尾崎豊「傷つけた人々へ」
そのデビュー当時の年齢をタイトルに冠した『十七歳の地図』は、多くの10代の心を掴み今も多くの人に愛されています。
彼を取り上げる上では「大人への反抗」などといったワードが頻繁に使われますが、彼の魅力はそれだけではありません。
彼の作る歌詞には、彼なりの優しさが含まれているのです。
今回はそんな彼の優しさを目一杯感じることのできる、「傷つけた人々へ」の歌詞を解説していきます。
君と主人公の関係
君への気持ち
どれだけ言葉費し 君に話したろう
どんな言葉でも言いつくせなかった事の答も
ひとつしかないはずと
出典: 傷つけた人々へ/作詞:尾崎豊 作曲:尾崎豊
主人公は「君」に対してどんなことを話したのでしょうか。
1行目で多くの言葉を使ったということが語られていることから、これはそれだけ大事なことであると分かります。
そして、2行目ではそれでも語り尽くせないという事実も記されているのです。
このことから何か抽象的な事柄についてだと解釈することができます。
これは主人公の気持ちを表していると考えられるのではないでしょうか。
つまりここでは主人公が自分の気持ちを言語化しようとしているけれど、うまく言い表せないことを意味しているのでしょう。
彼は「君」に対して今まで言葉を用いて自身の気持ちを伝えようとしてきた。
しかしそれでも上手く伝えきれなかったのでしょう。
3行目の言葉は、その気持ちの先にある答えが1つしかないことを表していると考えられます。
この答えというのは2人の関係性に影響するものなのでしょう。
その答えに達するまでの過程を言語化できないけれど、彼の中では2人の関係がどんな結末を迎えるか答えを出している。
それは即ち、2人の別れを意味しているのではないでしょうか。
心の変化
時の流れに心は変ってしまうから
そして いったい何が大切な事だったのかすら忘れさられてしまう
出典: 傷つけた人々へ/作詞:尾崎豊 作曲:尾崎豊
この歌詞部分によって、2人の別れは主人公の心変わりが原因であると解釈することができます。
彼がその心変わりを「君」に伝えたことで、彼女は深く傷ついたと推察できるでしょう。
今まで仲睦まじく、同じ時間を共有していた2人が時が過ぎてその関係性に自然とひびが入っていく。
日常を送る中で、いろいろなものが変わっていってしまうのは致し方がないことです。
しかし主人公は、自分で別れを切り出しながらもそのことにある種の切なさを感じているのでしょう。
2行目にはその切なさが端的に記されています。
今まで大切にしていたものさえ、いつか気持ちの変化によって大切ではなくなってしまう。
「君」との別れによって、彼はそんなことを考えているようです。
主人公の本心
不器用な主人公
刹那に追われながら 傷つく事 恐れる僕は
あの日見つけたはずの真実とは まるで逆へと歩いてしまう
出典: 傷つけた人々へ/作詞:尾崎豊 作曲:尾崎豊
1行目の言葉が表しているのは、今という瞬間を懸命に生きる主人公の姿です。
傷つきたくないという想いから、自分の本当の気持ちを蔑ろにしてしまう不器用さが表されています。
2行目の「真実」という言葉は、主人公の気持ちと関係していると考えられるでしょう。
それは自分の意志を意味しているのかもしれません。
しかし主人公は自分の意志を他者との関係の上で自身が傷つかないようにと捻じ曲げてしまう。
彼は自分自身に嘘をつくことによって、他者との距離を保とうとしていると考えられるでしょう。
自分と向き合う
僕をにらむ君の瞳の光は 忘れかけてた真心 教えてくれた
この胸に今刻もう 君の涙の美しさにありがとうと
出典: 傷つけた人々へ/作詞:尾崎豊 作曲:尾崎豊
しかし、彼は「君」との別れによってその自分の本当の意志を取り戻すことができた。
それは「君」が主人公に対して真っ直ぐに向き合ってくれたからなのではないでしょうか。
自分の意志に嘘をついてきた彼に対して、傷つくことを恐れずに向かってきてくれるその人。
その存在によって本来の自分を取り戻そうとしています。
そして、2行目の歌詞ではそんな彼女の目に光る涙が彼の心を深く突き動かしたことが分かるでしょう。
その感謝の言葉は真摯に自分と向き合ってくれた「君」に対してのものだと考えられます。
彼が彼女に感謝するのは、前述したように元の自分を取り戻すきっかけをもたらしてくれたからなのでしょう。
この別れが彼にとっては転機となったのだということが分かる歌詞パートです。