わたしとの別れを前にして泣いている君。
そんな君に、わたしは優しく歌いかけます。
何度でも想いを届けに来ると。
だから悲しまないでと語りかけるように。
「乗せて」と「乗って」の表現が異なることにも注目しましょう。
乗せて、は自分の声や作ったものを風に乗せて君に届ける。
風に乗って、は自分自身が風に乗って君に会いに来る。
そんなニュアンスの違いを感じます。
時には歌や作ったものを送って、時には自分自身が風に乗って。
必ず会いに来るから心配しないでと語りかけるのです。
Cocco自身、歌以外にもアパレル制作や絵本の制作など幅広い活動を行っています。
歌手として表舞台で会えなくても作品を届ける、そんな意味にも受け取れる一節です。
悲しく笑うあなたへ贈る想い
悲しい笑顔の真意とは?
どうしてどうして
悲しく笑うの
出典: 海に咲くばらのお話/作詞:Cocco 作曲:Cocco
ここでひとつめのテーマである「悲しい笑顔」について読み解いてみましょう。
重い荷物を下ろし、今までに感謝するわたし。
わたしは、遠からず生命を終えようとしているのだろうと感じられます。
そして、悲しく笑う君もそのことを感じているのでしょう。
おそらくは大切な伴侶どうしであるふたり。
わたしを遠からず失う君は悲しいはずなのに、なぜ笑ってみせるのでしょうか。
温かい愛情で繋がれているふたりです。
笑うのは自分のためではなく、相手のためなのではないでしょうか。
死にゆくわたしに対して、安心させようと笑ってみせる。
そんな姿が読み解けます。
一般的に死ぬことや別れは怖くて悲しいもの。
だからこそ安心させようと、自分の辛い想いを抑え込んで相手のために笑ってみせる。
悲しい笑顔の奥には、そんな真意が隠されているのです。
穏やかにくり返す在り方
目覚めて満ちて干いて
ただそれだけのこと
ただくり返すだけ
出典: 海に咲くばらのお話/作詞:Cocco 作曲:Cocco
君がわたしのために笑ってくれることを、わたしはわかっているのでしょう。
けれど、わたしにとって死は恐ろしいことではないのです。
目覚めるように生まれ、海の波が満ちて引いていくように生きて死んでいく。
ただそれだけの、自然のままのことです。
それをくり返すだけ。
今まであらゆる生命がそうしてきた道をたどるだけだと。
わたしもまた、君を安心させようと笑うように歌います。
そして、それこそがわたしの得た「死」への答えなのです。
静かにさよならを
最後の力で果たすこと
さよなら
呼吸を止めて
最後の力で
出典: 海に咲くばらのお話/作詞:Cocco 作曲:Cocco
さよなら、という言葉。
ここからも死や別れが目の前にあることが見て取れます。
最後の力で呼吸を止めるという表現からは、自らの意思でそれを受け入れたことが感じられます。
どんなことも終えようとするときにはやらなければならないことがあるもの。
人生の後片付けをして、最後の幕を自分で下ろす。
まるでそれを笑って受け入れるかのように、歌声は優しく響きます。
凪いだ海のように
特別
ひどくもないよ
凪いだだけさ
出典: 海に咲くばらのお話/作詞:Cocco 作曲:Cocco
凪という言葉は海の風が止まり、波が立たずに静まった状態を指します。
死の淵に、あるいは長い別れの前にいるわたし。
君はそんなわたしの心と体を心配するのでしょう。
痛くはないか、辛くはないか。
多くの人が大切な人を見送るとき、そう感じます。
けれどわたしは、ひどくはないのだと言うのです。
ただ静かに、凪いだ海のように穏やかになっただけ。
だから大丈夫だと、そう諭すようにも受け取れる一節です。