悲しみを味わいます。

歌詞はそれらを大きく俯瞰してあなたを励ましているのですね。

人生は無常?

失ってゆくもの

2番の歌詞からは人生の無常さを表していきます。

主人公は人生には「死別」というどうにもならない別れを嘆きます。

自分の手の届かないところに旅立って行ってしまう悲しさ

1人ぼっちにされてしまうはかなさ

あんなに楽しかった時間を共有できた愛する人はもうこの世にはいない。

永遠の別れを一方的に宣告されるこの辛さ、悲しさ。

人生とはなんて残酷で無常なものなのか。

主人公は今生の別れに対する無力感と自分が反対に強くならければ、という使命感を抱くのでした。

私はすべてのものを愛し守る!

主人公は悟ったのかもわかりません。

いくら愛する人にすがっても結局、奪われてしまう。

私の愛する人はどうしていつも引き離されるのか。

そしてやってくるこの張り裂けんばかりの悲しみ。

それならばいっそのこと、別れのない愛を選ぼう。

全てのものを慈しみ、愛そう

そうすれば少しばかり自分の元から命が消えていっても何とか持ちこたえられる。

これが母になる、という気持ちなのか。

主人公は悲しみの果てにそのような境地にたどり着いたのかもしれません。

主人公のそんな気持ちは歌詞中には直接的な描写はありません。

しかし、最後のサビの歌詞に主人公の思が大きく詰まっているのを感じさせてくれるのです。

思い出そう。生まれてきたときの祝福を!

主人公は愛される存在よりも、愛そう、という存在に変わっていったようです。

愛されているうちはどうしても受け身なります。

相手からやさしくされるだけの幼い子供のようなものです。

それでは大切なものを失った時の喪失感はいつまでたってもなくなりません。

しかし、立場を変えて自分が相手のことを愛してゆけば、気持ちは大きく変化します。

大地のような大きく深い母の愛情

それに気づいたとき、主人公は消えて去ってゆくものに対する心の葛藤に打ち勝てたのでしょう。

母なる大地は消滅と誕生を繰り返します。

そう、自分が母になってこの世のあらゆる全てのものを愛し、慈しめばいいんだ。

そうすればあんなに悲しい思いもしなくて済むし、逆に心が安定してくる。

これからは涙にくれる人たちをみたら、逃げずに向き合っていこう。

そしてこう言おう。

いつでも私があなたを見守っていますよ」と。

主人公は悟りの境地も似た心境で自分を見つめなおすことに成功したようです。

だから、歌詞の中で何度も「welcome」と言えたのでしょう。

welcomeは全てを歓迎する最高の言葉

生きてゆくことはいいことばかりではないでしょう。

苦しみや悲しみ、辛さや憤りで憤懣やるかたない毎日を送っている人も多いはずです。

そんな時、人との接触を避けて現実から逃げてしまう道を選ぶ人もあります。

でも、この楽曲はそれらすべてを受け入れています

苦しいのも悲しいのも当たりまえ。

逆に我慢せずにそれらをぶつける人生を選んでもいいよ、と訴えているかのようです。

サビの歌詞は「Remenber」と「welcome」を繰りかえします。

あなたがこの世に生まれてきた時の両親の喜びを思い出して、と言っているようです。

あなたは1人じゃない。少なくとも2人の人間があなたを大歓迎してくれました。

そしてその両親から手に余るくらいの愛情を注がれて育つことができました。

その思いを、思い出してくれたら1人で生きてゆくのも何とか耐えられるよ、と言っているようです。

そして、今まさに自分自身もその大いなる愛を注いでくれた母の気持ちに寄り添っているのでしょう。

どうして涙してしまうのだろう

中島みゆき『誕生』に有名芸能人、槇原敬之も支えられた!?泣けると話題の歌詞の意味を徹底解釈!の画像

人生は欲しいと思った愛や恋が全て手に入るわけではありません。

そんな時は愛されない自分を蔑みたくなるけれど、「泣いてまた生まれてくればいいんだよ」とあたたかく受け入れてくれます。

もし一人のまま時を重ねても、その分誰かを守れる強さを身に付けているあなたは「誰よりも愛を知っている存在なのよ」とやさしく包み込んでくれます。

誰もが涙してしまうのは、こんな深い愛情を持った歌詞に放心してしまうからではないでしょうか。

中島みゆきの歌詞は「どうしてそんなことまでわかるの?」と驚くくらい、心の機微に触れた鋭く温かい言葉であふれていますね。

槇原敬之を支えた『誕生』

中島みゆき『誕生』に有名芸能人、槇原敬之も支えられた!?泣けると話題の歌詞の意味を徹底解釈!の画像

この『誕生』に支えられたと公言しているのは、同じく歌手の槇原敬之です。

音楽で誰かの役に立ちたいと願いながらも、大学進学を強いる両親とケンカばかりしていた時。

デビュー後、信頼していた友人に手痛く裏切られて生きる気力を失いそうになった時。

まるで暗闇の中をさまよっているような時、中島みゆきの『誕生』が、彼に力を与えたといいます

彼女が『誕生』で歌う愛は、恋愛に限らず、親からもらう愛、友人とつなぐ愛に置き換えてもぴったりとはまります。

それは、彼女の書く歌詞が時代に左右されないように、性別や関係性の制限を受けない本質をついた歌詞だからではないでしょうか。

ぜひこの名曲を一度聴いてみてください。泣いてしまったとしても大丈夫、あなただけではありません

誰もが心で感じて、でも言葉にできない気持ちを中島みゆきは歌ってくれます。

誰の心にも、彼女の歌詞で癒される傷があるのかもしれません。 

『誕生』カバーby中村中