あいみょんの表現者としての誠実な姿勢
大切な人も恋も愛も
性も、どうしよう
いつまでたっても守りきれないよ
いつかは消えてしまう
出典: あした世界が終わるとしても/作詞:あいみょん 作曲:あいみょん
喪失感を心に抱える“僕”はさらなる喪失に怯えているのでしょう。
これ以上大切なものを失いたくない。
だから自分でも気づかぬ内に大切に思う対象を作らないようにしてしまう...。
とてもあいみょんらしいのが丁寧に恋・愛・性を切り離して表現するところです。
これらを同一のものとして表現することで綺麗に取り繕うこともできたでしょう。
あいみょんの表現者としての誠実さを感じると同時に多くの共感を呼ぶであろう箇所です。
やはり僕は1人では
抱えきれないものばかりで
強くなれない身体に
強さを求めて
出典: あした世界が終わるとしても/作詞:あいみょん 作曲:あいみょん
アニメ作品の『あした世界が終わるとしても』で主人公はある残酷な世界の成り立ちを知ることとなります。
櫻木監督とあいみょんが物語を通して表現したかったのは子どもから大人への成長、つまり通過儀礼です。
楽曲のBメロで世界の残酷さと正面から向き合った“僕”は自身の無力さを自覚します。
絶望にも似た感情に襲われたことでしょう。
その中でようやく囚われていた心を解放し大人になることへの希望を見出すのです。
Bメロの最終章、サビに向けて徐々に明るく開かれたメロディへと駆け上がっていきます。
弱い僕だけど君だけは
この頼りない翼広げて
迎えに来たんだよ
会いに来たんだよ
今はまだ飛べない鳥だけど
最低でも、君だけは守れるように
最低でも、君だけは守れるように
出典: あした世界が終わるとしても/作詞:あいみょん 作曲:あいみょん
弱さを自覚して初めて大切なものを受け入れることができた“僕”。
しかし成長はすぐには訪れません。
ならばどうしたら大切なものを守ることができるのか?
“僕”は考えるよりも先に“君”の側に駆け寄ります。
Cメロ(サビ)のラストに2度繰り返されるのが“僕”の覚悟です。
大切なものはどんなことをしても必ず守ってみせる。
しかしその中に“僕”自身を守ることは含まれていないのです。
その自己犠牲とも取れる覚悟はその後のDメロへと引き継がれていくのですが...。
それは後ほどの話ということで2番のAメロに続きます。
2番に発揮される黒あいみょん
シニカルな視線
憂鬱なモーニング
それとスローに変わり始めた
いつまでたっても笑えないなぁ
世界が腐りそうなんだ
出典: あした世界が終わるとしても/作詞:あいみょん 作曲:あいみょん
筆者が1番あいみょんの魅力を感じるのはいつも2番のAメロです。
あいみょんの敬愛する小沢健二イムズともとれるシニカルで怠惰な表現。
この既視感は『生きていたんだよな』や『愛を伝えたいだとか』に通じる感覚です。
筆者は勝手に“黒あいみょん”と名付けています。
聞き飽きた悲しい物語
悲しい物語なんて
幼い頃に聞き飽きたよ
優しい誰かの囁きで
涙が出た 今
出典: あした世界が終わるとしても/作詞:あいみょん 作曲:あいみょん
続く2番のBメロで“僕”の口を通して語られるのは“黒あいみょん”の本音です。
『いつまでも』という楽曲で語られていた既存の「泣けるポップソング戦略」への批評。
映画のタイアップ、かつ“僕”という他人の視点で制作された『あした世界が終わるとしても』。
それにも関わらず滲みだしてしまうのがあいみょんの個性なのです。
一方でアニメ作品での真及び他のキャラに重ね合わせても物語から決して逸脱はしていません。