自分らしさを取り戻す
貫いてこの心を
思い切り突き刺して
火照ったままで
知らぬふりはもうやめて
暇つぶしには飽きたのよ
纏ったビニールを脱がせたいの
お前の思惑から
無邪気に抜け出して
“さよなら、愛を込めて”
出典: Vinyl/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
ストレートな解釈をすると、非常に大人っぽい意味になりますね。そう匂わせているワケです。
しかしビニールは「自分を覆っている殻」や「偽りの仮面」と解釈することもできるでしょう。
つまり「ビニールを脱ぐ」とは「自分らしさを取り戻す」ということになります。
映画「ヴィニルと烏」のいじめに打ち克つ!というテーマを踏まえるとわかりやすいでしょう。
ビニールを脱ぎ捨て、自分らしく生きよう!というメッセージ。そう受け止めることができます。
しかしまとわりついたビニールは、そう簡単に脱ぎ捨てることができないのかもしれません。
歌詞でも、ビニールを脱ぎ捨てる手伝いをしてほしいと願う様子が描かれています。
そんな願いに応えようとする存在。
心の叫びに反応してくれたのはいったい誰なのでしょうか。
遊びがない?
気の済むまで
暴れなよ
哀れだろ?
むしゃくしゃするぜ
喧騒に上がる煙に
飛び込んでいくだけさ
「遊びがないの、あなたには」
なんて適当に言葉侍らせて
喧騒に上がる煙に薪をくべろ
出典: Vinyl/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
歌物語としては、引き続き大人っぽい男女のやりとりが展開されています。
恋愛や人柄に遊びがある、遊びがない……といった表現をすることもあるでしょう。
大人っぽい女性が生真面目な男性に対して「遊びがない」と言っているようです。
もちろん男女の恋愛物語になっているという大前提はあります。ただそれだけではありません。
初めて「Vinyl」のイントロの変拍子を聴いて、ズッコケた方もいるのではないでしょうか。
何とおもしろい音遊びでしょう。キングヌーは遊びだらけのおもしろい音楽を貫く!という宣言。
そう独自解釈しました。
特に歌詞前半はまさにキングヌーの宣言であり、リスナーを誘い込んでいるようにみえます。
自分たちはおもしろい音楽を、そして遊び心を詰め込んだ音楽をやり続ける。
だからそんな音楽に、好きなだけ浸ってみなよ。
思わず身体が動き出すような独特のリズム。そして人々を誘惑するサビのフレーズ。
日常生活を送るうえで被っている殻を脱ぎ捨て、日々の嫌なことを忘れるように…。
音に合わせて気の向くままに騒いでみないかい?と誘ってくれているようにも聴こえますね。
さらに続く後半部分の歌詞は、まだキングヌーの音楽に気がついていない人たちを煽っているようにも見えませんか?
「遊びがない」はすなわち「つまらない」ということ。
この音楽を知らないなんて…。この楽しさを感じたことがないなんて…。
そんな人生つまらないじゃない。
そう煽り立てて、キングヌーの音楽に酔いしれる仲間たちを増やしているのかもしれません。
騙し騙し生きて行く!
軽やかなステップ?
今日も軽やかなステップで
騙し騙し生きて行こうじゃないか
真っ暗な明日を欺いてさ
誰に向けたナイフなの?
何に突き動かされてる?
苦しいだけの“現実”はもう止めて
“さよなら、愛を込めて”
出典: Vinyl/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
ベースの新井和輝さんとドラムの勢喜遊さんは音楽的ルーツがブラックミュージックだそうです。
そのため歌謡曲っぽい歌物語なのに、むちゃくちゃおもしろいリズムだらけになっています。
これこそが「軽やかなステップ」!メロディーも実際に歌おうとすると非常に難しいです。
歌謡曲みたいに見せかけて、実はおもしろい音遊びだらけ!……これが騙すということ。
さらに音楽愛に突き動かされている!というキングヌーのバンドとしての姿勢も伝わってきます。
遊びきろう!
息を吸いなよ
この街の有り余るほどの空気を
焦れったいビニールの中から
ストリートへ抜け出たなら
遊びきるんだこの世界
喧騒、狂乱に、雨あられ
掻っ攫ったもん勝ちでしょ?
出典: Vinyl/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
また「Vinyl」のリスナーに対しても自分らしく思いきり生きよう!と呼びかけています。
それが「ビニールから抜け出して遊びきる」ということ。ビニールの中では息がつまるでしょう。
深呼吸すると息のつまった状態から脱して、自分を取り戻せそうですね。
素の自分に戻ったなら怖いものなどありません。
ビニールの中身は、鳥という強者に食われる日を待つだけの弱者でした。
そんなビニールの中にある空気と、外にある空気ではきっと味わいも全く異なることでしょう。
それを吸えるようになったということは、これまで見えていなかった世界に興味を向けられるようになったことを示します。
ビニールの外にはこれまで見たこともない、聴いたこともない、感じたこともないものが広がっています。
少しの勇気をもって殻から飛び出してみれば、こんなにも素晴らしい世界が待っている。
遊び方がわからないなら僕たちが音で導いてあげよう。
そんな風に、キングヌーからのご招待を受けたような気持ちになりますね。
ナイトクラブと決別?
歌モノロックを目指す
“さよなら 愛を込めて
思いの丈を着飾って
どんちゃん騒ぎの
ナイトクラブから”
“さよなら 愛を込めて
思いの丈を着飾って
繋いだその手は離さないで”
出典: Vinyl/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
キングヌーはツインボーカルです。親しみやすく、変幻自在の声を操るのが井口理さん。
音楽に学歴は関係ないとしても、さすが東京藝術大学で声楽を学んだ方だなあ……感心します。
これまでのメインは井口理さんでしたが、この部分は自称ダミ声の常田大希さんがメインです。
いずれもコーラスはあるわけですが……。この辺りの層の厚さもキングヌーの魅力でしょう。
男女の恋愛物語という意味では、純粋に「ナイトクラブから抜け出そう!」という展開です。
しかし歌のないクラブミュージックではなく、歌モノロックを目指す!とも解釈できます。
さらにこれまで歌われてきた「自分自身の殻を破って飛び出す」というテーマに沿って考えてみると…?
これまでのつまらない自分へ、正式にお別れを告げているようにも感じられませんか?
ここで冒頭の疑問が解消するわけです。
ビニールを脱がしてあげたい。そう意気込んでいたのは他でもない、自分自身でした。
不思議な関係性ですが、ビニールを被っていたあの頃も、ビニールを突き破って飛び出したいまも…。
どちらも自分自身に変わりありません。
だから「愛を込めて」別れを告げるのです。
これはつまり、過去の自分に対して敬意を払えるほど精神的に余裕があるということ。
さらにこうして敬意を払うことを「着飾る」なんてお洒落に表現しています。
そう、ビニールたったの1枚でこれほどまでに人は変わるのです。
殻を破って飛び出すことはとても難しそうに見えて、実はそれほどまででもない。
そんなことを教えてくれているようにも感じられますね。