3rdシングル「フロム・ミー・トゥ・ユー」
イギリスではNo.1ヒット
1963年4月発表、ビートルズの通算3作目のシングル「フロム・ミー・トゥ・ユー」。
エバーグリーンなサウンドにのせたラブソングです。
作詞作曲はジョン・レノンとポール・マッカートニーによる完全な合作であります。
ツアーの移動中に遊びで書かれた曲というから驚きです。
イギリスでは当然のごとくチャートの1位を獲得しました。
アメリカでは弱小レーベルからの発売であったために振るわず最高116位に終わります。
ただし、1964年にアメリカで「ビートルズ旋風」が起きたときにもう一度リリースされました。
「プリーズ・プリーズ・ミー」のB面になり、初期のビートルズの代表曲として浸透します。
情熱的なラブソングの正体は
実はファンへの感謝の歌
If there's anything that you want
If there's anything I can do
Just call on me and I'll send it along
With love from me to you
出典: フロム・ミー・トゥ・ユー/作詞:Lennon=McCartney 作曲:Lennon=McCartney
初期のビートルズに多いジョン・レノンとポール・マッカートニーによるデュエットです。
ラブソングのようなのは見かけだけ。
和訳して解説いたします。
「君が欲しいものがあって
僕にできることあるならば
僕を呼んでね
僕は君が望むものを贈るよ
僕から君へ愛を込めてね」
原詩では「it」で済まされてしまう箇所を日本語として分かりやすくなるように訳出いたしました。
気前がいい男性の姿が描かれています。
ただ、読んでいただいてお分かりのように何となく漠然とした印象がする歌詞です。
それもそのはずでジョン・レノンとポール・マッカートニーはラブソングを書きたかった訳ではありません。
彼らが書きたかったのはリスナーやファンへのサンクスレターのようなものだったのです。
日頃から熱心にライブ会場に足を運んでくれるファンやレコードを購入してくれるリスナーに宛てた歌詞。
とはいえビートルズはレコード・デビューからスタート・ダッシュで大スターになってしまいました。
ロックンロールの新しいスターであると同時に新時代のアイドルです。
実際には手の届かないスターになります。
しかしデビュー前は小さなクラブでも演奏していましたからファンとの距離について色々と考えていたはず。
大スターになってもリスナーにとって身近な存在でありたいと願っていたのでしょう。
ファンやリスナーへの献身的な姿勢が歌詞の随所に現れます。
歌詞の中の「君」はファンやリスナーへの呼びかけです。
「君」のためには何だってするという歌詞はリスナー第一主義の表現なのでしょう。
デビュー直後、前途洋々な彼ら
様々な希望に満ちていた幸福な時代
I got everything that you want
Like a heart that's oh, So true
Just call on me and I'll send it along
With love from me to you
出典: フロム・ミー・トゥ・ユー/作詞:Lennon=McCartney 作曲:Lennon=McCartney
ファンやリスナーへのアピールはまだまだ続きます。
歌詞を和訳して解説いたしましょう。
「僕はすべてを持っている
君が欲しがるものはね
とても真摯なこころのようなものをね
すぐ僕を呼んでくれたら
僕は君が望むものを贈るよ
僕から君へ愛を込めてね」
音楽家がファンやリスナーに贈れるものはいいステージやいい音楽だけです。
常にベストを尽くしていい楽曲を届けることくらいしかできることはありません。
それだけでファンやリスナーは満足いたします。
ビートルズはこうしたファンやリスナーとの「約束」を忠実に果たしてきました。
とはいえ、遅くない時期にライブ活動は休止してしまうのです。
またビートルズ自体がいずれ解散します。
「フロム・ミー・トゥ・ユー」はまだまだビートルズの3作目のシングルです。
滑り出しから大成功で目下、前途洋々でした。
この頃、メンバーには色々な希望があったはずです。
斬新な音楽への貪欲な挑戦と市場での成功を両方とも見据えていました。
そのために日々、自分たちの音楽をブラッシュアップさせていたのです。
「君」に不満を覚えさせないと約束
優れた音楽でアイドルでもある
I got arms that long to hold you and keep
You by my side
I got lips that long to kiss you and keep you
Satisfied
出典: フロム・ミー・トゥ・ユー/作詞:Lennon=McCartney 作曲:Lennon=McCartney
歌詞を和訳して解説いたしましょう。
「僕には君を抱きしめるための
長い両腕がある
そして僕のそばに君を置くのさ
僕には君にキスするための大きな唇があるんだ
君を満足させ続けるよ」
ビートルズは容姿にも恵まれていました。
音楽性も高く評価されていますが、一方でポップ・スターというアイドル的要素もあったのです。
いわゆる「イケメン」が揃っていました。
二枚目俳優などには敵わないのですが不良少年上がりのロック・バンドとしては顔立ちが整っています。
ローリング・ストーンズにもブライアン・ジョーンズのような容姿端麗な人物がいました。
しかしボーカルのミック・ジャガーはセクシーではあれ、アイドル的な容姿ではありません。
ビートルズはアイドル的資質があったために当時の不良少年からはあまり評価が高くない傾向があります。
この点での両者の違いがライバルとしての比較対象になりえました。
どちらも偉大なロック・バンドです。
資質の違いを分かった上で両方とも評価するのが最善でしょう。
「フロム・ミー・トゥ・ユー」のこの箇所の歌詞はビートルズが主体的にアイドルを演じた証拠です。
自分たちの商業的な魅力を分かりきっていたのでしょう。
愛することをここまで直截的な表現をしても問題にならなかったのは彼らのアイドル的資質ゆえです。
また「君」への約束として決して不満を感じさせないことを誓います。
このラインは「君」、つまりファンやリスナーへの約束でもあるのです。
実際にビートルズは音楽ファンを裏切ることなく、むしろ新鮮な驚きを届け続けました。
また細かなことですがこの箇所の冒頭の「Gm7」というコードをポールは自慢します。
普通ではないコード進行を書けたことが彼らにとっては前進の証でした。