「見っけ」でロックを聴こう
2019年10月9日発表、スピッツの通算16作目のオリジナル・アルバム「見っけ」。
タイトル・チューンの「見っけ」から始まるこのアルバムは前作「醒めない」同様にロックの薫りがします。
ロックの次にはロックが来るのではないかという草野正宗の思いをパッケージングしました。
ロックとはいってもスピッツのサウンド・メイキングを経ています。
そのため往年のBIG STARやBadfingerなどが位置するパワー・ポップの様相を呈しているのです。
しかしフルートを導入してカンタベリー・ロックのような趣にした楽曲もあります。
この記事ではアルバム「見っけ」の全曲を解説します。
音楽面だけではなく草野正宗の歌詞の世界も全曲紹介しましょう。
2019年に発表されたJ-POP・J-ROCKの中でも屈指の名盤になりました。
多くの方にこの記事が届くことを願います。
それでは1曲目から聴いてみましょう。
1曲目「見っけ」
スピッツのロックアルバムの幕開け
このギターの音色がアルバム「見っけ」の方向性を指し示しているでしょう。
草野正宗の歌唱も歌詞も忙しないものです。
スピード感に乗って音楽も歌唱もすべて押し切るような印象があります。
歌詞の中にはオジー・オズボーンでギターを弾いていた故ランディ・ローズへの言及もあるのです。
パワー・ポップとはいえ結構な尖り方かもしれません。
歌詞を見ていきます。
流星のスピード感で再会しよう
再会へ!消えそうな 道を辿りたい
すぐに準備しよう
人間になんないで くり返す物語
ついに場外へ
どんな魔法も手をたたいて 笑った
そんな君を見っけたのは まだファンタジー?
再会へ!流星のピュンピュンで 駆け抜けろ
近いぞゴールは
出典: 見っけ/作詞:草野正宗 作曲:草野正宗
冒頭から難しい歌詞を贈ってくれるのが草野正宗らしいでしょう。
とにかく歌いたいことは君との再会、つまり「見っけ」という思いのことです。
ここでの君とはリスナーのことと解釈した方がいいでしょう。
前作のアルバム「醒めない」から3年もファンは待たされました。
ファンを待たしていたという思いをスピッツも持っているのかもしれません。
冒頭の楽曲で再会を祝います。
人間になることを回避するような叙述があるのが罠でしょう。
輪廻転生の輪からはぐれて違うものになろう。
そうすれば人間という制約から放れてゴールまで近道ができると歌うのです。
どれほど再会を願っていたかをこうした歌詞で表現しました。
流星の傍を駆けてゆくスピード感こそがアルバム「見っけ」の鍵かもしれません。
アルバムの冒頭に相応しい楽曲です。
2曲目「優しいあの子」
スピッツ流のカントリー・ミュージック
説明不要の名曲かもしれません。
NHK朝ドラ「なつぞら」の主題歌で耳に馴染みがいいでしょう。
「見っけ」のパワー・ポップからカントリー・ミュージックのような趣になります。
スピードダウンするようですが未来へ希望を託すような楽曲ですから前向きなのは変わらないです。
北海道が舞台のドラマの主題歌ということもあり歌詞にアイヌ語を採用しました。
アイヌ語には文字がないのですが現代日本語表記に合わせています。
アイヌや沖縄について真摯に考えてゆく必要が私たちにはあるはずです。
辺境の地の人々を狩ったり奪ったりした先に何があるのかを見定めなければいけません。
草野正宗自身は奪われてゆく言葉を歌詞の中に留めました。
その歌詞を見ていきましょう。
麓の集落までの遠い旅路で
口にする度に泣けるほど 憧れて砕かれて
消えかけた火を胸に抱き たどり着いたコタン
芽吹きを待つ仲間が 麓にも生きていたんだなあ
寂しい夜温める 古い許しの歌を
優しいあの子にも聴かせたい ルルル…
出典: 優しいあの子/作詞:草野正宗 作曲:草野正宗
カタカナ表記の「コタン」がアイヌ語です。
集落という意味を持ちます。
そうなるとここのラインでは壮大なドラマがあったのだなとびっくりするでしょう。
自分の土地、おそらく山間を離れて麓のコタンにたどり着けました。
北海道ですから暖を取ることが肝心でしょう。
冬の間に移住を決めて春に麓のコタンにたどり着いたのです。
アイヌ民族の集落と集落の間はそれほど距離があったのかもしれません。
旅の友はアイヌで伝わった古い歌なのでしょう。
旅情を感じる素晴らしい歌詞です。
多くの人の支持を獲てオリコン・シングル・チャートで最高2位を獲得しました。