今夜で 別れと知っていながら
シャワーを浴びたの哀しいでしょう
出典: 外は白い雪の夜/作詞:松本隆 作曲:吉田拓郎
赤裸々な言葉に驚きます。
いつものようただ愛しあう可能性を心の隅では最後まで信じていたかったのでしょう。
身を清潔にして彼と向かい合いたい。
女性の心模様を機敏に描く松本隆の作詞が見事です。
サヨナラの文字を作るのに
煙草何本並べればいい
せめて最後の一本を
あなた喫うまで 居させてね
出典: 外は白い雪の夜/作詞:松本隆 作曲:吉田拓郎
この表現も素晴らしい。
別れ話を切り出しかねる男性が所在なく何本も煙草を燻らす情景が目に浮かぶようです。
どうしてこうも松本隆の作詞は視覚にも訴えるのでしょうか?
これこそがイリュージョンのチカラなのでしょう。
そして別れ話が終わるまではふたりで仲良く一緒にいたい。
嫌いになって別れるなら、すぐに席を立つ場面になるはず。
お互いを想いあって生きてきたふたりだからこその美しい別れのシーンです。
当時は詩的な光景が日常にありました。
思いを伝えるのは会うか電話か手紙ですし、その電話はプッシュ式ではなくダイヤルでした。
「ダイヤルを回す」方が「電話番号を押す」より情緒を感じます。
タバコも別れのシーンには必要なアイテムで、ゆっくりと揺れる紫煙が心の揺れを表したものです。
現代のように「店内完全禁煙」とか「灰皿はありません」というクールな健康志向は悪いことではありません。
でもそれが「詩的」かというと少し違うと感じてしまいます。
画期的な話法の歌詞
映画的な別れのシーン
客さえまばらなテーブルの椅子
昔はあんなに にぎわったのに
ぼくたち知らない人から見れば
仲のいい恋人みたいじゃないか
女はいつでも ふた通りさ
男を縛る強い女と
男にすがる弱虫と
君は両方だったよね
だけど Bye-bye Love
外は白い雪の夜
Bye-bye Love
外は白い雪の夜
出典: 外は白い雪の夜/作詞:松本隆 作曲:吉田拓郎
話者が女性から男性に戻ります。
この画期的な話法はひとつの発明でしょう。
ふたりが初めて出会った頃はにぎやかだった店も、別れ話をする今日は閑散としている。
想い出の店がしていることが別れ話のさびしさに輪をかけるようです。
ふたりの姿は傍目から見ればまだまだ仲のいいカップルのようだろうと彼は笑ってみせます。
それでも別れの日です。
店のテーブル、椅子などが聴く者の脳裏にイメージとして鮮烈に焼き付きます。
やはり映画的なワンシーンです。
松本隆の観察眼
女はいつでも ふた通りさ
男を縛る強い女と
男にすがる弱虫と
君は両方だったよね
出典: 外は白い雪の夜/作詞:松本隆 作曲:吉田拓郎
松本隆の人間を見つめる観察眼のすごさをこのラインから感じます。
別れ話のときに相手を揶揄する言葉を投げるのは野暮な気もするのですが、指摘がいちいち的確です。
今の時代ならば女性はもっと強くなっていますから、彼につもりつもった想いを言い返すかもしれません。
ただ、この時代は1978年、つまり昭和53年です。
今ほど女性の社会進出が進んでいなかった時代。
男性と女性の間には様々な格差が横たわっていました。
当時の日本はもがいていました。
1970年頃まで続いた全共闘運運動、いわゆる学生運動が一部の過激派による暴走によって衰退していきます。
日本を変えようと意気込んだ学生たちも、社会の一員となるべく就職活動に励みつつ、そのことを少し恥じていた頃です。
成田空港管制塔占拠事件があったのもこの年でした。
身近なところですとサザンオールスターズがデビューし、キャンディーズが解散したのも1978年です。
そんな時代背景を考えるとふたりは学生運動で知り合い共感を覚えたカップルなのかもしれません。
そしてその終息と共にこの恋も終わるのです。
同じようなシチュエーションソングとしては「いちご白書をもう一度」などが挙げられます。
こらえきれない涙
美しい女性の涙
あなたの瞳に私が映る
涙で汚れてひどい顔でしょう
最後の最後の化粧するから
私を綺麗な想い出にして
席を立つのは あなたから
後姿を見たいから
いつもあなたの影を踏み
歩いた癖が直らない
だけど Bye-bye Love
外は白い雪の夜
Bye-bye Love
外は白い雪の夜
出典: 外は白い雪の夜/作詞:松本隆 作曲:吉田拓郎
話者が再び女性になります。
彼女は別れ話に耐えきれずに泣いてしまったようです。
最後の想い出
最後の最後の化粧するから
私を綺麗な想い出にして
出典: 外は白い雪の夜/作詞:松本隆 作曲:吉田拓郎