どこで何をしてても
心ここにあらずの状態です
The bottom of the sea

出典: Pool/作詞:KYOtaro 作曲:KYOtaro,Mori Zentaro

こちらのフレーズは2番のAメロのラップパートからの抜粋です。

まるで“海の底”にいるような気持ち、つまり暗く落ち込んだ精神状態を表しています。

水中で人は自由に身体を動かすことのみならず呼吸をすることもできません。

夕闇のような色彩空間で佇むSIRUPは海底に沈みゆくような心地に陥っているのです。

この水中を模したであろう空間は一見すると1人暮らし男性のシンプルな部屋に見えます。

革張りの1人掛け用ソファ、サイドボード、スタンドライトに観葉植物。

しかし繰り返し見続けると奇妙な細工が施されていることに気付きます。

不自然な長方形にくり抜かれた枠のない窓

倒れたままの花瓶、そしてスタンドライトに至っては奇妙な間隔で明暗を繰り返すのです。

親愛なる「Mr.Lonely」

Mr.Lonely Lonely Lonely Lonely
More and More

絡まったまま抜け出せない
無限の浮き沈み
Oh ahh
Oh ahh
どうかこのままでいいと

出典: Pool/作詞:KYOtaro 作曲:KYOtaro,Mori Zentaro

上手くいくときがあれば空回りばかりのときだってある

恋愛でも仕事でも人生は沈んでは浮き上がりの連続です。

リフレインされる「ミスター・ロンリー(孤独)」とは『Pool』が表現している人生観そのもの。

『Pool』の主人公は蜘蛛の糸に絡めとられたかのような状態を受け入れているように見えます。

ここで表現されている精神状態も『Pool』と『LOOP』の螺旋構造です

黄色と茶色の関係

SIRUP【Pool】MVの内容を徹底解説!黄色に茶色に紺色…色使いが美しい映像をチェックしよう!の画像

どうしても昨日が悔やまれてさ
うだうだして動けないSunday
諦めきれないけど
憂鬱と朝日の Yellow
それでも鳴り響くカウントダウン
3.2.1

出典: Pool/作詞:KYOtaro 作曲:KYOtaro,Mori Zentaro

海底のような濃紺の部屋から抜け出した先は一転して鮮やかな黄色で彩られた空間です。

その際のSIRUPの衣裳は茶色のレザージャケットにホワイトのパンツというスタイリング。

解放感に溢れるこの構図から読み取れるのは“太陽”と“大地”の関係性です。

黄色は“幸福”な気分を、そして茶色は“安定”を求める精神状態を表すといわれています。

つまりこの鮮やかな色彩空間が表現しているのは上向きな気分で心の安寧した状態です。

そして2番Bメロのラップパートでは明らかに“太陽”と“黄色”が結び付けられています。

ちなみにここでは紺色に関する記述も見受けられるのです。

憂鬱な気分を“ブルー”と表現することはよく知られています。

土曜の夜に抱いた後悔の念から落ち込んだ気分で迎えた日曜日の朝。

それでも陽は昇り1日が始まっていく。

そんな希望に満ちた一節です。

奇妙なレイアウトが表すこととは?

SIRUP【Pool】MVの内容を徹底解説!黄色に茶色に紺色…色使いが美しい映像をチェックしよう!の画像

ここからはMVに登場する奇妙な仕掛けについて考察していきましょう。

『Pool』と対になる楽曲『LOOP』のMVでは小物を用いたトリックが重要な要素を持っていました。

まず注目したいのが薄暗い部屋を照らす様々な技術を用いたライティング

そして不自然な間隔で明暗を繰り返すスタンドライトです。

SIRUPはラストシーンまで部屋のソファから立ち上がりもしません。

さらに室内でのSIRUPの衣裳は漆黒のジャケット&紺色のパンツで色調が部屋と統一されているのです。

ベージュのカーペットと茶色のソファ、観葉植物など部屋の調度品は決して暗くはありません。

しかし絶妙なライティングにより不思議と深海にいるような雰囲気が醸し出されています

深海に差しこむ太陽光線

SIRUP【Pool】MVの内容を徹底解説!黄色に茶色に紺色…色使いが美しい映像をチェックしよう!の画像

部屋のセットの上部から照らしているであろうライティングは様々な技法が施されています。

広角で全体を照らすもの、レーザーのような細い光、壁全体に揺らぎを表現するもの...。

緻密な計算の上で照らされる光はまるで深海に差す太陽光線です

またMVの1分30秒頃に長方形の窓?の外には雷鳴のような光が轟いています

すると外の光と共鳴するように部屋全体を照らすライトも明暗の強弱が激しく動き出すのです。

MVも終わりに差し掛かる2分50秒頃、再び窓の外に変化が訪れます。

差し込むのは朝日のような眩い光です

目も眩むような光に誘われてようやくSIRUPは席を立ち窓に向かいます。

倒れたままの花瓶が想起させるデビッド・リンチ的世界観

SIRUP【Pool】MVの内容を徹底解説!黄色に茶色に紺色…色使いが美しい映像をチェックしよう!の画像

もっとも奇妙かつ絶妙な配置でレイアウトされているもの。

それはサイドボードの上の倒れたままの花瓶です。

クリスタルガラスのように美しくカッティングされた断面をした花瓶。

ここに一輪の花でも挿したらさぞ華やかで安らぎに満ちた空間設計になることでしょう。

しかし花瓶は空で倒れたまま放置されています。

それにも関わらずカメラは執拗に画面の中央に花瓶の姿を捉え続けるのです。

SIRUPのMVにはしばしばこのようなデビッド・リンチ的演出がなされます。

おそらくこの花瓶こそ『Pool』の主人公の心の内を表しているのでしょう。

花が挿されていないのは心が空虚だから。

そして倒れたままの花瓶からは主人公の思考が駄々洩れになっているのです。