1分近くあるイントロは、ウィスパーボイスのハーモニーが彩る幻想的な雰囲気。
思わずまどろんでしまうような、ボーっと情景が浮かんでくるイメージに仕上がっています。
こういった曲の幕開けになっているのも、映画からインスピレーションを受けたものだからこそではないでしょうか。
ゆったりと感傷に浸れる
メロに入ってからはストリングスとピアノを主体にした、アコースティック感の強い柔らかなサウンド。
ゆったりと構えて歌う安藤の歌声も優しく、曲を聴いている間時間の流れが緩やかになるような、穏やかな気持ちにさせてくれます。
サビでは壮大な広がりを見せるバックに、穏やかながらも切なさを感じさせるメロディを展開。
構成自体は王道。でもだからこそ、安藤裕子の捻らない歌の魅力をじっくりと堪能出来るのでしょう。
イントロに続いてアウトロも1分以上。
約7分に渡る長編のバラードですが、聴きながら感傷に浸るには丁度良く、なるべくしてこの長さになったのだなと感じさせられますね。
歌詞を解釈!良くないとわかっていても離れられないのは?
ここから「海原の月」の歌詞を解釈していきます。
安藤裕子本人も言っていたように、この歌詞の意味は断言出来るものではなく、捉え方によってその解釈は様々です。
ここでは映画を参考に、主人公であるイサオと幸江の関係を念頭に置いて解釈していくこととします。
幸江が典型的なダメ男のイサオと一緒に居ることは、冷静に考えれば関心出来ることではありません。
「一緒に居るのは良くない」とわかっていても離れられないのはどうしてなのか。
その理由が歌詞の中に表れているように感じました。
夕日を背に強く惹かれ合う二人
翳るような私の背中を 抱き寄せてあなたは泣いた
導くように強く手を握り 夕闇に光るアスファルト
出典: 海原の月/作詞:安藤裕子 作曲:安藤裕子
冒頭で難しい漢字が使われていますが、「翳る」は「陰る」と同じ意味。
夕日に照らされ、陰の浮かび上がった主人公の背中を彷彿とさせます。
彼女を抱き寄せた彼が泣いているのは、別れが理由でしょうか。
「別れなければいけない理由があるけれど、本当は別れたくない」
強く惹かれ合う二人から、そんなことを感じさせられます。
キスをするのをためらったのは…
ためらってキスをして 私は拒めないよ
うつむいて離さない そう誓って
想い出が夢の様に二人の色強めて
つないだ手を離せずに願った
出典: 海原の月/作詞:安藤裕子 作曲:安藤裕子
キスをするのをためらったのも、二人は一緒に居ない方が良いという気持ちがあるからでしょう。
そうはわかっていても主人公が拒めないのは、彼のことがやっぱり好きだから。
二人の間に複雑な事情があろうとも、好きな気持ちに変わりはないのです。
好きだという気持ちは、理屈で測れるようなものではありませんよね。
そしてキスを交わせば、離れたくないという想いも強まっていきます。
今まで寄り添って来たその思い出の数々が過り、二人を強く繋ぎとめるのです。
別れを目の当たりにすると、今までの思い出が蘇って寂しく感じる瞬間ってありますよね。
その感覚はまるで「まだやり直せるかもしれない」と運命が問いかけてくるかのようです。
彼への想いが確信に変わる瞬間
抱きしめて そしてキスをして
ありがとうと そう手をふるけど
動けない だって目の前にあなたがいる
私を見つめていたから
出典: 海原の月/作詞:安藤裕子 作曲:安藤裕子
キスを交わした時間でお互いの絆の強さを思い知らされた二人。
そこに突き付けられるのは「別れなければいけない」という事実です。
手を振ることでその形だけを取る主人公ですが、それとは裏腹にその場を離れることが出来ません。
それは、誰よりも強い絆で結ばれた彼が目の前で自分を見つめていたから。
主人公を見つめる彼の真剣な表情が、彼女が薄々感じていた「離れられないんじゃないか」という気持ちを確信に変えたのです。
歌詞はこの後繰り返しになるので、この後二人がどうなったかはわかりません。
しかし、きっと二人はここからやり直すことを選ぶのではないでしょうか。
例え別れなければいけない理由があっても、それを強制する権利は誰にもありません。
二人の絆の強さがあればきっと別れなければいけない理由も、乗り越えて行けるのでしょうね。